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【連載】めろん。3

公開日: : 最終更新日:2019/02/26 めろん。, ショート連載, 著作 , , , ,






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・綾田広志 38歳 刑事③




 今回もその時と同じだ。




 義理の母親を解体し、頭だけを律儀に冷蔵庫に入れた。内臓は捨て、皮を剥き、肉は食肉として普通に調理して食べる。




 そして、なぜか頭だけはそのまま冷蔵庫で保管し、連中はそれを「メロン」と呼ぶ。




 理解不能の異常な事件だった。それが不定期で時折起こる。加害者も被害者も、どちらも接点もなければ、発生する地域もバラバラだ。




 連中は殺した人間の肉を調理するが、その方法は同じではなくそこは各人の性格が表れていた。




 例えば今回の場合、皮の剥き方がわからなかったのだろう。肉ごと削いだ人皮のせいで肉の成形はでこぼこと歪で、均等さとはかけ離れていた。それに普段からあまり料理をしないのか、そのまま鍋にぶち込みカレールウを溶かしただけのそれは料理というにはお粗末すぎる。




 普段、料理をしないような男がなぜ義理の母親の……人間の肉を喰おうと考えたのだろうか。単純に美味そうだったからか?




 もしもそうなら、食人そのものが動機だったことになる。




 もうひとつの可能性は、事件の発覚を恐れたというケース。いわゆる死体を隠蔽するために食ってしまおう……というわけだ。




 しかし、その割には骨の処理は雑だった。普通に生ごみとして捨てている。大きな骨ならともかく、肋骨まわりの肉をどうすればいいのかわからなかったのだろう。ろくに割ってもいない人の胸がそのまま袋に入れて捨てられていたのだ。通報されないわけがなかった。




 前回の事件の時はどうだ。




 ステーキ、スペアリブ、ローストビーフ……いや、ローストヒューマンとでも言ったほうが正しいだろうか。とにかく、料理が得意だった場合は、それ相応にきちんと調理するらしい。




 子供のほうはなんとか鍋に入ったが、妻のものは入りきらなかったらしくこちらも今回同様、無防備に生ごみの日に出された。子供の骨はしっかりと煮込まれ、骨と身は綺麗に剥がれていた。




 親子3人は、冷蔵庫の中から自分たちが料理されているのを無言で聞いていたことになる。いや、死人に口なし……聴く耳なし、か。




 このケースの時は、3人分の肉があった。大人の男とはいえ、一日や二日で食べきれる量ではない。案の定冷凍庫にはジップ袋で小分けされた塊肉が発見された。




「――完全に人を、『食材』としてしか見ていないな。ついさっきまで『家族』だったのに」




 そうつぶやくと、無意識に娘の明日佳が脳裏に浮かんだ。




 俺は明日佳を食えるか?




 酸い胃液が上ってくる。慌ててそれ以上の想像をやめた。




 冷蔵庫の中で虚ろな目をこちらに向ける「メロン」が自分の愛する者なんて、笑えないどころじゃない。




『メロンか? ああ、こっちでもたまにあるぞ。たまげたな、東京でもか』




 大学時代、同じアメフト部だった大城大悟は15年前と全く変わらない若々しい声量を電話越しに伝えてきた。大城は今は広島で警官をしている。管轄は違うものの、つまりは同業者だった。




 本来、違う所轄の警官が個人で情報を交換し合うのはよくないが、それは表面上だけ。実際は俺と大城のように、互いの近状報告のついでで事件・事故の話をするのは珍しくはない。




 その上で話した「メロン」の件だったが大城は知っていた。それどころか広島の所轄でも同様の事件が起こっているというのだ。




「たまげたのはこっちも同じだよ。東京と広島だぞ」




『そうだな。同じ犯人なんてあり得ないし、そもそも犯人はみんな捕まってる』




「どう思う」




『どう思うもなにも、どんな風にも考えようがねえよ。例えば組織的な……そうだな、宗教団体なんかが絡んでいて、ある意味テロ的に各地で同じ事件を誘発させているなんていうのはどうだ』




「現実的じゃないな。確かに事件の異常性はある種の宗教じみている節はあるが、それなら捜査線上に浮上するはずだ。完全に情報を塞ぐことなんて不可能だよ」




『だよな。とするとその線は消えるというわけだ。じゃあ、あとはなにがある?』




「わからないよ。だから聞いてるんじゃないか」




『肝心なところを人頼みにするなよ。わかってたら宗教団体がどうのっていう仮説すら立てないだろうが。……ああ、そうだ。じゃあ、感染症とかそういう疾患だっていう説はどうだ』




 大城なりの笑いどころだと察し、笑ってやろうとするが上手くいかず逆に舌打ちのようになってしまった。




『聞いたんだから真面目に聞けよ。……っつっても、俺も真剣にこれを唱えてるわけじゃないけどな』




 そう言った大城が逆に笑う。それに釣られて俺もようやく笑えた。




 その後、他愛のない世間話をして電話を切った。




 ビールを取ろうと冷蔵庫を開けると人間の頭……メロンが入っている光景がフラッシュバックする。




 固く目をつむり、3秒ほどして再び開ける。




 冷蔵庫には缶ビールと水が入っていた。禁酒は離婚をきっかけにして簡単に破られ、結婚と同じくしてやめたタバコもまた始めた。




 どっちも独身の頃よりも量が増えた。妻だった葵の、「酒代、タバコ代の代わりに貯金して、家族でディズニーリゾート」という計画も今では破談。水を飲む必要もない。




 色々なことを思い出すのは決まって、人死にのかかわった事件の時だ。




 飲むと余計に疲れが取れないと知りつつ、この日も俺はビールを5本、空けた。







めろん。4へつづく

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