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【連載】めろん。33

公開日: : 最終更新日:2019/11/19 めろん。, ショート連載, 著作 , ,





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・綾田広志 38歳 刑事⑧




「准教授は地下2階、生体機能解析学研究室にいらっしゃいます」




 窓口でそう聞いたはずだが当の研究室は鍵がかかっている。腕時計で時間を確認し、念のためスマホでリマインドした時間を確認した。




 10分早めに着き、もう1時間近くも待ちぼうけを喰らっている。




「まさかあの野郎、約束を忘れてるんじゃないだろうな」




 待つことには慣れているが、坂口が待ち人とあらばイラつきも増幅する。このまま来ない、なんてことにはならないか胆が冷える。




 もう一度窓口に行って確認しようかと思っていた時、廊下の奥から白々しさを感じる足音が近づいてくる。




 これが坂口でないとしたらくるまで徹底的に待ち続け、やってきたら殴ってやると密かに決めた。




「驚いたな。本当にきたのか」




 さして驚いてもいない様子で坂口は口を開いた。




「バカだと思っていたが、そこまでバカだったとはな」




「久しぶりに会った学友に対して悪口しか言えないのか。俺の方こそ意外だったぞ、本当にお前がここにいるとはな」




「嘘は嫌いでね」




「正直者というより皮肉屋だからな」




「知った口をたたくな」




 俺も大城も歳を取ったが、坂口はさらに倍老けて見えた。




 50代だと言っても通りそうなほどの貫禄がある。それもそのはず、白に近いグレーの髪は伸びたい放題。辛うじて髭は剃っているが、代わりに額と眉間に深く刻まれた皺が気難しさを語っていた。




 流行りや美意識に無頓着さを突き付ける銀縁の眼鏡の奥の瞳は、本当に視力の助けになっているのか疑うくらいに細めている。




 風貌や顔つき、態度は驚くほどに学生時代と変わっていない。ただ、変わらないまま年老いた。玉手箱でも開けてしまったのだろうか、とバカなことを思うほどに坂口は変わらず変わっていた。




「准教授だって? その歳で大抜擢だな。相変わらず研究に明け暮れているのか」




「おべんちゃらはいい。俺の研究に毛ほどの興味もないことくらいは知っている。わざわざここまでくるってことは本当に困っているようだな」




 俺は素直にうなずいた。




「大城と連絡が取れないのは本当に参っている。心配なんだよ」




「ふぅん。心配ならお仲間に頼ればいいじゃないか。警察なんだろ、お前」




「察しろよ。そうもいかない理由があるから来たんだろ」




「察しないね。俺は理系だ。行間を読むとか、空気を読むとか、そういうものに忖度するのは無駄極まりない。事実だけがあればいい」




 相変わらず疲れる。早くも俺は岡山くんだりまでやってきたことを悔い始めていた。




「それにしても『生体機能解析研究所』とは大仰な研究だな」




「やってることは変わっていない。そもそもお前とは学部も違うだろう」




 言われてみればそうだ。坂口は大城の友人で、そのつながりで数度会っただけだ。




 そのたった数度の邂逅でお互い相性が最悪だと認めた。




「お互い顔も見たくないだろうに。よほど必死と見える」




 喋りながら坂口は研究所のドアを開けた。




「くれぐれもその辺のものに触れるなよ。お前のクビが飛ぶくらいじゃ到底責任を取れないような代物に溢れてるんだ」




「オーケーオーケー。触らない」




 アメリカ人のように両手を広げて坂口の指示に従うことをアピールした。




 坂口はそんな俺を一瞥すると鼻を鳴らして奥へと進む。




「本当はお前をこの研究所に入れたくないんだがね。学生たちの目がある食堂は御免だ」




「外に行けばいいじゃないか」




「人が嫌いだ。お前もな」




「ひとことが多いな」




 茶はださんよ、と坂口は研究室の奥にあるデスクに腰をかけた。准教授というからにはもっと豪奢な椅子にでも座っているのかと思っていただけに意外だった。




「話を聞こう」




「なんだと?」




「大城のことを聞きに来たんだろ。だがお前がたったそれだけのことでこんなところまで赴いてくるとは思えなくてね。バカだが考えないバカではない」




「褒めてるんだよな、それは」




「なにか、やんごとなき理由があって大城の行方を追ってる。違うか」




「刑事に転職したくなったか」




「なに。ただの暇つぶしさ。ここのところ研究が煮詰まっててね。変化の見込めない研究より、お前が大嫌いな俺のところに来てまで知りたいことの背景が気になってる」




 そこまで興味を持っているということはこの男は絶対に俺が来ることを承知していた。




 その上であれだけ俺を待たせたのだ。




「相変わらず性格がいいな」




「よく言われる」




 減らず口もな、と言いかけたがやめた。




「だが大事なことを忘れているぞ、坂口」




「なんだ」




「俺は刑事だ。簡単に話すと思うか」




 そう返事をしてやると坂口は前のめりになって目を見開いた。口元は笑みを浮かべている。




「なんだ、事件か!」




 しまった。




 思った時には遅かった。坂口は大城失踪の背景になにかしらの事件が隠れているのだと悟った。




「待てよ坂口。盛り上がっているところ悪いが、この件はなにひとつとして話せない。唯一、話せるとするならば察しの通り大城は事件に巻き込まれている可能性が高いんだ。だから、あいつのことを教えてくれ」




「事件に巻き込まれているのに警察が動かない? 単独で動いているのはなぜだ」




「そんなことまでは言っていない。公表されていないだけでちゃんと正式な捜査が行われている」




 口から出まかせだった。坂口にまで知られるとまずい。




 味方にすると頼れそうな気はするが、そもそも信用に足る人物ではないのだ。




「だったら当ててやろう」










めろん。34へつづく





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