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くだらない噺

公開日: : ショート連載

本屋でアルバイトをしている。

 

だけど、本を売るのが仕事ではない。

 

本を買うのが仕事だ。

 

どうでもいい自伝や、アニメやゲームを勝手にレイプしたような低俗な同人誌。

 

読むにたえないオナニーのような小説や、自己満足の押し売りの写真集。

 

需要のないものに金を出す客などいないのに、なぜこうも来る本来る本買い取るのだろう。

 

今日も色々な本が私の元にやってくる。

 

はぁ……またいつもと同じような本が寄ってくる。

 

わけがわからないほどに卑猥なポルノ小説。

 

アイドルの隠し撮りのスクラップを編集した本。

 

はぁ……

 

今日も寄せられた本を買い取り価格表に基づいて現金で買い取っていく。

 

「ありがとうございました」

 

なんでこんなものに値がつくのだろう。

 

大体、これはいったいいくらで売ってたんだ。

 

気になって私は、買い取った本の裏表紙を見た。

 

……ない。

 

ああ、そうかこれは素人が作った本だからか。

 

じゃあ、こっちのは……あれ、こっちもないな。

 

なんだろう、今まで気にしたことなかったけど……これって、

 

売る目的で作られたものじゃないってことか。

 

そうか、見れば見るほど素人が作っただけの趣味の産物。

 

なんでこれを買っているのだろう。

 

専門的に……だよな、これ。

 

人間とは不思議なもので、一度気になってしまったものは、ずっと気になったままになってしまう。

 

それまでなんにも気にしたことがないのに。

 

「ありがとうございました」

 

しかも、一冊当たり結構な高値で買い取っている。

 

高いものでは一冊1000円なんてもの。

 

私は手待ちの時間で買い取った本の中身を読んでみた。

 

つまらない。

 

なんてつまらなさだ。

 

これを読んだ人間が、出版に踏み切るはずがない。

 

趣味の範疇で個人が書いている漫画、雑誌、小説……

 

これ買ってどうすんだ。

 

段々と自分の仕事に興味が沸いてきた。

 

なんのために本を買うんだ。

 

どうすんだこの本。

 

想像してみよう。

 

このつまらない本たちの使用目的を。

 

例えばこういうのはどうだ。

 

こういうフェチな人間が実は専門にいる。

 

需要がないと思っていないのは、私を含めた一般人だけで、

 

実はこれに隠れたシェアがあるのだ。

 

そう考えれば、私のようなこのバイトが存在していもおかしくはない。

 

しかし、……釈然としない。

 

可能性はあるが、どうもピンとこない。

 

誰でも思いつきそうなことだ。

 

いや、だからいいのか。

 

誰でも思いつきそうな目的だからこそ、需要なのだ。

 

そうか、そういうことだ。

 

無理に自分自身を納得させようとする。

 

目の前に包丁を持った、今まで本を売りに来た客が押し寄せてきたからだ。

 

「私を見たな」

 

「僕を見たな」

 

「俺を見たな」

 

「うちを見たな」

 

どうやら今日で私はクビらしい。

 

「ありがとうございました」

 

めろん。



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