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【連載】めろん。38

公開日: : 最終更新日:2020/01/07 めろん。, ショート連載, 著作 , , , ,






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・破天荒 32歳 フリーライター⑦




 小さな村だったという。




 一体いつまで存在していて、いつ無くなってしまったのか、それすらも定かではない小さな小さな村だ。




「そんな小ささなら、むしろ記録が残っていることのほうが奇蹟じゃないの」




「まあね。名前すらわからないくらいなんだから、残っている記録もノミ程度だ」




 溜め息を吐いた。




 それじゃあ調べようがない。地元の新聞を調べてみてはどうかと提案してみるが、ギロチンは笑って否む。




「やる価値がないとは言わないけど無駄足になると思うぜ」




「なによ、勿体つけないで。なにか知ってるからわざわざその村の話題をだしたんでしょ」




「ここに書いてあるんだ」




 ニヤけながらギロチンが取りだしたのは安いコンビニ本だ。私も何度となく記事を書いたことがある、胡散臭い本。この類の本は信ぴょう性は二の次だからデタラメを書いても原稿が通ってしまう。




 楽ではあるが名前を晒してまでやりたい仕事ではない。




「あら、あからさまにガッカリ顔」




「……あんたねえ」




 繰り返しになるが、胡散臭い本なのである。信ぴょう性は二の次だ。




 そんな本を自慢げにだして、「ここに書いてある」と言われればガッカリしないわけがない。しかも、私もギロチンもプロなのだ。




 悪質とまでは言わないが笑えない冗談だ。




「まあまあ、この本は特別なんだよ。知らないわけじゃないだろ、【最恐スポットナビ】」




「知ってるけど、だからなに?」




 確かにこの本はテレビが火付け役となりヒットした。だが当然、すぐに下火になりワゴンセールでたたき売りの代表格となった。




 それはそうだ。話題になった記事は中のひとつやふたつほど。あとは嘘か本当かわからないどころか、ろくな情報もソースもないまま思いのまま書いてある。




 ライターも素人同然……いや、素人だろう。写真が多い、アクセスが記載されている、という点は評価できるがそれだけの本だ。




 特筆するところのない、どこにでもあるコンビニ本。




 だがその価値観はギロチンとも共有していた。彼もまたそんな風に『最恐スポットナビ』と捉えていた。




 だがその上でギロチンは続ける。




「破天荒さんだって気になってたろ、この本の写真の多さ。一体どうやって撮ったんだ、みたいなのが多い。それで考えられることはひとつだ。こいつらは直接、この現場に行っている」




「それはそうかもしれないけど……」




 ギロチンは息巻きながらページをめくった。




 彼が開いたページには『名前を消された村 人食いが常習化していた狂人の森』と見出しが躍っていた。




「当然、読んだことあるよ。その記事だって。写真は確かに面白いけど、記事自体はどれも同じような見出しと内容だったから正直覚えてないなあ」




「まあ同意見さ。ここに書かれている村は間違いなく、広島の例の村なんだけど……ここ見て」




 そう言ってギロチンが記事の一文を指差した。




『このめろん村では明治時代――』




「めろん村ってあるだろ」




「めろん村ってかわいい名前ね。メロンでも収穫……」




 呆れつつそこまで言ったところで言葉が詰まった。いま、自分が口にした言葉の中に、決定的な違和感があった気がしたのだ。




 ファンシーでポップささえ感じる村の名前。きっと、それに関わっていなければなんとも思わず読み飛ばしていただろう名前。




「めろん……?」




 ギロチンは私と目を合わせ、べえ、とピアスだらけの舌をだした。




「ね、面白いだろ?」




 面白がるギロチンの歪んだ笑顔を見ながら、血の気が引いてゆくのがわかった。




「で、でも、事件との接点なんて『めろん』っていう文言だけだよね。ウェンディゴの伝承だって眉唾物だし、ちょっと強引じゃないの」




「強引だよ。強引でもないとこの件は繋がらないし、そうでなきゃオカルトの楽しさなんてないじゃん」




「楽しさって……」




 それは確かにそうだ。私がこの件をちゃんと楽しんでいれば、おのずとギロチンと同じテンションになっていただろう。




 だがなぜか私はこの件を繋げてはいけないような気がしたのだ。理屈ではない、直感。そんなものを信じてしまう、愚かしい女ではないはずだったがなぜか今は恐ろしい。




 ここから、すべてが始まってしまうような、後戻りができるとするならば今、この段階でだけだと思った。




 行くも行かずも、選べるのは今だけ。そう思うと途端に得体の知れない恐怖が襲う。




「なになに~その顔。らしくないじゃないの破天荒さん! ここは乗るしかないっしょ、それにさ話には続きがあるんだぜ」




「……なによ、続きって」




 ギロチンは再び、めろん村のページを開くと写真のひとつを差した。




 それは廃村跡……というより、完全に森の中の写真。適当にそこら辺の公園で撮影したとしてもわからないような、どこにでもある緑の写真だった。




 木々と、落ち葉と雑草、それに空。その端に白いなにかが写り込んでいる。




「これ、なにかの建物だって思わない?」




「建物?」




 じゃあやっぱり、ここがめろん村跡だと書いておきながら写真はその辺の……




「ここのアクセスさ、今村はないけど代わりにでかい施設があんの」




「施設? こんな山奥に?」




 アクセスに目を落とす。




 簡易的な地図からもわかるほどめろん村跡は辺鄙な山奥である。




「ストリートビューでもわからない。でもここにはね、確実になにかが建ってるんだ」




 ギロチンは舌のピアスをチリン、と鳴らした。










めろん。39へつづく







 

 

 

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