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【連載】めろん。32

公開日: : 最終更新日:2019/11/12 めろん。, ショート連載, 著作 , , ,





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・綾田広志 38歳 刑事⑧




 大城と連絡が取れなくなって一か月が経とうとしている。




 県警に問い合わせても『有給休暇』の一点張りで話にならない。




 どこの世界になんの前触れもなくひと月も有休をとる警察官がいるのか。少なくとも俺は同業者だし、大城がそんなことをしないということも人より知っている。




 大城になにか不測の事態が起こった。そうみるのが妥当だろう。




 ――両間伸五郎……




 真っ先によぎったのはそれだった。そして、あのニヤついた顔と狡猾な蛇のような尖った目。他に考えられる可能性はなかった。




 例えば家族に不幸があった。




 あり得るかもしれないがそれにしたって休みすぎだ。そうでなかったとしても連絡がつかないのはおかしい。




 俺は大城の家の場所も家の電話番号も知らない。携帯と県警を抜いた現状、八方ふさがりだった。




 その一方で俺のほうは不気味なほどに静かな毎日が続いた。




 メロンについての調査をサボっていたりはしないが、情報がまるっきり入ってこない。ソレに関しては今に始まったことではないが、蛙子や大城のおかげで情報通の気分になっていたのかもしれない。




 静かな生活の中で俺の焦りはさらに増幅してゆく。大城の身になにかあったのか。




 だがあまり詮索すれば両間に気付かれる。もう気付かれているかもしれないが、もしもそうならば俺になんの接触もしてこないのは不自然だと思った。




 蛙子とは連絡を取り合っているので彼女の身は安全だが、大城にもしものことがあったとするなら蛙子はこの件から引かせるべきだ。




 無論、大城の件が俺の思い過ごしであれば憂慮すべき問題ではない。が……。




 大学時代の友人に電話をするため、住所録を引っ張りだす。結婚した折に昔のものはほとんど処分したが、一応これだけは置いておいて正解だった。




 思えば葵はこの中から親しい人間をピックアップし、年賀状を送ってくれていた。




『いつ旧友が助けてくれるかわからないよ』




 年賀状の宛名を打ち込んでいる時、決まってそう言っていた。




 もうずいぶんと昔のことのように思うし、実際にそうなのかもしれない。明日佳のよそよそしさに触れてからは余計にそんなことを思った。




 住所録から探したのは大城ではなく、俺と大城の共通の友人だ。




 片手で数えられるくらいにしかいなかったが、誰かは大城の住所くらいは知っているかもしれない。




 いつか葵が大城の住所を訊いた時、知らないという俺を非難したことがあった。




 今でも親交のある唯一の友人なのになぜだ、と。




 女はわからない。親しければ親しいほどそういうことは聞かないものだということに。




「……あった」




 載っている友人はことごとく住所が変わっていて、そのことは認知していた。面倒だからそのまま放置していたのだ。




 だがひとりだけ、住所が変わったという報告を受けていない友人の名がある。




「坂口、か」




 厭な名だ。




 確かに共通の友人ではあるが、もともとは大城が仲が良かった男。人の神経を逆なでするようなことを愉快がるきらいがあり、ウマが合わない。




「聞くだけ聞くだけ……」




 自分に言い聞かせ、その住所の電話番号を調べた。坂口の性格から考えて、引っ越したりしたとしてもわざわざ報告をしてくるとは思えない。




 なるようになれ、を地で行く自由人坂口勉(さかぐちつとむ)。確か結婚していなかったはずだ。ということは、この住所だけが生きている……というのも正直怪しい。




 ひとつずつ確かめるように電話番号を押し、スマホを耳に当てた。




『誰?』




 遠慮のない一声で名を聞かずとも確信した。坂口だ。




「綾田だよ。久しぶりだな」




『綾田? 綾田って、あの綾田か』




「そう、大学の」




『なんの用だ』




 少しは懐かしむということができないのか、と呆れながら俺は本題を切りだす。




『大城の連絡先だと。知ってるが、そんなもの簡単に教えられるか』




「そういうな、奴と連絡が取れなくて心配しているんだよ」




『口ではなんとでも言えるだろう。あることないこと言ってあいつの個人情報を抜こうとしてるんじゃないのか』




「疑い深いやつだな。俺とあいつは大学時代の友達では一番親しいし、連絡も取り合っている」




 だったらなぜだ、と食い下がる。




 やはり非常に面倒な奴だ。昔から人を信用しないし、必要以上に仲良くもしない。




 葵がこの男に毎年年賀状を送っていたなんて、今となっては頭が痛くなる汚点だ。




 ただし、変人には変人たる才覚があるのも確かだ。




「わかった。白状するよ、大城はなにか事故か事件に巻き込まれている可能性がある。公安絡みの案件でな、詳しくは言えないが家族ぐるみで連絡が取れていない」




『家族ごと? 本当か』




 嘘だ。広島県警が大城の失踪を隠していることは確かだが、家族ごと消えたという確信はない。




『信用できないな。それで俺に連絡をしてきたというのは不自然だ。なぜ俺なんだ』




「俺がだらしないからさ。大城を知る他の連中のことは知らないが、お前の連絡先だけは変わっていなかっただけだ」




 ふん、と電話の向こうで鼻を鳴らすのが聞こえた。




『生憎俺は学生時代を懐古する性分は持ち合わせていなくてな。知っているだろうが、俺はそれどころじゃない』




「研究か。だったら早くそれに戻るために教えてくれよ」




『だめだ。信用できない。どうしても教えてほしいなら、直接俺のところに来るくらいの姿勢を見せろ』




「わかったよ。いつもいるのか、そこに」




 本当にくるのか、とは聞かなかった。坂口は短く相槌を打つだけに留まる。




 やっぱりこいつは食えない。




 そう思いつつ、俺は坂口が勤める岡山の大学へと向かった。










めろん。33へつづく



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