みどりのやつ
公開日:
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ショート連載
みどりのやつを見た。
そいつは、線路沿いを歩いていた。
終電なんてとっくに過ぎているのに。
みどりのやつが歩く、『ひた、ひた』という足音だけが妙に耳に触った。
人間、わけのわからないものを見ると、やけに冷静になるものだ。
自分の理解できるものに、それを無理に当てはめようとするからだと思う。
とにかく、みどりのやつは、俺に気付くこともなく歩いている。
ひた、ひた、
ああ、気持ち悪いなぁ。
俺の家までは、この線路を通らなければ帰れない。
ちなみに自転車だ。
……いるよな、やっぱりいるよな。
みどりのやつのことを気のせいだと思おうと必死になった。
いくら考えたところで自分の理解の範囲にそいつがどうしても入ってくれないから。
要するに”わけわからん”
俺は、『ひた、ひた』という濡れた足音を掻き消すためにイヤホンのボリュームを最大にした。
……ん、俺音楽聞いてるんだっけ。
じゃあ、なんで『ひた、ひた』は聞こえるんだ。
全身から血の気が引く。
追い抜かしたはずのみどりのやつを見ようと振り返った。
……あれ、みどりじゃなくて眩しい光……
それが俺と接触する瞬間、微かにエンジン音が聞こえた。
ドチャッという肉が落ちた音が自分の音だと知ったときには、もう遅かった。
ただ、『ひた、ひた』という音だけが耳元で聞こえる。
ああ……そうだったのか。
この足音は、イヤホンから直接聞こえてきてたんだ。
『ひた、ひた……』
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