ホラー小説 / 防犯カメラ
■深夜のコンビニ
パタン、
まただ……
コンビニの深夜バイトとして働いて数か月……。さすがにすっかり慣れてしまったが、毎夜午前2時になると、ドリンクコーナーの扉が開閉する音がする。
納品の業者が来る前の一番静かで、一番誰もいない時間。
うちの店は住宅街の中にあるコンビニだから車も滅多に通らない。
始めの内は楽なバイトだと思ってのんびり働こう、なんて思っていたけどまさかこんな怪現象に毎日見舞われると思っていなかった。
とは言っても、午前2時になるとパタン、と何度か音がなるだけなんだけど。
「またか」
バックヤードからもう一人のバイトが声を掛けてきた。
防犯上、深夜の暇な時間でも二人で店を見ている。
だから当然、深夜バイトをしている奴ならこのパタン、のことを知っているというわけだ。
いくら怖がりだってこんなに毎日同じことが繰り返されてちゃ、慣れるというものだ。
「一体、なんなんだろう。やっぱり幽霊と思う?」
何気に聞いた質問に同じバイト仲間である作田が笑う。
「幽霊ならもっと怖いことするだろ~! 防犯カメラとかに映るとかさ、でもほら見てみろよ」
バックヤードの中には店内に設置された防犯カメラの画像が映し出されている。数秒ごとに店内の3つと店の前の1つ、つまり4つの画像が順番に切り替わる。
作田はそのモニターを指差して「なにも映ってないだろ?」と自慢げに言った。
■棚から落ちる飴
さらに数週間が経ち、深夜の怪異にも驚かなくなった僕は午前2時という時間にもあまり執着しなくなった。
ドリンクコーナーで商品の並び替えをしたりするのも、これまではその時刻を避けてきたが、それも気にしなくなり怖いという感情もどこかへ行って閉まっていた時だ。
「ん?」
それが午前2時であったということも忘れて、僕は陳列棚から落ちたオレンジ飴の袋を拾い上げた。
その時は「なにかの拍子に落ちたのだろう」程度にしか考えてなかったが、そうではないことを知るのはそれからすぐだった。
「おい、お前ちゃんと陳列整理してたか」
作田が迷惑そうな顔で俺に言いに来た。
「え? なんで、ちゃんとやったよ」
「じゃあなんであんなに飴が落ちてんだよ」
作田の言葉を不審に思いながらバックヤードから出てみると飴が置いてある陳列棚から大量の飴が床に落ちていたのだ。
「あ、……あれ??」
「店長に怒られるのはお前だけじゃないんだからマジで頼むよ」
「あ、ああ……ごめん。俺がやるわ」
おかしいな……さっきはこんなに落ちてなかったのに……。
俺はそう思いながら陳列棚に飴を直した。
「悪い、終わったよ」
「頼むぜマジで」
お客がいないときは、交代でバックヤード内で休憩をしている。サボっているとか思われるかもしれないが、それくらい深夜はすることがないのだ。
作田が来た時にまだバックヤードで休憩中だった俺は再びバックヤードへと入った。
「おい、お前ふざけてんのか」
作田が棒読みな感じでまたバックヤードの外から俺を呼んだ。
「なにがだよ」
なにを言われているのか分からず出てみるとまた飴が落ちていた。
■飴を落とした者の正体
「……」
怒っているのか作田は無表情で俺を見詰めるだけでなにも言わない。
「いや、俺はちゃんと……さっき」
無言で睨む作田。……そこまで怒らなくてもよくないか?
謂れのないことに若干俺もイラっとしたが、現実そこに散らばっている飴を見ると自分のせいでないにしても、なんだか罪悪感が沸いてきた。
「わかったよ……」
なにも言わない作田にそう言うと俺は黙って散らばった飴を陳列棚に直す。
俺が陳列に飴を直しているのを作田はずっと見ていた。
(気味の悪い奴だな)
飴を片付け終わるとバックヤードに戻る気になれず、俺は作田に休憩を譲るとレジ前に立った。
『プルルル』
俺がレジに立って少しすると、バックヤードから店の電話が鳴った。
バックヤードには作田がいるから、放っていると着信音が切れることなく鳴り続けている。
「おい、なにやってんだよ作田、電話……」
バックヤードを覗くと作田の姿は無かった。
「あれ? トイレか?」
出てくる気配なかったけどな……。自分の思い違いかと思い、鳴り続ける電話の子機を取り通話ボタンを押した。
「はいマックスマート○○店です」
『ごめん、アルバイトの作田ですけど』
「え? 作田?」
一瞬作田のお父さんかと思ったが、話している感じで違うのは分かった。というよりも電話の向こうの相手は間違いなく作田の話し方だ。
ということは……どういうことだ?
俺は混乱してしまった。
「え? あ、作田?」
『おう。ごめん、俺学校から帰ってきてすぐ寝ちゃってさ、今日バイトだって分かってたんだけど、今起きちゃって……今から急いで行くから! 迷惑かけてごめんな』
ガサッ
受話器からはツーツーと通話が切れたことを知らせる電子音。
俺はバックヤードの防犯カメラのモニターを見て固まっていた。
ニヤニヤと気持ちの悪い笑顔で飴を床に落としている作田がそこに映っていたのだ。
……いや、作田ではなく《作田の振りをした何か》が……。
俺はその日を最後に、コンビニのバイトを辞めた。
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