ホラー小説 / ゴミ 2
■金曜日のゴミ
「はい……ええ、それで困っていて……。それで出来たらそのなにか対策というかその……」
『でもさ、どこの誰かはわかんないけどそんな悪趣味なことされるってことはあんたにもなんか問題あんじゃないの?!
対策って言うだけのあんたはいいけどさ、こっちはそれを用意するのも大変なんだよね。大体他の部屋からはそういった苦情も来てないわけだし、悪いけどもうしばらく辛抱してよ。
そういう奴はきっと飽きるまでやったら急にパタンと辞めちゃうだろうしさ』
「そんな! 気休め程度でも結構なのでどうか……あっ」
管理会社に電話し、「そういうことは独断ではできないので家主さんに直接言ってくれないか」と言われたので家主に電話したところ、私の悩みなどせいぜい隣の家の犬がうるさい程度にしか思っていないのかこんな風に一方的に完結されてしまった。
ツーツーと向こうの相手が不在なのを知らせるお馴染みの電子音が空しく耳の奥を叩き、私は途方に暮れてしまった。
これからもまたあの金曜日のゴミと付き合って行かなくてはいけないのか……。
重く吐いた溜め息は宙を漂うことなく、力なく重力に従うように床に転がった。
ため息が転がった先に例の金曜日のゴミ袋が我が物顔で玄関に居座り溜息の行き場を塞ぐ。
あれから数週間経ったが相も変わらず投げ込まれるゴミに耐えられなくなった私はこうして管理人に取り合って見るものの全く相手にされない。
東京というところはなんて人が冷たいとこなのだろう。
決して華々しいだけではない。……いや、住み慣れてしまえば華々しさなんて微塵もない。これならば私の住んでいた田舎の3つ先の駅前のほうがよほど華々しい。
■会社のとある日常
「ねぇ、またあのホクロ?」
給湯室でコーヒーを淹れているとまた奈美がお手洗いのついでに声をかけてきた。
「まぁ……ね」
「ほんっとそろそろ言ってやったほうがいいんじゃない!? 絶対舐められてるって!」
相変わらず楽しそうだ。この女にはさぞかし悩みなんてないのだろうな……。
そう思うとなんだか無性に腹が立ってくる。
「なに? わたしの顔になんかついてる?」
「う、ううんっ! なんでもないよ……そ、そういえばさ」
日頃のストレスのせいか、つい苛立ちが表に出てしまい並の顔を睨んでしまった。
こんな私に睨まれるだなんて思ってもいない奈美にはバレなかったのが救いだ。
だけど咄嗟に話題を変えようとした私は「そういえばさ」まで言ったところで迷った。
この「そういえばさ」の次になんと話を続ければいいのだろう。
「……ん?」
「えっと、奈美のマンションにはゴミのルール守らない人っている?」
思わず聞いてしまったのは唐突なゴミの質問。
ほぼ無意識だったけど、これが生活の大きな悩みのひとつだったからかつい口から出てしまったのだ。
「そうなのよー! いるよね! プラの日に生ごみ出してしばらく臭かったり、粗大ごみだってちゃんと日を守らないのが多すぎ! この間もね、ジュースの缶とかコンビニの袋に入れて捨てるからさー部屋に帰って彼氏に愚痴ったの。そしたらそれ捨てたのが彼でさぁ~」
その場しのぎに言った質問に奈美は妙に乗っかってくれ、なんとか助かった。
「でもなんで? 真里菜のマンションでも変なのがいるの?」
「ううん、なんか時々うちのベランダに無断でゴミが投げ込まれてて困ってるの……」
ゴミの話題に思いがけず同調してくれた奈美に柄にもなく心を許した私はつい悩みを口走ってしまった。
「ええっ! マジで?! それって超悪質じゃん! 警察電話したの警察」
「そんな警察は大げさだよ……。でも管理人さんには言ったんだけど相手にされなくて……さ」
奈美は怒ってなにかを言おうとしたが、なにかを見つけて小さく手を上げるとトイレへと消えていってしまった。
「原口!」
背後から声を掛けられて心臓が止まりそうになった。
「コーヒー淹れるのに何十分かけるつもりだ? うちの会社はお前に小遣いやるためにあるんじゃないんだよ。仕事も出来ない上に、コーヒーもろくに淹れられないなんてどうなってんだ!」
そう、ホクロを見つけて奈美はその場から離れたのだ。
「す、すいません……」
「今度は何だ? また湯を沸かしたのか? それとも水道局にでも電話していたのか。俺もお前みたいにコーヒー淹れる振りしてサボりながら給料もらいたいもんだ」
人格を疑うような言葉を投げつけられ私は返す言葉を失くし俯くしかなかった。
「スタイルも悪いし、顔も並以下……彼氏もいないんだろ。同情できんな」
「プ、プライベートのことはやめてください。それに……」
次から次へと投げつけてくる汚い言葉のボールに耐え続けようと思っていたが、思いがけないプライベートへの侮辱につい反論してしまった。
「それに、なんだよ」
「私は彼氏と住んでますから……!」
どさくさに紛れて嘘をついてしまった。
我ながら情けない……。だがこんな汚らしい男にこれ以上馬鹿にされるのは耐えられなかった。彼氏がいるとでもしておけば少しは気を使うのではないかと思ったからだ。
「お前が彼氏……? ほぉう、それは物好きがいたもんだな」
「だからもうやめてください……。仕事のことでなにを言われるのは構いませんがプライベートのことを言われるのは耐えられません!
一緒に住んでいる彼にも心配させたくないし」
一度吐いた嘘というのはなぜにこうも重ねてしまうのだろう。勢いで一緒に住んでいるという設定まで追加してしまった。
「そうか。それはすまなかったな、言い過ぎたことは謝るよ。ここのところ案件が立て込んでて苛立ってたんだ。どうか許してくれ」
彼氏の存在をちらつかせた途端、ホクロは急にしおらしくなった。やはりそういった存在が恐ろしく感じるのだろうか。
「い、いえ……もういいんです」
そう言い捨て自らのデスクに戻った私は、パソコンと向かい合って肝心のコーヒーを淹れるのを忘れていることに気付き、これではまた降り出しではないかと強く悔いた。
だがホクロはデスクに戻ってくる際に自分でコーヒーを持ち帰り、私には一切なにも言及することはなく、そのまま何事も無く一日が終わった。
そんなホクロの態度を見て私は抱えていた悩みが一つ下りた気がして、その日はよく眠れた。
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