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【夜葬】 病の章 -54-

公開日: : 最終更新日:2017/12/19 ショート連載, 夜葬 病の章



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村に帰る道のりは重苦しいものだった。

 

 

とは言っても、それは鉄二だけに限ったことで窪田は飄々としている。

 

 

窪田は普段通りの調子で幾度となく鉄二に話しかけていたが、無言を貫く鉄二に呆れていつしか話しかけるのをやめてしまったのだ。

 

 

鉄二は怒っていた。理由は言うまでもなく窪田の勝手な行動だ。

 

 

宇賀神の前で突然放った寝耳に水の発言。

 

 

――墓を掘り起こすだと? バカな。いくら俺があの村が嫌いだからと言っても、できることとできないことがあるだろう!

 

 

心の中ではそう怒鳴り散らしたい気持ちだった鉄二だったが、それは口にしなかった。

 

 

なにを言っても窪田という男には響かないことがわかっていたからだ。

 

 

「あんたならわかってくれると思っていたんだがねぇ。アテが外れたか」

 

 

窪田は暗に『結局あんたも船乗りたちと一緒かね』と言っていた。

 

 

それを言葉尻から感じていた鉄二だったが、聞こえないふりをしてただ歩いた。

 

 

「まぁただんまりかね。大人げないよ、黒川さん。そりゃあ黙ってたのは悪かったよ。けど、宇賀神さんに話す前にあんたに拒まれたら全部水の泡だ。わかるだろ?」

 

 

煙草に火を点け、美味そうに煙を吸い込む窪田は間を空けて「それはそれとして……」と話題を変えた。

 

 

「あんたが怒ってるのはわかったよ。正直なところ、そこまでおかんむりになるとは思ってもみなかった。黙っていたのはそこまで本気で怒ることじゃないと思っていたからだしねぇ。それよりも気になってるんだ俺は。あんたが“なぜそこまでムキになっているのか”をね」

 

 

窪田は饒舌に自分の考えを語った。鉄二が相槌ですら打たないことを承知していたからだ。

 

 

「あんたがずっと黙っている間、俺は俺で色々と考えたんだ。あんたの怒っている理由をね。それまではずっと俺に協力的だったのに、『墓を掘り起こす』という話になった途端その調子だ。あんたがあの村が嫌いで、好きで戻ってきたんじゃないというのは俺にも厭というほど伝わっていた。だから町に下りるのはあんたが適任だと思っていたんだ。いや、あんたしかいないってね。

 

 

そんなあんたが我を忘れ、俺との協力関係も反故にしちまいそうな勢いで怒り狂ってる。俺は思うんだ。あんたさ――」

 

 

俺に言ってないことがあるだろう?

 

 

窪田の指摘に鉄二は息が止まりそうになった。

 

 

その表情を見逃さなかった窪田は不敵に笑い、「まあ一服やんなよ」と火を点けたばかりの煙草を鉄二に差しだす。

 

 

無言のままで鉄二はそれを受け取り、深呼吸するように一服した。

 

 

窪田の推察通り、言っていないことはある。そして、その“言っていないこと”が今、鉄二が憤っているなによりの理由だということも。

 

 

「どうせ話したところであんたは信じないさ。『なんだ、あんたも船乗りの連中と同類かよ』と馬鹿にするに決まっている」

 

 

「なんだい? ようやく喋ったと思ったら興味深いこと言うじゃないか」

 

 

鉄二の言葉の真意が見えてか見えずか、窪田は瞳を爛々と輝かせた。

 

 

ここまで口を利いてこなかった鉄二の心情など、この男には関係がないようだ。

 

 

「……だからそのことは話さないつもりだった。俺自身も話す気が無かったからな。だが今肚が決まったよ。この話を聞けばきっとあんたは俺を狂人扱いし、墓をどうこうする気だってなくなるだろう。結果如何によっちゃ村からでるかもしれない」

 

 

「勿体づけるねぇ。ひとつ断っておくがね、あんたがどんな風に俺を思っているのか知らないが、俺はあんたが思っているよりもあんたという男を買っている。今さらどんな与太話をされたって船乗りの連中とは一緒にしないさ。信じるかどうかは聞いてから決めさせてもらう」

 

 

「馬鹿か。俺はあんたに墓暴きをやらせたくなくって言っている。俺の話を信じれば墓を暴こうなんて思わないだろうが、逆だったらどうだ? 俺の話を信じないのなら余計に墓を暴こうと思うだろう」

 

 

その場合、鉄二は相棒として外され、新参者の中から新しい相棒を窪田は選ぶだろう。

 

 

そうして鉄二とできなかったことを別の人間とやるまでだ。

 

 

結局、話をするだけ損だというものだが、鉄二には勝算があった。

 

 

窪田にはそれ以上のことは言わなかったが、もしも彼が鉄二の話を信じずに新しい相棒を探したとする。

 

 

だが十中八九、それは上手くいかない。窪田本人がいつか言ったように、窪田に協力的な新参者は皆無と言っていいからだ。

 

 

みんな鈍振村の生活には概ね満足している。その中で変革を唱えたのは窪田だけだからだ。それで窪田は自分と同じものを感じ取った鉄二に取り入った。

 

 

つまり最初から窪田は鉄二以外に話に乗る人間などいなかったということになる。

 

 

そうとするならば鉄二が窪田の話から降りた場合、窪田はひとりになる。

 

 

たったひとりで目的をやり遂げられるほどのバイタリティーに満ち満ちているとまでは思えない。村の中で協力者もおらず、墓を暴く。それでなくとも鉄二は窪田の計画を知っているのだ。

 

 

誰にも邪魔されずに遂行するのは不可能だろう。

 

 

仮に話を信じたとしても、それはそれで地蔵還りや福の神さんを怖れて頓挫する。

 

 

どっちにせよ、鉄二の思うように展開は転がる。

 

 

そのはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

-55-へつづく

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