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【連載】めろん。64

公開日: : 最終更新日:2020/09/22 めろん。, ショート連載, 著作 , , ,






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・綾田広志 38歳 刑事㉑




 女の話はこうだ。




 この町にいる誰もが近親者に原因不明の精神疾患を抱えているといった。それは人を傷つけ、食べたい欲求に駆られ実践してしまう病……つまり、メロンである。(この町の住民はそれをメロンとは呼ばず、ただの『病気』として呼んでいるようだ)




 どの住民もいきなり警察を名乗る者たちに強引に連行され、訳も分からずにここに閉じ込められているのだという。




 事情が事情だけにどの住民たちも互いを信用しておらず、警戒しあっているという。




 だがそれだけではない。当然、メロンを発症した人間がいるのだからこの町の中からも新たな発症者が現れる。その都度、職員たちがやってきて連れていかれるらしい。




 要するにここは巨大な『実験室』であるに等しい――いや、実験室だ。




 メロンを発症する可能性が高い人間を家族ごと連れてきてしまえば手っ取り早い。そういう思惑が透けて見えた。だがまともな人間の考えることではないし、思いついたとしても実行に移すような優れた発案ではない。




「バカげている……」




 驚きとくだらなさから思わず本音が漏れた。




 同時に女が言っている「ここにきたら出られない」という意味もわかった。奴らからすれば実験材料であり研究対象。外で生活を続けさせていたらいずれまたメロンの事件が起こる。




「その、人喰いの病気が発症して……この町で死人はでているんですか」




「ええ、ありますよ。ですが死ぬというのはごくたまにです。ほとんどが予兆がありますし、あの人たちもそれは見逃しません。時々、発症した家族をかばってギリギリまで発症したことを隠したあげく、死んじゃうということがあります」




 なるほど。一部の「異端者」が家族を思うあまり食われる、もしくは食われそうになって殺す……なんてことがあるということか。




 起こっていることは実際の社会とこの町もそう変わらない。即対応できるだけ、メロン発症の可能性があるものからすればむしろ安全な町ともいえる。




「事情はわかりました。ですが、いくらなんでもひと気がなさすぎじゃないですか。見たところスーパーのような店もあるし、ここまで外にでないというのは生活していく上では不便でしょう」




「怖いんですよ。みんな、お互いのことが」




「怖い……」




「刑事さん、ちゃんとイメージできてないみたいなので聞いてください。ここに住んでいるひとはみんな『誰が病気にかかっているかわからない』。外を出歩いているということはそれだけで怪しいんです。例えばすれ違った時に挨拶をしたら「めろん」って返事がしたらどうしますか」




「だったら声をかけあうという方法もあるのでは。こちらから挨拶をして、ちゃんと返事がきたら……」




「すでに人を食べたあとだったらどうするんですか。「めろん」としか発言できなくなるのは人を食べる前の症状です。食べた後は正気の人間を「ごちそう」にお誘いしたりするんですよ。それでその人が白か黒かわかるんですか」




 盲点だった。




 メロン発症確率が高い人間だけで作った町なら、正常なものどおしで声をかけあったり、互いが発症していないか確認すれば生活はままなえると思っていた。




 だが人を食ったあとの発症者はそれが適用しない。普通に受け答えもできるし、ニコやかなだけでまともな思考も持っている。




 ただ飯を食わず、他者をおもてなしすることだけを考え、ゆっくりと普段の生活をしながら死ぬだけだ。




 言葉を交わしただけでそいつがマトモかそうでないかはわからない。




「……あなたは親しい人が変わり果てたのを見たんですか」




「弟が下の妹を食べました」




 目に光が消え、もともと無表情な顔がさらに無になってゆく。地獄を見た、ということだけははっきりとわかった。




 愚問だったな、と悔いながら話題を変えることにした。




「ここの住民はどういった人間が住んでいるのか把握はしていないということなんですね?」




 女は首を横に振った。




「いいえ。新しい人がきたり、でていったりした時にはその都度、情報が公開されます」




「でていったり?」




「発症するか死ねばでていけますよ」




「ああ……」




 わざとらしいと思ったが、咳払いをして仕切り直す。




「じゃあ、顔を合わせたことはなくても誰が住んでいるかはわかっていると?」




「そうですね」




 さらに聞くと女は名前もわかると言った。




「個人情報とかそういうの、ここでは関係ないみたいです」




「……じゃあ聞きますが、大城大悟という名前に心当たりは」




「大城さん? 知ってますよ。あの人は割と外にでるし、ここでも目立っています」




「本当ですか!」




 思わず声を張ってしまい、女が目を丸くした。




「申し訳ない……その、大城はここの住人なんですか」




「ええ。……家も知っていますけど」




 教えましょうか、という提案に俺は「是非!」と前のめりになった。




「教えますけど、一緒には行きませんよ」




「結構です。あとはひとりでやりますので」




「それと……」




 女は言いにくそうにうつむいた。なにか言いづらいことがあるのだろうか。




「言ってください」




「いいえ、ただ……気を付けてください。










めろん。65へつづく



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