2ショットチョット
■チャットレディ
2ショットチャットというのは、大きく分ければ2つに分かれる。
アダルトとそうでないか。
アダルトは稼げるって言うけど、ちょっと怖いのが本音だ。
私は、高額求人誌を眺めて悩んでいた。
最近まで働いていたお店が閉店になってしまい、私は職なしのフリーターになってしまったのだ。
だからといって、風俗に働こうなんて思えないし……。
今眺めているこの求人誌だって、こんな関係のお店で働こうと思ったからじゃない。
でも、まさかチャットレディーの募集というものがあるなんて。
そもそもが、私はライブチャットというものをこの求人誌で初めて知ったくらいだ。
だから、好奇心が勝ったといっても過言じゃない。
好奇心は人を殺すというけれど、全くその通りだとも思った。
■安全なお仕事
興味のなかった世界だったが、チャットとなると話は違う。
そもそもがどういうシステムのどういう世界かも知らないし、チャットでお金を稼ぐというのも理解できない。
だけど謳い文句にあった『誰とも会わず、触れずにお話するだけ』というコピーに惹かれてしまったのだ。
――会わずに……? 触れずに……? 話すだけ……って?
家に帰り、パソコンを開くと私はすぐに『ライブチャット』と検索してみた。
そうすると、私の想像していたものとは大きく外れる、想像を絶した世界がそこには広がっていた。
小さな箱の形の窓に色々な女性の顔や体が映し出され、箱の上にはそれぞれ『待機中』とか『チャット中』と表示されている。
どういうことなのかと思い、その一つをクリックしてみる。
そうすると、画面の向こうでカメラで映し出されているのだろうか、女性がヘッドセットをしてこちらに手を振った。
私は思わず自分のパソコンの上部を見た。
……ある。私のパソコンにもカメラがある。
今まで気にしたこともなかったのでわからなかったけれど、私のパソコンにもカメラがついていた。
つまり、この女性たちはこのカメラに映し出されているということ……?
私は、しばらくそれらとにらめっこをして、「安全なお仕事」であるとという謳い文句の意味を理解した。
■未体験の仕事
仕事の問い合わせが電話ではなくメールで良いというのが、私の好奇心に拍車をかけた。
――とりあえず、メールをしてみて感触が悪ければ辞めればいっか。
軽い気持ちでメールをすると、翌日の昼には返信が来ていた。
【こちらのリンクからフォームを入力し、エントリー登録を行ってください】
元々、応募したサイトには『アダルトとノンアダルトが選べますので、エッチなのは嫌! という女の子も安心』と書かれていた。
それを信じて応募し、フォームにリンクを飛んでみると早々にそのチェック項目があり、私は【希望のチャット形態】の欄、《ノンアダルト》というチェックボックスにチェックを入れた。
「これでいいのかな……」
登録が済むと、チュートリアルの動画が再生され、仕事内容に同意出来るかが再度確認された。
「エッチじゃないのなら……」
そう言い聞かせ、私は最後の【はい】をクリックするのだった。
■初日
ヘッドセットを購入し、画面を見詰める。
時折手を振ったり笑ったりもしてみるけれど、うまく出来ているか分からなかった。
そんな中で待機をしていると、【入室者がありました】と表示が現れる。
「……あ、こんにちは」
『こんにちはー。かわいいね』
「ありがとう……ございます」
緊張で上手く喋れなかったが、相手の男はきさくで明るい感じだったので、初めてのチャットでもリラックス出来た。
『まほちゃんはどこに住んでるの?』
【まほ】という名前に、一瞬ピンと来なかったけど、すぐに自分のことだと気付き慌てて返事をする。
「あ、はい! えっと、神奈川です!」
そういえば私は自分の名前を【まほ】ってしたんだっけ、本名は【さやか】なので一瞬誰の事を言っているのか分からず固まってしまったけれど、大丈夫だったかな。
『へぇ、神奈川かー。いいところだね』
ノンアダルトのチャットだけど、もしかしたらちょっとくらいエッチなことを言われるんじゃないかって思ったけど、どうやら思い過ごしだったみたいだ。
すっかりリラックスできたわたしは、意外と続けることが出来るんじゃないかと思った。
■4回目
チャットレディは時間の融通が利く。
空いた時間に部屋を作って待機していればいいのだ。
お客さんが来なければずっと待ち続ければいいだけだし、私には丁度いい仕事だった。
アダルトほどではないけれど、給料も割といい。
だけど、私には一つだけ小さな気がかりがあった。
初めてチャットデビューをした時に入室した最初の男。
名前は【ごんべ】と名乗っていたが、私が部屋を開く度にやってくる。
そして、他愛もない話をするのだが、回を重ねるごとに踏み込んだことまで聞いてくるようになってきた。
『彼氏はいるの? 何曜日が休み? 家族や兄弟は? 学校はどこ?』
など。
もちろん、全部を答えたわけではなく大体の答えははぐらかしてきた。
だけど、4回目のこの日、なぜか【ごんべ】は私の部屋にはやってこなかったのだ。
(……あれ? ごんべは今日は来ないのかな)
チャットレディにはサイト上に私書箱があり、メールが届くとそこに何通届いたか表示されるようになっている。
ごんべが来ないことに私が首を傾げていると、メールが1通届いたことを知らせる《1》の表示がついた。
「……?」
メールを開いてみると、ごんべからだ。
【ここは居心地がいいね】
(なにを言っているのだろうこの人……)
更に新着のメールが1通
【へぇ、本当はさやかちゃんていうんだ。なんでまほって名前にしたのかな】
顔が青ざめる。チャット上で自分の本名を言ったことなんてあったかな。
【今、卒業アルバムを見てる。今とあんまり変わらないね】
何を言っているのだろう、この人は。
私は飛び出しそうに打つ胸を押さえながら、ゆっくりとクローゼットの方を振り向いた。
――卒業アルバムは、クローゼットの中にしまいこんである。
「まさか、そんなことあるはずないよね」
わざと声を出して言ってみた。
ピポ、という入室者を知らせる音。向こうの画像も開いていた。
「……ッ!!」
開いた画像には、誰の顔も映っておらず、変わりに暗い場所でなにかを照らす様が映し出されている。
それは、クローゼットの中にしまってあるはずの……卒業アルバムのように見えた。
『さやかちゃん、部屋を映しちゃだめだよ』
【安全なお仕事です】
【関連小説】
呪いアプリ
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