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【連載】めろん。69

公開日: : 最終更新日:2020/11/10 めろん。, ショート連載, 著作 ,






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・綾田広志 38歳 刑事㉖




「えー……何日か前に同業者がやってきたようでして」




「同業者、警察関係者か」




「そうですー……それがどうも、私どもとは少し異なった理由でやってきたようでして」




 ふむ……と相槌を打ちながら預かったノートを開く。




 初日からなぜここへやってきたのかを克明に記されていた。




 やはり大城から電話で聞いた話と大差ない。女子高生を拉致した一件でここに連れてこられた。ただそれは……〝綾田(俺)に話したことがバレたせい〟だということ。




「大城……」




 突っ込んで聞くべきでなかった。それを聞いていいのか、と断りはしたが強引に話を打ち切らなかったのは俺が好奇心に負けたためだ。




 そのせいで大城は両間にバレ、こんなところまで連れてこられた。それも一家全員で。




 大城たちが死んだのは、俺のせいなのかもしれない。




「あー……失礼ですが、考えすぎはよくないですよ」




「どういう意味だ」




「まー……そのままの意味です。私もそのノートには目を通していますが、そこに書いているのはあなたのことですね。ですが同業者なのに他人に話してしまったのは自分の責任です。それだけで大城さんを責める要素にはなりませんが、大城さん本人もそれはわかっていたはず」




「だが俺があそこで止めていれば大城は」




「なにを仰るんです。我々の仕事をお忘れですか。事件に興味を持たないのならば、我ら公僕は存在する意味はない」




 課と管轄は違えど弘原海は俺からしても大先輩だ。淡々とした物言いの中にも強い説得力があった。




 あくまで大城と俺の、ふたりの自己責任でありどちらか片方の過失ではない。そんなものは捜査に於いて前提としなければならないもの。先入観は目を曇らせる。




 当事者になってしまった時、警官とて人間だ。その本質が罪悪感に掠め取られてしまう。弘原海の言葉はそんな中にあって救いだった。




「そうかもしれない」




 短い礼で頭を下げた。弘原海は笑みを浮かべている。




 ノートにはここでの日常と、大城自身が遭遇した出来事が書いている。いわば報告書のような形式をとった日記だ。




 数ページめに弘原海の名が登場し、比較的早い段階で知り合っていたことがわかる。




 そしてここにはいくつもの監視カメラがあるが、やたらめったらと張り巡らされているわけではなく、さらに24時間体制で警戒されているということでもないらしい。




 弘原海が大城宅まで裏道を使ってやってきた、というのもそういった死角が数多く存在しているからだった。




 さらに住民についての情報も記されていた。全員ではないが、それでも30名ほどの名前と職業などが書いてある。




「えー……私の情報もかなり入っていますが、さすが優秀な刑事です。あっというまにここまで調べ上げた」




 そうして大城は弘原海との接触も極力避けながら、互いの生存確認のため光信号でやりとりをはじめた。




「このノートはあなたが持っていてください。そのほうが大城さんも喜びます」




 そう言いながら弘原海は今開いているページからかなり先のほうまでめくった。




「あー……どこだったかなぁ、あった。ここです、ほら」




 弘原海が指を差した日付のページを読んでいく。




「……三小杉だと」




「はー……やはりご存じでしたか」




「知っているもなにも、こいつは俺の部下だ。キャリア組だがな」




「ほー……それはそれは」




 途端に弘原海の顔色が変わり、気の毒そうな表情になった。




 厭な予感を感じながらも読み進めていく。




 みるみる血の気が引いていくのが自分でもわかった。厭な予感は的中し、三小杉がこの町にやってきていたことがわかった。それも、最悪のシナリオだ。




 大城の日記には、三小杉から目を離したことをしきりに悔いている心境が綴ってあった。そして、三小杉が両間に呼ばれて自らここへ来たらしいことも。




「どうして三小杉が呼ばれたんだ……」




 三小杉は両間に呼びだされ、理由もわからずこの町に放り込まれたらしい。




 本人もどういう意図があってのことか釈然としておらず、それでも両間に期待されていると勘違いをしていたらしい。




 大城としてもその辺の理由が判然としないため、三小杉を引き留め続けることができなかったという。




 その後、三小杉は消息を断った。




 続く文は死を臭わせている。




「大城さんと三小杉という彼について何度も話しました。この町にはすくなくとも『めろんを発症したもの』、それと『近親者』が連れてこられます。ですからー……三小杉さんのような例は私もはじめてでした」




「最後に三小杉はどこへ行ったと思う?」




 弘原海はさあ、と両手を広げた。




「ですが、んー……この町で行けるところなど高が知れています。せいぜい、スーパーかあとは空き家に身を潜めるか。そうでなければやつらに連れ去られたのか」




「連れ去られる? そんなことが有り得るのか」




「ええー……。〝めろん〟に発症すれば」




 そうだった。めろんを発症すれば実験体として連れ去られる。そして、坂口の研究室へ――




「ところで綾田さん。これからどうするおつもりですか」










めろん。70へつづく

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