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【連載】めろん。24





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・早乙女 公佳 16歳 高校生②




 ドアの隙間にメモを滑り込ませるとほどなくしてまたメモがきた。




『今、私の言葉も含めすべてが『メロン』と聞こえているのではないですか。もしもそうなら、『そうです』と書いて返してください』




 そうですと書け、だなんて馬鹿にしているだろうか。子供のような扱いに苛立ちつつ、私は『そうです』と書いて差し出す。




『筆談でなら会話が成り立つことがわかりました。これは大変収穫です。実はあなたのお母さんから『娘がメロンとしか言わなくなって部屋からでてこない』と警察へ通報がありました。それで私がきたのです』




 再び返ってきたメモにはそう記してある。どういうことだ?




 このメモが正しいとすれば、周りの人間には私が『メロン』としか言っていないという。まるで逆だ。




 世界と私が逆転してしまった。これでは私だけが現実とそっくりな世界にやってきたような気分になる。決して、いい気分なわけはなかった。




『警察のひとですか』




『違いますよ。ですがすくなくとも私はあなたの味方です』




 ――味方。本当だろうか。そんなことを言って、私を異常者扱いして、病院に連れて行きはしないか。




 おいそれと顔も見ていない人物を信用する気にはなれなかった。しかし、少なくとも扉の向こうの男は『メロン』について知っている。そして、私とコンタクトを取っている。それに関しては、私も知りたいことが多い。




『私は病気ですか』




『病気とはすこし違う。でも私とくればすぐに直すことができるよ』




『どこかへ行くのですか』




『実は君と同じ症状の人がたくさんいる。その人たちを直すための施設があるんだ。『メロン』の症状をこのまま放置しておくと、ずっと治らないどこか悪化してしまう。君のためにもどうか一緒にきてほしい』




『お母さんは』




『安心してほしい。すぐに一緒の生活に戻れるよ』




 答えになっていない。この男はなにかを隠している。どこへ行くのか、なにをしにいうのか、自分が何者か、なにも答えないのは不可解だ。




 それにさっきから母の気配がないのも気になった。




『お母さんと話したい』




『お母さんは今、席を外してもらっているんだよ』




『じゃあ、戻ってくるように言ってください』




「メぇロぉ~~ん」




 ドアの向こうから男のだるそうな声が聞こえた。言葉は『メロン』だが、明らかに不快な感情が乗っかっている。




 おそらく、なにかよくないことを言ったのだろう。私に聞こえても意味が分からないからなにを言ってもいい、そんな感情が読み取れた。




 ――あ、この人……よくない感じがする。




 その瞬間、すっと血の気が引いた。




 ドア一枚を隔てた向こう側にいるのは、一体何者だ。母は無事なのだろうか。




 だがそれよりも身の危険を感じた。




 咄嗟に押し入れに滑り込む。やっぱりでていくべきじゃなかった。




 コン、コン、




 コン、コン、コン、




 コン、コン、コン、コン、




 控え目なノックが響く。メモを差しだしても戻ってこなくなったからだろうか。規則正しいリズムでしつこくノックは続いた。




「メロ~ン、メロ~ン」




 なにを言っているのかわからないが、今はわからないことに感謝した。きっとあの人物はなにかろくでもないことを言っている。それだけは確信としてあった。




 ――絶対にあれは悪い人だ。




 コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン




「ひあっ!」




 苛立ちを表現するように乱暴なリズムで打ち込まれたノックに私は耳を塞いだ。




 怖い。メロンも怖い。あの人も怖い。なにもかも、世界のなにもかもが怖い!




 ノックの音で頭が割れそうだ。助けて、誰か助け――




 ガンッ




 種類の違う音だった。ノックと入れ替わるように鳴ったそれは烈しく打ち付ける、ドアを蹴破ろうとする暴力の象徴。アレが、中に入ろうとしている。




「メロン! メ、ロ……ン!」




 もう一度。二度。三度。




 繰り返されるたび、ドアががたつき留め具が悲鳴を上げているのがわかった。




 ――やめて! たすけて! 入ってこないで……




 バキィッ!




 私の願いを無情に踏み抜くような、絶望の音だった。破壊の音は続き、耳がおかしくなりそうだった。




 耳を塞ぎ、たすけてたすけて、と念仏のように唱えるが普段祈りもしない私を助けてくれるようなもの好きな神様はいなかった。




「メーローン?」




 あれは私を呼んでいる。意味を解せなくともわかる、私の名を呼び、探している。




 ドタドタと部屋の中に乱暴な足音が響いた。ひとつではない、複数だ。




 闇と一体化するイメージで息を殺した。このままどうかやりすごしてほしい。奇蹟的に私を見つけずにいてほしい。おかあさん、お願い。神様、これからはいいことをして暮らします。だから、だから




「メーロンっ」




「あ……」




 押し入れのふすまが開いた。




 丸い眼鏡をかけた骸骨が私を覗き込んでいた。骸骨の後ろには死神のような黒い影がふたつ。




 神様は私になんか、奇蹟を起こさなかった。













めろん。25へつづく(2019/8/27更新予定)



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