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ツアコォウ← / ホラー小説

公開日: : ショート連載, ホラーについて

 

ツアコォウ

 

 

■代弁者

 

 

 

唐揚げを一口頬張る。

 

 

口の中で肉がブチュリと汁を吹き出しつぶれた。

 

 

咀嚼の度に肉汁は悲鳴を上げ、やがて形を失いバラバラになった。

 

 

すりつぶされ、細かく千切られ体液すらも奪われた唐揚げだったのものは、ごくりとのどぼとけを鳴らし、喉を通って胃へと落ちる。

 

 

次に口内に入ってきたのは、白米だ。

 

 

これもぐちゃぐちゃになるまで噛まれていたが、不思議なことに体液を持たないはずの口内は唾液でタプタプになっている。

 

 

これもやがて喉から胃に落ちていった。

 

 

てらてらとぬめり光る歯と大きく開かれた口。今度はレタスとキュウリのスライスだ。

 

 

バリボリと惨たらしい音でもってレタスとキュウリが噛み砕かれる最中、胃の中では先ほどの唐揚げと白米、その前に食べられた味噌汁の具などが胃液とないまぜになっている。

 

 

元々は出会うはずもない鳥と米。

 

 

無残に散らばるその他食材たちは、自分たちの元がなんであるかさえも忘れてしまっていそうだった。

 

 

それもそうだ。

 

 

それらはみんな、一人の人間に食われたのだから。

 

 

 

■おいしい食卓

 

 

 

「唐揚げおいしい、ママおかわりぃ」

 

 

小さな男児の声が、彼の胃の中でただ落ちてきた管を見つめる食材らに伝わっているかはわからない。

 

 

だが、赤暗い胃の中で次に犠牲となる仲間が落ちてくるのを待っているだけだ。

 

 

体液にまみれてびしょびしょになったレタスとキュウリが落ちてきた。

 

 

恨めしげにぐしゃぐしゃになったレタスとキュウリは他のそれらと同じく天井の管を見つめている。

 

 

現在、食物連鎖の頂点にいるのは人間だ。

 

 

いや、実際はどうなのだろうか。

 

 

時として人間ですら搾取され、食われる側に立つことがある。

 

 

そうなったときに人間はおびえて許しを請い、命を惜しむのだ。

 

 

胃液の中で溶けていくばかりの食物たちが人間と同じように命乞いをするのかはわからない。

 

 

おそらくほとんどの場合がそんなことはしないのだろう。

 

 

人間には知能があり、それが感情に理由をつける。その結果、恐怖に耐えられなくなり、自らの死に慄くのであろう。

 

 

要するに恐怖という感情は動物であろうが植物であろうが持っている。

 

 

ただ人間のように許しを請う言葉も感情も持ち合わせていないということだ。

 

 

そう考えれば、やはりここで溶けて人間の栄養分になるだけの食物とは、ただ食われるだけの空しい存在なのだろうか。

 

 

 

■すり替わる

 

 

 

唐揚げが食われ、白米が食われ、野菜が食われることに抵抗もなければ疑問も抱かない。

 

 

それならばもしもこれが人間であったらどうだろう。

 

 

人間にも様々な種類がいる。

 

 

黄色人種、白人、黒人。……大別すればこの三つがわかりやすいが、もっと細かく分ければたかが人間で言えどもその種類は幅広いといえるだろう。

 

 

最初に口の中に入ってきたのが、日本人の子供だったらどうだ?

 

 

「わああっ! やめて、出して! ママ、マ……」

 

 

少年の肩から胸にかけてガリッと恐ろしい音を立ててつぶされる。

 

 

肋骨がひしゃげ、皮を破り、脇あたりがパンクするように裂けたかと思うとそこからゼリーのような脂肪と内臓が勢いよく飛び出した。

 

 

ママ、ママ、と叫んでいた少年の口は「あ」の母音のまま開いたまま白目を向いていた。

 

 

ぴくぴくと痙攣している様子を見るに絶命するまでには至っていないようだ。

 

 

噛み合わせた歯が再び上がったとき、つぶされた肉と一緒に腕がぼとりと舌の上に落ちたかと思うと、唾液と一緒に喉の奥へと流れていった。

 

 

そしてすかさずもう一度歯が噛み、今度は少年の左足だけ形を残し、奥歯にすべてつぶされると歯茎は少年の血で真っ赤に染まった。

 

 

次に中東の黒人が口の中に飛び込んでくる。

 

 

なにやら母国語で叫びながら下の歯を乗り越えようと手をかけたところに歯が閉じた。

 

 

手首をから上を失った男は、失くしてしまった自分の手を見ながら発狂したように叫んだ。

 

 

彼がそうしていると舌が持ち上がり、口の天井との間に男を挟みうねうねと転がす。

 

 

唾液に何度も溺れそうになりながら、男の苦しそうな声が嗚咽に変わっていく。

 

 

舌の先端が男のあごに引っかかり、ぐぐ、と力が入った。

 

 

男の顔が真っ赤になったかと思った次の瞬間、首がプチンと飛んだ。

 

 

勢いよく飛んだ首は外へと飛び出てしまう。

 

 

頭を失った男の体はずるりと喉の奥へと滑り落ちていった。

 

 

開いた口の外から腹の大きな女性が転がり込んでくる。

 

 

女性はごろごろと転がりながらも必死で腹をかばっているようだった。

 

 

『今の時期、子持ちは美味いんだよ』

 

 

うねる口の外から聞こえてくる声。

 

 

我々の食物で言うところの、魚や卵……などといったところだろうか。

 

 

怯えて恐怖に染まっているのに、必死に彼女はおなかの子供を守ろうとしている。

 

 

誰でも彼女を応援してしまいたくなるだろう。

 

 

ぶちゅん、

 

 

それもまた無慈悲に裏切られることとなる。

 

 

 

■食物連鎖の長

 

 

 

これらの食物を人間に入れ替えてみることに意味があるのかはわからない。

 

 

同情すべきことでもないし、できたかどうかもわからない。

 

 

少なくとも、今日の食事くらいは残さずに食べてみたいものだね。

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