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【連載】めろん。37

公開日: : 最終更新日:2020/01/07 めろん。, ショート連載, 著作 , , ,






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・破天荒 32歳 フリーライター⑥




「おすそわけの習慣ってあるじゃん。都会(こっち)でもまあ全然ないってこたないけど、それでも田舎のそれとは比べるにも値しねえくらいごく普通の、習慣として根付いている」




「大分出身ですけど、ディスってる?」




 赤羽の店で焼き鳥の煙に纏わりつかれながら顔をしかめた。




 話の腰を折るのは好きじゃないが、あんまり黙っているとこいつはどんどん脱線する。時々こうしてわざと文句をつけてやるのだ。




 ギロチンはぶんぶんと頭を振りつつ、顔は嬉しそうに笑っている。大人をからかって叱られる前に謝るタイプの確信犯。ようは小狡いガキがそのまま大人になったような奴がギロチンだった。




 普段は派手な緑色に染め上げた長髪を下ろしているので目立たないが、持ちあげると見事な禿頭が表れ度肝を抜かれる。イギリスのパンクバンドのエンブレムや、歌詞のフレーズなどを剃り上げた頭に彫っているばかりか、何年もかけて永久脱毛までしてしまうほど筋金入りの変人だった。




 なんでも書くが特に専門はオカルト……その方面でも悪魔や黒魔術など、海外呪術に詳しい。訊けばパンクバンドの前はデスメタルに熱を上げていたらしく、その影響だという。音楽の趣味は変わったものの、悪魔崇拝のような日本ではあまり見かけない宗教体系には興味を引かれ続けた。




 それゆえ国内外問わず、守備範囲がやたらと広い。




 これも変人たる所以か、本人はあまりそれを大っぴらに公言していない。専門職になってしまうのが束縛されるようで厭だとかなんだとか。




 この商売、食っていけるだけでも御の字の業界だというのに、御大層なことだ。




「いやいやいや、田舎をディスるなんてとんでもない! むしろ憧れてんだぜ、ハッピー田舎ライフってやつ」




「やっぱ馬鹿にしてる」




 さらにふざけようとするギロチンを遮り、いいから続きを促した。




「田舎のいいところって、日本狭しとはいえまだまだ山間部だったり山奥の集落、港町の一部でもあるけど民間の土着信仰ってのがまだまだ根強いってことにつきる」




「なに? ええっと、鈍振村とか兎次集落みたいなってこと」




「まあそんなとこ。悪魔信仰と隠れキリシタンとか日本でもそういった海外の異教徒……なんていったら怒られるな。とにかく、そういうのが伝わったはいいが長く閉鎖された集落や村なんかで独自の変貌を遂げるなんてことはままある話だ」




 確かに隠れキリシタンなどは有名な話だ。未だにごく一部のキリシタンが『信仰を隠すことを信仰』として現在も隠れキリシタンとしての活動を行っているらしい。




 だがそもそも『隠れキリシタン』の歴史としては島原の乱から端を発し、明治初期には終結している。現存している隠れキリシタンというのも現代を生きる我々からみれば異質な存在である。




 そういう意味ではギロチンの言う通り、『独自の変貌を遂げる』範疇なのかもしれない。




「だけど黒魔術とか、西洋の呪術が日本に入ってきてたっていうのは初耳ね。本当なの?」




「ルーツが定かでないからな。俺以外にも怪しい因習を持つ村を知っている専門家はいるが、出所がいまいちハッキリしないから誰も声高にこの話はしない。でも、詳しいやつなら大体ピンとくるんだ。『あれ、これ(この風習)って海外のあの部族の呪術と似ているぞ』とか」




 奇妙な符号……というやつか。




 オカルト・ホラーではよく聞く話だ。古くはタイタニック号の沈没と小説タイタン号の遭難の出来すぎている偶然の一致がある。タイタニック号の沈没を予知していたとしか思えないほど小説の内容が酷似していたという。




 怪談界隈でもこの類の話はある。まったく違う、接点もない、土地もばらばらなところで聞いた怪談が不気味なほど似ていることがある。挙句の果てに話を提供した人間の名前が一緒だったりすることもある。




 ギロチンの挙げているものとは微妙にズレてはいるが、彼が言っているものもこういった系統の話には違いなかった。




「あえてルーツがどこからかってことを裏付けなしで考えたとして」




「裏付けなしとかありなの」




「なしだから表にでてこなかったって言ってるだろ。いいから聞いてよ。俺がわざわざそんな言い方してるのはさ、そんな昔の時代の日本におよそ入ってくるはずのない土着信仰だからだ」




 ぞくり、と厭な予感がした。こんなことは初めての経験だ。




 ギロチンの答えを聞くのが怖い、本能的に思った。私は悪寒を振り払って、テーブルに齧りつくように前のめりで耳を傾ける。




「ウェンディゴの悪魔憑き」




 それが、厭な予感の正体だった。




「どういうこと……?」




「ウェンディゴの悪魔憑きは知ってるだろ。メキシコの土着信仰で人を食う病気だ。どう考えてもそれがルーツとしか思えないような信仰を持っている村があるんだよ」




 そう言ってギロチンは少しの間、考え込むように黙った。




「いや、村があった……だな」




 再び口を開いたギロチンはそのように訂正する。




「今はなくなったのね、その村」




「そうなんだよ。広島のほうにあるって噂だけはあったんだけどな、それもどのくらい信ぴょう性あるのかわからねえの。そのくらい情報がないレア案件」










めろん。38へつづく

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