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【連載】めろん。53

公開日: : 最終更新日:2020/06/23 めろん。, ショート連載, 著作 , , ,






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・綾田広志 38歳 刑事⑭




 耳が痛い。この痛みは錯覚だとわかっている。




 そうだとしてもこの話を素面で聴くのは堪えた。




 檸檬は自らの身に起こったことを頑なに話そうとはしなかったが、俺が刑事であることと、めろんについて知っていることがわかるとようやく口を開いてくれた。




 そして、蛙子の〝勘〟が正しかったことも証明された。




「…………そうか」




 話を聴き終えて、俺は溜め息を押し殺した。




 大城の件、坂口、両間、めろんの担当を外されたこと。そして、めろんの当事者である檸檬と理沙。




 あらゆることが一気に俺の下に集まってきている。本来ならば歓迎しなければならないところだが、任を解かれている俺には耳が痛い。




 だが俺の耳を傷めつけるのはそれだけではなかった。奇しくも檸檬と、娘の明日佳は同じ歳だ。彼女の話は、まるで明日佳が話しているようで聴いているだけで辛い。




 明日佳に妹はいないが、もしも檸檬のようなことがあったとしたら……。想像するだけで気がおかしくなりそうだ。




 理沙の手前、檸檬は必死に嗚咽に耐え、涙を拭いながら懸命に話してくれた。その健気さが余計に胸を締め付ける。




「これはもう逃げられないな」




「逃げられない? なにが」




「なんでもない。こっちの話だ」




 蛙子にそう返事をし、俺は檸檬に向き合った。




「ありがとう。辛かっただろう」




 口元を押え、ボロボロと泣く檸檬は理沙に悟られぬよう無言で何度もうなずいた。




「どうすればいい?」




「そうだな……すくなくとも、警察はやめておいたほうがよさそうだ」




 俺の言葉を聞いて、蛙子は露骨に驚きを見せる。




「なんで! あんたがそんなこと言うなんて、どういう風の吹き回しよ!」




「どういう意味だそれは」




「そのまんまの意味よ! あんたって、仕事人間じゃん。警察組織には全方位の信頼を置いてるし、プライドも高いでしょ」




 プライドも高いって……こいつはそんな風に俺を見ていたのか。




 そう思うと情けなくなってきた。




 だが傍から見れば俺という男はそういう存在なのかもしれない。耳だけでなく頭も痛くなってきそうだ。




「俺はいつだって現実主義者だ。これまでは自分が所属する警察組織に絶対的な信頼があった」




「それが揺らいでるって言いたいの?」




「違う。そうじゃないが、両間伸五郎にこの子たちを捕捉されるのは避けたい」




「本当に驚くわ……。あんたにそこまで言わせるなんて、その両間っていう人、そこまで危ないわけ」




 危ない……か。危ないのかどうかはわからない。




 ただ、檸檬たち姉妹にとってはあまりいい存在ではないのは確かだ。




 どこからか女子高生を連れてきて暴行を働いたという大城の話を知った後では、簡単に渡せない。それにもうひとつ、めろんから外された俺がこれ以上、個人的にめろんにかかわっていくのならば、このチャンスを置いて他にはない。




 そんなことにこんな幼い姉妹を利用するつもりは毛頭ないが、警察の保護を信用できない以上、俺がどうにかして守るしかない。




 だが俺と一緒に行動を共にするわけにもいかないし、檸檬たちの消息がわからないということはすぐに明らかになる。そうなれば余計に動けなくなってしまう。




「またひとりで考え込んでる」




「蛙子」




「今までは別にいいわよ。ひとりでどれだけ考えこもうが、あんたの問題なんだし。だけど私を巻き込むんなら自己完結なんてさせないから」




「巻き込む、だと?」




「そうよ。まあ、私としてはあんたにさらなる貸しが作れて大儲けなんだけど」




「待て。話が見えない。どうして俺がお前に貸しを作る」




「檸檬たちをどうするつもり?」




 言葉に詰まった。蛙子はまさに今俺が思案していたことを読んだのだ。




「ほら図星。連れてきたのは私だから、ふたりが安全にいられるようになるまで監督するのが私の責任だよ。あんたがどう言おうがね」




「監督か。お前、ふたりをどうするつもりなんだ」




「うちで預かるよ。元々私と檸檬たちは接点がないし、ここにいることはバレない」




「世間が騒ぐぞ」




「そういうのに堪えないメンタルを鍛えてきたから」




 ライターという仕事はそういう側面もある、と蛙子は得意げに言った。




「いつまでも、というわけにはいかないぞ」




「わかってる。できるだけ早く決着着けたいし」




 決着、という言葉を蛙子が使ったことが意外だった。確かに檸檬たちを保護するのなら巻き込んだことになるが、蛙子が使うような強い言葉ではないからだ。




「広志、私の話もひとつ聞いて欲しいの」




「……なんだと?」




 蛙子の目つきが変わる。それは彼女らしくない、焦りと不安が混ざり合ったような複雑な眼差しだった。




「同業者の仲間に、ギロチンっていう名前の子がいてさ……。結構やり手で色んなこと知ってるし、めろんの情報持ってないかなって声をかけたんだ。情報自体は持ってなかったけど、情報源には色んなつてを持っているし、なにより行動力がある。だから、ギロチンの力を借りれば、めろんについて情報を集められると思った」




 蛙子の口調は次第に暗くなってゆく。




 ギロチンは、広島に言ったまま消息を断ったらしい。










めろん。54へつづく

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