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【連載】めろん。65

公開日: : 最終更新日:2020/10/06 めろん。, ショート連載, 著作 , ,






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・綾田広志 38歳 刑事㉒




 女から教えてもらった家にやってきた。




 わざわざ思うこともないが、外見は普通の家だ。この町にあるどの家とも同じ、どこででも見るような、ごく一般的な一戸建て。




 表札でもでていてくれるとありがたかったが、さすがにそこまでは親切ではないらしい。




 本当に信じていいのか。




 いまさら胸によぎる不安。だがここの住人以外に情報を入手する術はない。あれが両間の息がかかった者だとしたら、思うように転がされているだけだ。




「……つまり、考えるだけ無駄。ということか」




 俺は深呼吸をするとドアの前に立った。




 どういうわけかインターホンの類はない。仕方なくノックを三回、叩いた。




 反応がない。さらにもう一度、叩く。




「留守か……?」




 誰かに気づかれるかもしれないので躊躇したが、意を決しノックと共に呼びかけた。




「すみません、誰かいますか」




 反応は……ない。




「仕方ない。出直すか」




 ここが大城の家だという確証がない以上、しつこく呼びかけるわけにはいかない。




 他の情報を集めながら、あとでもう一度訪ねようと決めた。




『イル……キュア……♪』




 ドアから離れようとした時、ふとなにかの音楽が耳に入ってきた。ノックと自分の声で気づかなかったようで、家の中から鳴っている。




「誰かいるのか」




 気を取り直し、もう一度だけノックしてみる。やはり無反応だ。




 だが奥から聞こえる音楽は鳴り止んではいない。だがかなり注意深く耳を澄まさなければ聞き逃してしまうほど微かな音だ。




 離れようとしたところで耳に捉えたのは偶然とはいえ、運が良かった。




 一体なんの音楽がかかっているのか、当然気になる。ドアに耳をあて、集中した。




『……マイル♪』




 これは――アニメの歌だ。確か、明日佳も昔好きだった……。




 そういえば大城のところも娘がいたはずだ。明日佳よりも小さかったはず。それならばあのアニメを観ていてもおかしくはない。いや、むしろそれしかあり得ない。




 やはり大城が住んでいるのかもしれない。




 たったこれだけの要素で断定するのは尚早かもしれないが、ふたつ揃えば充分だ。




「大城、俺だ! 綾田だ! いるのか」




 今度は拳でドアを叩く、近隣にも聞こえるほど騒々しく呼んだ。




「おい、誰かいないのか!」




 おかしい。これだけすれば音楽をかけていても聞こえているはず。留守だとすれば音楽などかけているだろうか。




 寝ている? 家族3人仲良くお昼寝か?




 あり得なくはないが可能性は低い。思い切ってドアノブを回してみた。




「くそ!」




 やはり鍵は閉まっている。




 俺は家の裏にまわってみることにした。




 小さな庭があり、出入り用のガラス戸がある。カーテンは閉め切られているが、微かに隙間があった。




 そこから中をのぞくと、細い足首が見えた。つま先は天井を向いている……床に地べたに座っているのか、もしくは――仰向けに倒れているかのどっちかだ。




 もしかすると本当にお昼寝タイムなのかもしれない、が、俺にはそうは思えなかった。




 隙間から見える光景は狭い。




 その足の先がどうなっているのかがわからなかった。




 もしもメロンの犠牲になっていたら……。




 焦りが募る。そもそもここはメロン発症者とその近親者だけが集められた施設だ。




 外よりも〝もしかして〟の可能性は厭になるほど高い。




 ドア前との違和感を覚え、ガラスに耳を当てる。




『プリキュア♪』




 さっきよりもはっきり聞こえる。この部屋で音楽は鳴っているようだ。




 しかし、あの足は大城のものではない。細く、白いあれは大人の女性のものだ。すくなくとも子供のそれではない。




 この部屋に子供はいるはずだ。




「すみません、起きてください!」




 ガラス戸を叩くが足はぴくりとも動かない。厭な予感はさらに膨らんでいく。




 俺は庭を見渡し、手ごろな石を探した。芝生の庭に石などない。




 代わりに使えるものがないか見回すと、物干し竿がかけられているのを見つけた。




「これだ」




 すかさずそれを手にすると、意を決し鍵のあたりのガラスを突いた。騒音を撒き散らしてガラスが割れる。




 鍵をまわし、戸を開けると払うように勢いよくカーテンを開けた。




「あ……」




 広がった光景を前に絶句した。




 隙間から見えていた足はやはり仰向けに倒れていたものだった。立ち尽くす俺からは腰から上はソファに隠れて見えない。だが、代わりに奥に並んで横たわる少女の姿があった。眠っているようにも見えるが、仕事柄俺はすぐに眠っているわけではないことがわかった。




 ふらつく足取りですこしずつ中に入って行くと、同じようにして横たわる女の姿。数えるほどしか会ったことはないが、それが大城の妻であることは間違いない。




 ふたりは――死んでいた。




「そんな……バカな」




 近づくとふたりとも首に手で絞められた痕があった。誰かに首を絞められて殺されたのだ。




 こんな姿を大城が見たらと思うだけで身が裂かれそうになる。この部屋に大城の姿がないということは、彼はまだこれを――




 ふたりが横たわる足元まで来た時、正面に畳の部屋があった。




 その部屋の中央、まるで宙に浮くようにして大きな影がぶら下がっていた。




 それは、ふたりを…………妻と娘を見下ろすようにして首を吊っている大城だった。




「嘘……だろ、おい」




 大城は死んでいた。




 部屋にはプリキュアの歌が繰り返し流れていた。




『スマイル! スマイル! スマイル! スマイル!』










めろん。66へ続く

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