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【連載】めろん。54

公開日: : 最終更新日:2020/06/30 めろん。, ショート連載, 著作 , , ,






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・綾田広志 38歳 刑事⑮




 背筋が粟だつ。もう無視することはできない。




 大城だけではない。ギロチンという蛙子の同業者も広島のあの施設に行ったまま帰ってきていないのだ。




 ――『連れてきてやった。だからお前はこの中に入るかやめるか選ぶことができる。だが、一度この中に入ったらもうでてこれない』




 坂口の言葉がよみがえる。




 暗闇の中でぼうっと浮かぶ奴の姿が思い出され、震えが走った。




 あの時、坂口に乗っかりAの中へ入っていたら俺もまた帰ってこれていなかった。




「俺は運がよかったようだな」




「そんな顔して、なに言ってんの」




 蛙子が呆れた様子で突っ込んだ。なんのことか訊ねると、俺の顔色だという。




「真っ青だよ。珍しい顔だし、そんな顔見たことがない」




 そう言っている彼女もまた、血色のない顔だ。




 俺たちはどちらとも、追い詰められているらしかった。




「絶体絶命な上、子供まで守らなければならないとはな」




 いつの間にかソファで寝ついた檸檬たちを見た。




 身を寄せ合い、すやすやと眠っている。彼女たちに起こっている現実は地獄だ。せめて夢くらいは幸せであってほしい。




「これからについては明日、決めよう。今夜はこの子たちをゆっくり休ませてやってくれ」




 大城は家族ごとあそこへ消えた。俺も首を突っ込みすぎたなら他人事ではない。




 両間のことだ、大城のように俺の家族にも手を伸ばすかもしれない。




 そんなこと、させてたまるか。




 強い意思で心に誓った。理沙を抱いて眠る檸檬が、また明日佳と重なった。




 めろんを外されたからといって、一課の刑事には暇がない。




 作成しなければならない書類は山ほどあるし、そもそもめろん以外にも事件を抱えている。このご時世だが午前様になることだってざらだし、ほとほと割に合わない。




 通常の業務をこなしながら、さらに管轄外の事件(めろん)について調査するなんていうことは至難の業だ。普通の刑事なら。




 幸いなことに俺は激務には慣れている。通常の業務くらいならなんてことはない。




 デスクの前を高橋が横切り、その際に目が合う。




 高橋はすぐに目を逸らすと「ちょっとジドリ(聞き込み)に行ってきます」といって出て行った。




 課長がデスクに座ったままそれを見送ると、ちらりとこちらを見た。




 警戒されているな。




 大方、両間が絡んでいるに違いない。「綾田に勝手をさせるな」というところか。




 これはしばらく缶詰にされるな。




 自分の目の届く範囲内に置いておくのならばデスクに齧りつかせておくのが利口だ。




 案の定、座っているだけで仕事が増えてゆく。




 大抵の者はこれで参ってしまい、毎日がこれだけで終わってしまう。繰り返すが、普通の刑事なら。




 時計の針が9時を回った頃、俺はようやく解放された。




 署内の喫煙所に寄り、タバコを吸いながら待ち人を待った。




「お疲れ様です」




 3分の2ほど吸ったところで高橋がやってくる。俺が待っていたのは高橋だった。




「すまんな、手伝わせて」




「なに言ってるんですか。協力するに決まってますよ」




「危ない橋を渡る羽目になるかもしれんぞ」




「納得いかないことをそのままにしておくよりマシでしょう」




 俺たち刑事なんですよ? と高橋は泣き笑いのような表情を浮かべた。




「で、どうだ」




「どうだもなにも、もう大騒ぎですよ。例のめろん事件の子供がふたり、見つかっていないんですから」




 初耳を装い、驚いてみせる。高橋には檸檬たちのことは言っていない。




 先輩特権を利かして高橋に協力してもらっておきながら、自分は肝心なことを話していないのだからフェアではない。高橋に対して、申し訳ない気持ちはあったが今はそれを悟られないようにするしかなかった。




「で、見つからないのか」




「ええ。家に帰ってきた形跡はあるんですけどね。血を踏んだ跡があるんで、親の死体は見ているはずです」




 胸に針を刺されるような痛みがあった。




「でもそれからの足取りがつかめない。事件に巻き込まれている可能性が高く、捜査員もみんな血眼ですよ」




 そんな中で自分たちが動員されないことに高橋は憤っていた。




 俺とともに高橋もめろんの件から外されている。だからその後の展開について関わることはできない。




 だが高橋は俺ほど警戒はされておらず、情報収集を任せているのだ。




 それも親しい捜査官から話を聞く程度なので精度の高い情報ではない。せいぜい上澄みをすくっている程度のものだろう。




 だがその程度の情報だとしても、今の俺には重要だった。




「なにか目星ついてるんですか。自主的に追っても限度がありますよ」




「ああ。まだ言えないが、連中が押さえていない重大な秘密がある」




「秘密?」




「まだ確実じゃない。だがお前にはできるだけ早く伝えるよ」




 そう言って礼のかわりに缶コーヒーを奢った。




「信じてますよ。と、いっても……できることは少ないですが」




 高橋もどうすればいいのかわかっていない。いくら情報を集めたところで事件を外された刑事ふたりができることなど高が知れているのだ。




 高橋には悪いが、そう思っていてもらわなければ困る。情報を集めてもらいつつ、俺が持っているカードを気づかれないようにしなければ。




 警戒が薄まるまで、俺は俺で真面目を演じなければならない。










めろん。55へつづく

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