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【夜葬】 病の章 -77-

公開日: : 最終更新日:2018/06/19 ショート連載, 夜葬 病の章 ,



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敬介は松明を持った。

 

 

「普段はね、夜歩く時は提灯なんかで出るんですが、夜葬の時は松明で行くって決まりがあるんですよ」

 

 

そうですか、と誰かが相槌を打った。敬介のおしゃべりとは対照的に、精神的な疲れも相まってクルーたちは静かだ。

 

 

「ああ、そうだ。たしか杉山さん……でしたっけ。僕にこの『シャベル』というものをくれたのは。これは本当に便利なものですね。今回は彼に使いましたが、近いうちに下山してこれを仕入れに行こうと思っています」

 

 

「シャベルが……そんなに役に立った?」

 

 

「ええ」

 

 

弾むように答える敬介に河中は違和感を覚えた。

 

 

シャベルの使用用途といえば、土を掘ること。杉山の死と土を掘る行為から連想されるのは、埋葬……。だが今から【夜葬】を行おうというのに今から土を掘るのか。葬儀が今からであるなら、明日の明るいうちにすべきでは。

 

 

そのように思ったが、あくまでもこの村での風習だ。自分たちの常識は通用しない。

 

 

そういうこともあるのかもしれない、と河中は再び思い直した。

 

 

――しかし、もし埋葬のための土掘りだったとしてもあんな小さなシャベルで棺が入るほどの穴が掘れるのだろうか。

 

 

時間を大いにかければあるいは……。それでもずいぶん非常識な考えだ。

 

 

それに普通は、シャベルなどではなくスコップを使う。この村にスコップもないとは思えなかった。自給自足で畑を耕す必要もある。それほど頻繁に使用しなくとも、一本もないということは考えにくいのではないか。

 

 

そうなるとますますわからなくなった。

 

 

「あの、シャベルをなにに使ったんですか」

 

 

「杉山さんの夜葬にですよ。『どんぶりさん』と切り離すための作業です」

 

 

「どんぶりさん?」

 

 

「まあ、ご対面されればわかりますよ」

 

 

ははは、という敬介の笑いが夜の闇に吸い込まれていった。その言葉に妙なものは感じなかったものの、使用用途をはっきりと答えない態度に河中はもやついた。

 

 

 

少し歩いたところでぼんやりと明かりの集まる館が見えてきた。

 

 

葛城らはここが件の会場であると直感した。村人たちがぞろぞろと館に出入りしているからだ。

 

 

明かりの集まりはそれぞれのもつ松明の光だった。

 

 

「あれだけの人が杉山の死を……」

 

 

葛城が感慨深くつぶやくと、傍らにいた河中や村井らも同調してうなずく。

 

 

正直なところ、山を下りた後の方が大変だった。杉山の家族に彼が死んだことを伝えねばならなかったし、それ以上に遺体を持ち帰っていないことを説明しなければならない。

 

 

当然、家族は納得しないだろう。村に訪れることも充分考えられる。

 

 

それに警察にも話を通さなければならず、まず事件性を疑われるのは避けられない。

 

 

だが村人たちの厚意に甘えないわけにはいかない。葛城が言ったように、杉山を背負ってはとても下山ができないからだ。

 

 

「さあ、みなさんこちらへ」

 

 

そこは、村で一番大きな館だという。元々はここの村長の邸宅だったというが、家主が没後、ここは葬祭場として使われるようになったという。

 

 

杉山でなくとも村人が死ねばここで夜葬が行われれるのだ。

 

 

「それだけでなく結婚や、還暦の祝い、出産や盆の集いでも使われるんですよ」

 

 

敬介は暗い廊下を蝋燭片手にクルーを先導した。

 

 

確かに広い館だ。廊下を歩けばいくつも部屋を横切る。時折村人と行き交う際にも半身を譲らずにすれ違えた。廊下も広いということだ。

 

 

「村の人たちが持っているアレ……なんなんですかね」

 

 

口数の少ない田中がふと葛城に耳打ちしてきた。

 

 

田中の指摘は、実は葛城も気になっていたことだった。

 

 

「さあ、饅頭かなにかか?」

 

 

すれ違う村人はみな一様に手のひら大の包みを持っていた。確かに言われてみれば饅頭かもしれない、とクルーは思う。

 

 

「だけどこんな急に沢山用意できるもんなんですかね。この村は店もないですし」

 

 

金銭のやりとりのない自給自足の村。事実はどうかはわからなかったが、4人の共通認識として、鈍振村はそれだけ閉鎖された村にしか思えなかった。

 

 

「どうぞ、杉山さんの『どんぶりさん』はこちらで眠っておいでです」

 

 

「どんぶりさん? まただ」

 

 

どんぶりさん、という呼称に反応したのは河中だった。さっきも敬介がその名を口にしていた。

 

 

「故人をしのんでどんぶり飯を食え、とかそういうことだろう。こっちで言うところの通夜振舞いみたいなもんだろう」

 

 

葛城の例えにクルーはうなずく。そのように言われれば、そうとしか思えなかったからだ。

 

 

ふすまを開け、敬介は4人を招き入れた。

 

 

部屋の中は蝋燭でぼんやりと照らされているが、それでも薄暗い。改めて電気のない山の不便さを感じた。

 

 

「杉山……」

 

 

部屋の中央に、杉山は横たわっていた。

 

 

布団から顔だけを出し、すっぽりと入っている姿は眠っているようにしか思えない。

 

 

「まさかこんなところで死んじまうなんてなぁ……」

 

 

涙声を滲ませ、河中がつぶやく。田中、村井が続いて故人を悼む言葉を口々に漏らした。

 

 

そんな中、クルーのリーダーである葛城だけは無言のまま腰を下ろした。

 

 

ひとり物思いに耽り、心の中で杉山に語りかける。長い付き合いではなかったが、知らない間柄でもない若い技術者。失った打撃は大きい。

 

 

4人の前で横たわる杉山は、顔のあたりが暗くてよく見えなかった。

 

 

誰もがその顔をしっかり見ようとはしなかった。仲間の死に顔など率先して見たいもののはずがない。

 

 

だが葛城は、だからこそ自分が見てやる義務があると考えた。

 

 

「顔を見てやるからな……」

 

 

そう言って蝋燭立てを手に取り、葛城は明かりを杉山に近づけた。

 

 

 

そこに誰もが見慣れた杉山の顔はなかった。

 

 

顔のあるはずの場所に大きな穴と、そこに詰められた真っ赤な色の白米。

 

 

「ひやああああああ!」

 

 

葛城は悲鳴と共に腰を抜かした。

 

 

 

-78-へつづく

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