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【連載】めろん。62

公開日: : 最終更新日:2020/09/07 めろん。, ショート連載, 著作 , ,






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・綾田広志 38歳 刑事⑲




 不安を残しながらひとりで行動することにした。




 坂口の元に蛙子たちを置いていくことは心配だが、今は信用する他ない。それに蛙子には念のため、護身用として武器も渡してある。




 重荷だとは思うが、蛙子なら覚悟を持っているはずだ。古い付き合いでどんな人間かは知っているつもりだった。




 坂口からも簡単に施設について聞いた。そして、走り書きだが地図のメモも。




 聞けばこの中に町が存在するのだという。大きくはないが、それでも数百人が生活できるだけの広さの町が。




 なんの冗談かと思ったが、そのすべてがめろん発症者に関わる者たちであると言った。




 いわばここで観察と管理を行っている。




 それにメロン発症者は、近親者……特に同居している家族などに新たに発症するケースが多い。




『発症すると親しい人間を食って死ぬ。つまり食ったほうも食われたほうも死ぬわけだ。もしもなんらかの場合で死ななかったとしても、近親者に同じくメロンが発症しやすい。母親と父親が発症し、一緒に子供を食うというケースもある。そういうのはお前も聞いた事があるんじゃないのか』




 地図をメモに書きながら坂口は話した。




『俺は映画は観ないがね、ゾンビというのがあるだろう。人肉をもとめて彷徨う屍だ。これに噛まれたら生きていても同じくゾンビとなり、人を食う。そういうものが実際に存在するはずもない、作り話なわけだが……メロンに比べりゃこっちのほうが良心的だ。なにしろゾンビは人を食うかゾンビの仲間にするんだろう? メロンは食っても食わなくても死ぬ。発症すれば食って死ぬか食わずに死ぬかしかない。滅びるだけ。俺は思うんだがね、これはメロンというより、【滅論】だ』




 滅論――




 滅ぶだけの疾患。人類はそろそろ一度滅びるころなのかもしれない。




 だがそれは大人だけでいい。子供にこそ未来を託すべきなのだ。娘の明日佳を思い浮かべ、自分の命よりも大切なものがあることを実感した。




 そして、滅論はその命よりも大切なものをおいしくいただく、自分の手で、舌で。




 邪念を振り払い、今は目の前のことに集中しなければ。




 そう思った矢先、俺は目指す場所へとたどり着いた。




「なんだ……ここは」




 非常口のような鉄の扉を二枚くぐると、目の前に町が現れた。




 大げさでなく、本当に町だ。なんの変哲もない、どこにでもある風景の。




 当然、はじめて見る町並みではあるが日本人なら誰でもこれと似た風景を知っている。そのくらいどの土地にもありそうなものだった。




 空を見上げる。天井はない……ように見える。ここは室内ではなく、壁で隔離された町なのだろうか。




 山の中に突然現れる巨大な白い建物の外観にも驚くが、中は中で度肝を抜かれた。




『トゥルーマン・ショー』という映画で、巨大なドームの中に造られた人工の町があったがそれに近いな、と思いだす。




 映画では空は精巧に造られた天井だったが……こちらは本物に見える。しかし、本当の空かどうかは正直自信がなかった。




 山の中にこんなものまで作ってしまうくらいだ。常識は捨てたほうがいい。




 町の中をすこし歩いて、違和感を覚えた。




「人が……いないな」




 町には店もあるし、家が建ち並んでいる。だが肝心の住民がいない。




 立ち止まって観察するが生活の息遣いのようなものも感じなかった。




 人がいない、とわかると俺の目に映る町の風景も豹変した。どこにでもある普通の町並が、おもちゃの町に見えた。




 ミニチュアを大きくしたような、ハリボテのような家々――。




 これは町などではなく、町のようななにかではないのか。




「しまった……!」




 咄嗟に物陰に隠れる。もう手遅れだとわかっていたが、そうせざるを得なかった。




 これだけ人がいない町を堂々と歩けば、厭でも目立つ。




 両間に見つけてくれと言っているようなものだ。




 もっとも、施設に足を踏み入れた時点から監視されているのかもしれないが。




 ……それでも坂口を除けばここまで特になにごともなかった。




 もしかすると捕捉されていないかもしれない、というわずかな希望があったこともの否めない。気が遠くなるほど薄い希望だが。




 今更、身を隠して行動したところなんの意味があるのだろうか。




「意味だって? バカか俺は。そんなものはどうでもいいだろ」




 我ながら情けない、と笑えてくる。




 俺は大城を捜さねばならないのだ。




 建ち並ぶ住宅を眺める。一軒一軒、しらみつぶしに調べるしかないか。




 時間がかかりそうだし効率も悪い。こんな時に人手があれば、と蛙子たちが思い浮かんだが振り払った。




「嘆いていても仕方がない……やるか」




 自分を奮い立たせるようにつぶやき、意を決して顔を上げた。




 その刹那、誰かと目が合った気がした。ちょうど視線の先にある正面の家、二階の窓。




 カーテンの隙間に人影が動いた。




 気のせいではない。確かに目が合ったのだ。




 唾を飲み込み、深呼吸をした。俺は間違っていた。




 この町に人は、いる――










めろん。63へつづく



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