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【ブログ小説】ひとり10万円 3

公開日: : 最終更新日:2018/10/16 ショート連載, 著作 , , ,



 

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白状しよう。

 

 

貯金はそこそこあるが、その実は大した額ではない。500万程度だ。

 

 

それでも独身男のサラリーマンとしては堅実な方ではないか。時折、大きな買い物もするし、家電や家具は値段を気にしなかった。

 

 

家もそうだ。無理はしていないが、少しでも今の生活水準が下回れば忽ち圧迫するであろう家賃。持ち家でなく賃貸マンションなのが、今の俺の精一杯だ。

 

 

今の暮らしには不満はない。

 

 

このまま結婚を前提にした恋人でもできれば文句ないが、世の中、そう甘くはないものだ。

 

 

もう長い間恋人と呼べるような相手はいない。

 

 

独り身が長いせいで、この悠々自適な生活から離れるのもどうしようもなく抵抗がある。

 

 

結果、婚期が長引きに長引き、今に至っている。

 

 

回りくどいが、要は金の使うあてはない……ということだった。

 

 

 

俺の貯金通帳は現在、60万減っていた。

 

 

つまり、あれから4人も俺は救っていたことになる。

 

 

救急に繋がらない119番に6度もかけたのだ。我ながら酔狂の至りだ。

 

 

だが、ただ人を救ったわけではない。

 

 

自分なりにどこまでできるのかを試したかったのもある。

 

 

そのおかげでいくつか新たに分かったことがあった。

 

 

まず、電車の女子高生の時もそうだったが、死んだ時の状態は関係ないらしい。

 

 

どれだけぐちゃぐちゃになっていようが、焦げて炭なっていようが、土左衛門だろうが、関係ない。

 

 

『アレ』に10万払えば、元通りの姿に直して生き返る。

 

 

死んでいても、死の淵にいるのも同じだ。

 

 

しかし、死んでる相手といっても死んでから12時間ほどしか効力はない。それを超えると死をなかったことにはできないらしかった。

 

 

それに新たに驚いたこともある。

 

 

テレビやラジオ、インターネットなどで知った全く知らない赤の他人ですらも10万円でひとり救うことができるのだ。

 

 

これが発覚した時、俺は興奮して立て続けに3人も助けた。

 

 

沖縄と岐阜と宮城の人間だった。性別も年齢も覚えてはいない。

 

 

助けられたほうも俺に助けられたなどとわかるはずもないだろう。

 

 

なにしろ、どれも試しにやってみたところ成功したのだから。

 

 

最初はテレビのニュースだった。バイクと歩行者の事故。被害者は歩行者ではなく、歩行者を避けようとしたライダーだった。

 

 

意識不明の重体だったところを救った。

 

 

ネットニュースでトピックに上がっていたワンルームで変死体が発見されたというのもそうだ。

 

 

どれも助かったかどうか、どうやって分かったのか?

 

 

この目で確認したわけじゃない。ただ、あの電話に『払う』と言っただけだ。

 

 

翌日、通帳から無くなっている10万円を目にして、俺は確信した。

 

 

どこの誰かもわからないあの不幸な者たちは、今頃ピンピンして起き上がり家族や近親者を仰天させているに違いない。

 

 

まるで神様にでもなった気分だ。たった10万円で、どんな人間も救えるのだ。

 

 

60万円めの人間を救った夜、俺は興奮で震えて一睡もできなかった。

 

 

 

慣れてしまうと人間なんてものは、「重要なもの」に対して疑問に思わなくなる。

 

 

疑問に思っても、なかった振りをして過ごすようになるのだ。

 

 

それが一番、自分にとって都合がいい。

 

 

『10万円でどんな人間も救える』

 

 

これが俺にとって魔法の言葉となり、余裕を生ませた。

 

 

俺自身の生活はなんら変わりなく、相変わらず毎夜22時に会社を出、22時20分に新橋の改札をくぐる。

 

 

村上やほかの部下は役に立たず、人手不足も相変わらず深刻で、当たり前のように俺にその負担がのしかかってくる。

 

 

それでも俺は充実していた。日々を謳歌していた。

 

 

気が付くと、いつの間にか事件・事故に出くわすのを心待ちにしている自分がいた。

 

 

スマホを覗けばネットニュースを開き、目ぼしい案件がなければSNSでリアルタイムの情報を探す。

 

 

凄惨な事件や、酷い事故、天災。

 

 

よだれが出そうになったが、俺はぐっとこらえる。

 

 

見境なく救ってしまってはすぐに金が底をつくからだ。

 

 

地獄の沙汰も金次第……金がなくなってしまった俺には神の力など毛ほどもなくなる。

 

 

だから、じっくりと吟味しなければならない。

 

 

そう思いながらも、俺は欲に勝てず少しずつ口座の金が減っていく。

 

 

手あたり次第ではなく、ちゃんと救えた後を確認できる状況にのみ使った。

 

 

善行がこんなにも癖になるとは知らなかった。

 

 

言い方は悪いが、俺にとって人を助けることは甘美なストレス発散の道具になっていたのだ。

 

 

一回10万円は高い。高級風俗と同じだ。

 

 

『-100,000』の印字がずらりと並ぶ通帳を開きながら、俺は何度も自戒する。

 

 

 

貯金が100万円を切ったのは、それから3ヵ月も経たない時だった。

 

 

俺の頭は、どうやってこの金額を増やすことに終始し、余裕のある充実した毎日は次第に焦りの日々へと変貌していった。

 

 

貯金額を元に戻さなければ。……という理由からではない。

 

 

もっと金が無ければ、人が救えない。それは困る。

 

 

家の中を見回した。

 

 

時計。ステレオ。ゴルフクラブ。テレビ。ゲーム。服。靴。

 

 

自分なりの娯楽で買いそろえたそれらが、忽ち金の形に見えた。

 

 

そうだ。いらないものは売ればいい。

 

 

 

-4-へつづく

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