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【連載】めろん。73

公開日: : 最終更新日:2020/12/08 めろん。, ショート連載, 著作 , ,






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・破天荒 32歳 フリーライター⑮




 警戒に値しない、ということは広志に関してもそうだろう。せいぜいねずみが一匹迷い込んだ程度にしか考えていないのかもしれない。ということはこの施設は誰にでも入れるような、オープンな施設なのだろうか。




 もしもそうだとしたなら、両間の目を気にしてこそこそと侵入した私たちが間抜けすぎる。




「ここは誰でも入れるようになっているの」




「そんなわけないだろう。君らがくることをあらかじめ知っていたから俺が入れたんだ。忘れたか」




「忘れたかって、あんたは途中で現れたでしょうが」




「綾田か事情は聞いているはずだ。前後の文脈でわからないなら忘れたのと同義だ」




 いちいち反応する気が失せる。言っていることはもっともだが毎度論破しなければ気が済まないのかこの男は……。




 とにかく、誰でも入れる施設でないことはわかった。




 それに私たちは坂口に招き入れられたが、両間に招かれたわけではないということも。ということはそもそも奴らに関知されていない存在ということでもあるわけか。




「取るに足らないってことか。癪だけどちょっと気が楽になったかも」




「その解釈で問題ないが、目立つことをすればおのずと目を付けられる。綾田が町でなにもしていなければいいが」




「町?」




「ああ、この奥には疑似的だが町がある。めろん発症者とその近親者――つまり、発症リスクのある人間が住民として集められている」




「どういうこと」




「鬼子が発症した村があった土地だ。俺も含めてこの土地そのものにも関係があるのではないかと踏んでいる研究者は多い」




「いや、そうじゃなくて……わかってて広志を行かせたの!」




「そういえば綾田は知らなかったか」




「知らなかったかじゃないでしょ!」




 思わず立ち上がり怒鳴った。




 大声に一瞬、体を強張らせた坂口は黙ってこちらを振り返る。冗談じゃない、なにを考えているのだこの男は。




「めろん発症者ばかりの町なんて、そんなところにたったひとりで行かせたなんて死ねって言ってるようものじゃない!」




「ああ。十中八九死ぬだろうな」




「なに言ってんのよあんた!」




 怒髪天を衝くような烈しい怒りを放出し、坂口に詰め寄った。




「あんた最初っから広志を殺すつもりだったのね!」




「殺すつもりはない。それに十中八九死ぬだろうと言っても一般論だ。そうあってほしくないがね、という意味も込めてある」




「はあ? 散々人には文脈を読めだのなんだの言っておいて、自分はそんな行間を読めみたいな曖昧な言い方すんの? 人を舐めるのもいい加減にしてよ!」




「落ち着け。悪かったよ、説明が足りなかった。だから手を放せ」




 気づけば私は坂口の胸倉に掴みかかっていた。怒りで我を忘れていたらしく、完全に無意識だった。




「……確かに死ぬ可能性は高い。だがそれは事情を知らないもの、つまり両間たちから〝一方的に゛連れてこられた者たちの行く末だ。少なくとも進んであそこへ行ったものはこれまで見たことがないし知らない。綾田の場合、明確に自分がなにをすべきかわかっていて行った。これは大きな違いだ」




「それはあんたが広志になにも言わずに行かせた理由になってない」




「当然だ。この会話は盗聴されている。まあ、連中が聞いているかどうかは怪しいがね」




 思わず息を呑んだ。




 そうだった、盗聴されている。聞いていないかもしれないが聞いているかもしれない。録音もおそらくされているだろう。今聞かなかったとしてもあとで聞くかもしれなかった。




「とはいえ、ここまで話してしまったならもはや遅いがな」




 苦々しい顔で坂口はため息を吐いた。怒りのまま詰め寄る私の手前、話すしかなかったのだろう。それを察してすこしいたたまれなくなった。




「……ごめん」




「もう遅い。まあ、俺の研究室の音声を聞いているとは思えないが……一応、油断はするなと言っておく」




「私たちは広志を待つしかないの」




「綾田を待つ以外に方法があるのならば、俺を待つことだな」




「あんたを待つ?」




「俺だってずっと遊んでいたわけじゃない、ということだ」




 そういって坂口は再びパソコンに向き合った。




「その子を救いたいんだろ」




 坂口の言葉でつい理沙に顔を向ける。ずっと眠ったままの理沙を見るだけで胸が締め付けられた。




「蛙子ちゃん……」




 不安げな顔で檸檬がこっちを見ていた。




 怒りの剣幕を目撃して不安にしてしまったらしい。それがまた私の胸の奥をチクリと痛ませた。




「ごめん、檸檬。私が一番落ち着いてなきゃだめなのに」




「ううん……理沙のために怒ってくれたんだよね」




 坂口に激怒したのは広志についてだったが、ここは檸檬の勘違いに乗っかっておこうと思った。




「うん、でも大きな声で驚かせちゃだめだよね」




「怖かったけど、うれしかった。蛙子ちゃんが理沙のために怒ってくれて」




「あはは~……、それより檸檬はやっぱり人を見る目があるよ」




「なんで?」




「だって……」




 そう言いながら坂口の後ろ姿を見る。




「あの人、かなり性格と口は悪いけど檸檬の言った通り信用はできそうだから……」










めろん。74へつづく

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