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【連載】めろん。51

公開日: : 最終更新日:2020/06/09 めろん。, ショート連載, 著作 , , ,






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・綾田広志 38歳 刑事⑫




 気が気ではなかったが帰らないわけにいかなかった。




 タクシーを呼んだが、場所を言っただけで訝しがられ簡単にはやってこない。それでも根気よく電話することでようやく一台呼ぶことができた。




「お前は帰らないのか」




「俺に構わなくていい」




 坂口は残ると言った。耳を疑ったが、食い下がるとよくない気がして大人しく坂口を置いて俺は山に下りたのだ。




 背中の痒いところに手が届かない。そんな気持ち悪さと不快さだけを坂口は俺にもたらし、ひとりあの山の中に残ったのだ。




 違う。山の中ではなく、あの建物に……だ。




 離れるべきではないとも思ったが、あんな大きな建物がすぐになくなるわけはない。日を改め、明るいうちに再度訪れることを固く誓った。




 ……できれば、坂口がいないほうがいい。




 なにもしていないうちに山を下りる決意をした理由のひとつに、坂口の存在があった。あの場所を教えてくれたのは坂口だが、あいつがいると自由が利かない。逐一、行動を報告されていそうで厭だった。




 タクシーの運転手は余計な口を開かず、黙って山道を走らせている。訳アリだとでも思ったのだろう。そう思わせておいたほうが静かで助かる。来てくれただけでも御の字だ。




 スマホを見つめる。




 かかってきた電話は、高橋からだった。




 三小杉が無断欠勤をしていて、連絡も取れないらしい。欠勤をしていることは知っていたが、俺が思うよりも大事になっているようだった。




 それもそうだ。三小杉は外交官の息子で、父親の影響はかなり大きい。しかも三小杉は実家住まいなので余計騒ぎになったのだろう。




 高橋の声音は呆れの色が漏れていたが、それでも三小杉がいなくなったことは看過できない出来事になっていた。




 それゆえ、『お前もすぐに帰ってこい』ということなのだろう。




 事件ならまだしも、子守りに帰らなければならないというのもまた馬鹿らしい。しかし、そうは言っても仮にも三小杉は部下だ。鼻くそをほじっているだけで俺よりも出世することを約束されている身とはいえ、今は部下なのだ。




「まいったね、どうも」




 溜め息は厭な予感と共に夜気に呑まれていった。




「それで、いつから戻ってないんだ」




 翌日の正午ごろに戻った俺は高橋に訊いた。




「一週間前ですね」




「どうして今頃大騒ぎになるんだ」




 高橋もあまり寝ていないのか、目の下に隈がある。お疲れコンビとは笑えない。




「一週間前に五日間、有休を取ってたんです。休みが明けても来ないので不審には思ってたんですよ。連絡もつかないし」




「親に電話したのか」




「まさか。あんな奴でも立派な大人ですよ。仕事を休んだから親に連絡するなんて」




「お前は正しいが、あいつの親は普通の親じゃないからな」




 まあ……と高橋は口ごもった。普通の親じゃないからこんな一大事になっているのだ。




「こちらが連絡をするより先に三小杉の父親から問い合わせがありました。それで家にも帰っていない、仕事にも来ていないということが発覚したんです」




「そうか。とはいっても……三小杉と連絡が取れないからといって、他の仕事を棚上げしてそっちを優先、というわけにはいかない」




 真理だった。俺たちは警察だ。まず市民のために働かねばならない。




「当然ですよ。どうせ仕事が厭になってその辺ほっつき歩いているだけですって」




 そうだといいがな、と返事をして署内の角を曲がった時だった。




「綾田さん、高橋さん」




 一課の西脇が俺たちを呼び止めた。一課長が呼んでいる、用件を告げると西脇は足早にその場を去った。




 一課長が呼んでいる?




 高橋を顔を見合わせる。三小杉の件についてだろうか。それ以外は考えにくい。




 一課のオフィスにやってくると一課長の菅田がパソコンを睨みながらこちらに手招きをする。




「お呼びですか」




「ああ、呼んだ。〝めろん〟だ」




 息を呑む。予期せぬ報告だった。




「めろん……今度はどこですか」




「そうじゃない。お前たちはめろんから外す」




「は?」




 思わず素っ頓狂な声をだしてしまった。聞き間違いかと思ったが、菅田ははっきりと繰り返す。




「今後、めろんの事件からは外れてもらうと言ったんだ」




「どうしてですか!」




「高橋!」




 デスク越しに詰め寄ろうとする高橋を制すると、菅田は「話は以上だ」と締めくくった。




「失礼します」




「ちょっと、綾田さん! いいんですかこんな理不尽な……」




「いいんだ。俺たちは駒だから、上からいわれりゃ従うしかない」




「そんな!」




 いいから、と背を叩きそれ以上目も合わせようとしない菅田に会釈をしてデスクから離れる。




 興奮しきりの高橋は納得がいかないといった様子で息を荒くしていた。




「どうしてすんなり引き下がるんですか。俺たちはなにも……」




「静かにしろ。まず落ち着け」




 オフィスから出て、通路を歩きながら周りに人がいないのを確かめる。




「両間だ」




「……え?」




 高橋は耳を疑っている。そしてすかさずそれはあり得ないと否定した。




「いくら両間伸五郎でも事件を外す権限なんてないですよ! 公安がそこまで首を突っ込めるわけない」




「もっともだ。だがもともとめろんは公安が絡んでたろ」




 そもそも両間と知り合ったのもめろんの現場だ。これは紛れもない事実だった。




「そうですけど、人払いする理由はなんですか」




「さあな、ただひとつわかることは……」




 両間は俺に気付いている。







めろん。52へつづく

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