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【連載】めろん。70

公開日: : 最終更新日:2020/11/17 めろん。, ショート連載, 著作 , ,






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・綾田広志 38歳 刑事㉗




 弘原海からもっと話を聞きたかったが、あまり長居をするのはまずい。




 本人も申し訳なさそうにしながらそう話した。




 事情は承知の上だし、むしろ弘原海には助けてもらった。これ以上世話にはなれない。




 だが家をでる前、弘原海は俺にこう告げた。




「あー……まもなく夜がきます。暗くなってからはあまり動かないほうがいいですねぇ。空き家の庭などに隠れていればおそらく大丈夫でしょう。まー……もっとも、安全とは言い難いですが、すぐに動けるぶんそれが一番かと。間違っても大城さん宅に侵入した時のようにガラスを割ったりして中に入らないでください。さすがに今度は血相を変えて連中がやってくるでしょう。あと……スーパーにはいかないように」




「スーパーか……。やはり危険なのか」




 のんびりとした所作で弘原海はうなずいた。




「えー……もちろん、食料や日用品はあそこで調達するんですが基本的にあそこにいるのはやつらです。それに夜は食堂になりますし」




「食堂? 中で食えるようになるのか」




「ええ。ただし、中で食べるのは人です」




 首を傾げた。なにを言っているのか視えなかった。




「つまりー……めろん発症者がやってきた客を食べる食堂になるのですよ」




「そんなバカな」




 笑いそうになった。だがこの町にジョークはないことに気づき、すぐに緩んだ口を結ぶ。弘原海の言っていることは本当だ。




「なんでそんなことが」




「うー……ん、おそらくは侵入者対策かと。招かれざる客は夜に動きがちです。綾田さんのように場慣れしていれば別ですが、ほとんどはそうでしょう。そしてそういう人間はまず人が集まりそうなスーパーを調べがちですので、そこをキャッチしようという目論みでしょう」




「なぜだ? わざわざ食わせたら食ったほうも食わせたほうもなんのメリットもない。ただいたずらに死体が増えるだけで、そいつが何者かもわからないじゃないか。生かして情報を引き出したほうがいいに決まっている」




「さぁー……。ただ、言えることはこの町が『大きな実験施設』だということです。所詮、私どももめろん発症者も事件の目的でしかここにいない。スーパーもそんな実験の一環なのではないでしょうか」




 そんなバカな話が……。言いかけたがグッと堪えた。弘原海に疑問をぶつけたところで解決にはならない。それよりも俺はやらなければならないことがあるはずだ。




「やつらは侵入者を発見してもまったく焦ったりはしません。なぜならこの町に一度足を踏み入れたらでることは不可能だからです。袋のネズミをわざわざ殺したりはしない、というところでしょうか。あー……まあ、私もそうなのですが」




「わかった。とにかくスーパーには近づかないようにしよう」




「とはいえ食事もせずにいるのは大変でしょう。私の家の冷蔵庫からでしたら好きなものを持って行ってください。泊めることはできませんが、夜を超すことができればまた会いましょう」




 弘原海に礼を言って外にでた。厚意に甘えて水とチーズ、缶詰をもらった。




 家をでた頃には弘原海が言ったように空が飴色になっていた。暗くなるまですぐだ。




 空き家の判別方法は簡単だった。庭の窓から中を窺えばいい。極力、通りは歩かず物陰から物陰への移動を徹底しながら何軒か回った。




「しかし……暗くなってすぐにみつけてもな」




 俺は予定を変更し、ひとまず空き家をみつけておいて、近隣に住んでいる家を調べることにした。暗くなってしまうと大城のノートが読めない。充電を節約したいため、極力スマホのライトは使いたくなかった。




 できるだけ弘原海のような、ひとりで済む独身男性が住む家を探す。条件に合う家を見つけるのはそこまで難航はしなかった。




 夜は出歩かないほうがいい。はやる気持ちはあるが、侵入者がいるということが向こうに知られている以上、初日から目立つ行動は控えるべきだ。




 わかってはいながらも、理沙や蛙子たちのことを考えるととても落ち着いてはいられない。




 そんな気持ちを抑えるのは、新しい情報だ。大城が残したノート……これが今の俺の生命線。きっと大城が伝えたかった手がかりと、大城自身も気付いていないなにかがこの中に綴られているはずだ。




 完全に暗くなった夜、窓から漏れる光を頼りにノートをめくった。




 知りたいことは山ほどあるが、気になっていることはなぜ三小杉がここに来ていたのかだ。大城のノートには『夜になる前にいなくなった』と書いてあり、スーパーに行っていないか心配をしている旨のことが記してある。




 食堂――




 想像して背筋が粟立った。




 仮に大城の心配が的中して、三小杉がスーパーに行っていたとするなら……あいつはもうこの世にいないのかもしれない。




 署ではあいつがいなくなったことで大騒ぎしているということも知らず、こんな山奥で誰にも知られず……




 待てよ。




 ふとよぎった仮説に自分で戦慄する。




 署内を大騒ぎさせることが目的だとしたら?




 なぜ?




 内部の誰かがここの存在を知らせようとしている……。




「そこでなにをしているんですか」










めろん。71へつづく

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