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ハーメルンの笛吹きオンナ3 / ホラー小説

公開日: : ショート連載, ホラーについて

ハーメルン

 

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■友人の前に現れたサキ

 

 

 

友人の会社にサキがきた?

 

 

一体なにを言っているのだこの男は。

 

 

にわかに信じがたい……というよりも、本当に夢遊病になってしまったのかと思い俺は思わず笑ってしまった。

 

 

「おい、なに笑ってんだよ! 俺は真剣に話してるんだぞ」

 

 

そう、こいつ本人が言う通り、どうみても真剣に話しているからまた笑えると言うものだ。

 

 

それはそうだろう、こいつの言っていることは有り得ない。

 

 

「笑うなって方が無理な話だろ。だってな、サキは俺の会社に中途採用でやってきたんだぜ」

 

 

固まる友人。例えるならそう……神話でメドゥーサと目が合った戦士みたいな硬直。

 

 

本当に医師になってしまったのかと思いは、俺は彼の顔を覗き込んで「お~い」と呼びかけた。

 

 

「柚葉 沙紀……」

 

 

呆けながら友人の口走った名前に、今度は俺の方がメドゥーサの魔力にあてられ硬直した。

 

 

「お前……なんでその名前」

 

 

ここで俺はようやく事の重大さに気付いたのだ。

 

 

――サキは、本当にこの男の前にも現れたということを。

 

 

 

■奇妙な女

 

 

 

その後も彼とサキについての話をした。

 

 

友人の会社にも中途採用で急に沙紀が現れ、自分に対してだけ「覚えてる?」とそっと耳元で囁くのだそうだ。

 

 

その点まで同じだと来れば、俺はこの現実がもはや夢に浸食されているのでは? と勘繰った。

 

 

「なぁ、もしかしていまこうしてお前といる今も……夢の中なんじゃないか?」

 

 

まさか、と友人は笑いながらビールのジョッキを空けたが、空のジョッキをテーブルに置いたあとも取っ手から手を離さずに考え込んだ。

 

 

「……そうなのかな」

 

 

「わからないけど、そうかも」

 

 

そのまましばらく二人で黙ったあと、俺達は店を出た。結局、注文したのはビールとキャベツだけだった。

 

 

お互いここが夢の中なのかもしれないという曖昧な結論で落とし、とにかくサキについて変わったことがあれば報告しあうことを約束し、家路についた。

 

 

自宅に着き、ドアを開けると真っ暗な部屋の中に人の気配がした。

 

 

土間には赤いハイヒールが片方倒れた状態で置かれており、俺は直感的に奥に居る人影の正体を悟った。

 

 

――これが夢ならば、もう覚めなくていい。

 

 

本能的に内なる俺が叫び、俺は靴も脱がずに奥まで駆け込んだ。

 

 

「おかえり、キヨト」

 

 

暗い部屋の中でもはっきりわかる。サキだ。サキの声だ。

 

 

「サキ!」

 

 

俺のベッドでスーツ姿のまま横たわるサキにとびつき、唇を貪りながら靴を脱ぎ散らかしながら夢中で彼女の胸や尻、太ももに耳……様々な場所を確かめ、揉みしだき、噛みつき、舐めた。

 

 

俺の一挙一動にサキは、脳みそがとろけるような甘い声で答え俺を求める言葉を次々と吐く。

 

 

俺は夢にまで見た『本当のセックス』を果たしたのだった。

 

 

 

■指定

 

 

 

人生で最も充実し、刺激的なセックスに興じた俺は、その晩何度も何度もサキを求めサキもまた俺の欲望に全て答えてくれた。

 

 

そんな最高のセックスの終わりで、彼女は俺に奇妙なお願いごとをしてきた。

 

 

「キヨト、あのね……私のことを愛しているのなら、明日の夜23:00に来てほしい場所があるの」

 

 

「いいよ、サキのためならどこにだっていく」

 

 

本心だった。

 

 

サキは俺だけのもの……とこれまで頑なに思って来たが、この時になると考えも変わっていた。

 

 

これほど最高の女だ。俺一人のものにするには勿体ない。

 

 

友人の話を聞いて、きっとサキは全ての男性の為に存在するのだと知った。

 

 

そう、サキはみんなのものだ。

 

 

サキは、サキは俺達のもの。

 

 

そしてサキは、俺に優しくこう言い残した。

 

 

「夢の続きを見せてあげる」

 

 

 

 

 

翌日、サキが指定したのはとある港町の公園だった。

 

 

俺の自宅からは一時間ほどかかる場所だったが、サキの言うことに疑いは無かった。

 

 

時間よりも少し早く公園についた俺は、そこに広がる光景に目を疑う。

 

 

「な、なんだ……」

 

 

そこはなんの変哲もない公園。住宅に面した小さな公園ではなく、ランニングコースなども設けられているそこそこの大きさの公園の広場。

 

 

サキが指定したその広場には、俺よりも先に数十人……いや、百人は超える人だかりが出来ていた。

 

 

しかもよく見ると、それは皆男ばかりだ。

 

 

「おお、お前もきたか」

 

 

聞き覚えのある声に呼ばれ振り返ると、件の友人がそこにいた。

 

 

その時点では俺は気付いたのだ。

 

 

「お前もここに呼ばれたのか?」

 

 

友人は嬉しそうに頷くと、「見て見ろよ、サキはこんなにも沢山の男たちを満たしてるんだぜ! すげぇよな」と興奮気味に言った。

 

 

以前の俺ならば、こんなに大多数の男たちとサキが関係を持っていると思うだけで嫉妬に狂いそうだったはずだが、今の俺は素直にこの数の男たちを見て感動してしまった。

 

 

「サキ、サキはやっぱり……みんなのものなんだな」

 

 

不覚にも涙が溢れ、俺はそれを拭うこともせずにサキを想った。

 

 

「そうだ、キヨト。お前、夢の続きって覚えているか?」

 

 

不意に友人がそんなことを俺に聞いてきた。

 

 

「夢の続き……? サキが言っていたあれか」

 

 

「そうさ。俺も他の奴に聞いて回ったんだが、多分これまで俺達が夢の中でサキを抱いた続きのことを言っているらしい」

 

 

「夢の中の続き……ああ、そういえば決まってその後は思い出せないんだよな」

 

 

「ああ、その思い出せない部分を再現してくれるんじゃないかって。だからサキはここに俺達を……」

 

 

そう話している友人の後ろで彼の声を掻き消す轟音が響いた。

 

 

ババババ、という激しい風の音に混じってエンジンのような音。

 

 

その音が空からだと分かると反射的に俺は夜空を見た。

 

 

――ヘリコプター?

 

 

集まる俺達の頭上に一機のヘリコプターが墜落した。

 

 

もはやどのように形容したらいいのかわからないほどの衝撃と爆発音。

 

 

目の前でたった今まで話していた友人の首がマジックさながらに消え、肩から下がミキサーにかけられたように肉を飛び散らせながら吹き飛んだ。

 

 

どうやらヘリのプロペラが友人をミンチにしたらしい。目の前のそいつがそんな目に会ったわけだから、当然それは俺の身体にもめり込み無慈悲に身体を解体してゆく。

 

 

痛みという感情が襲う前にバラバラに散らばった俺の頭部はなんとか無傷だったせいで、炎上するヘリと飛び散った男たちの身体の中で自慰に耽るサキを見つけることが出来た。

 

 

「夢の続きが一番気持ちいいでしょ?」

 

 

聞こえるはずもないが、サキは確実に俺にそう言った。吹き飛んでいる俺と目を合わせて確かにそういったのだ。

 

 

ああ、そうだ。

 

 

夢の中で俺は毎回、サキとセックスをしたあと……殺されてたんだっけ。

 

 

サキが炎の中、男たちの血を浴びて絶頂する中俺はこれまでの生涯で一番の幸福感を感じながら、逝った。

 

 

 

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