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【夜葬】 病の章 -59-

公開日: : 最終更新日:2018/01/30 ショート連載, 夜葬 病の章



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時間が経つのは早い。

 

 

もっとも、鉄二にとっては特にそうだったのかもしれない。

 

 

ゆゆが死んで数か月、村には劇的な変化があった。

 

 

人の出入りが激しくなり、様々なものが鈍振村に持ち込まれた。

 

 

薬、カメラ、洋服、家具、靴、本――。子供にはお菓子やボールにバットも。

 

 

それらを知っている者も知らない者も、それらに歓喜した。

 

 

窪田が大言壮語を吐いた“電気を引く”という念願自体は叶ってはいないが、それでも小さな鈍振村には十分すぎるものばかりだった。

 

 

村の住人は船乗りもそうでないものもこぞって町から訪れた者たちに群がり、我先にとあらゆるものを欲する。

 

 

そして町の者たちは物をやる代わりにと見返りを求めた。

 

 

「ああ、押すな押すな。数に限りあるもんもあるが食べ物や日用品なんぞはまだまだ腐るほどある。好きなのを持って行くといい」

 

 

声も高らかにそう謳うのは新聞屋の宇賀神だ。

 

 

宇賀神の周りを取り巻くのは言うまでもなく彼の部下たちである。

 

 

「その代わりな、この村についていろいろと教えてほしい。そうだな、例えば【夜葬】のこととか」

 

 

当初、鉄二の見立てでは生粋の村人である“船乗り”はなにがあっても風習、特に【夜葬】関連については口を割らないと思っていた。

 

 

だが過去の老人のいない今、革新と世代交代を願っていた者も少なくなかった。

 

 

ある意味、それの結果が余所者の受け入れだったわけだが、それ自体鉄二には意外だった。

 

 

この頃、窪田はといえば一世代前の船頭と同等……いや、それ以上の地位と権限を持ち始めていた。

 

 

村はどんどん便利になり、いずれは本当に電気も通る。

 

 

鈍振村の者たちはみんな、それを疑わない。現に劇的に村の生活が快適になったのだ。

 

 

「黒川さん、窪田だが」

 

 

家を訪ねてきた窪田を玄関先で出迎え、鉄二は小さく返事をした。

 

 

鉄二の顔は青白く痩せていて、誰が見ても病気かと誤解するような風貌をしていた。

 

 

「相変わらず体調悪そうだな」

 

 

「そういうあんたはずいぶんと調子が良さそうじゃないか」

 

 

そう言って鉄二はこの数か月でっぷりとせりだした窪田の腹に目を落とした。

 

 

「おかげさんでね。やっぱりあの時あの化け物を殺しておいて正解だった」

 

 

「……そうだな」

 

 

あの時の化け物――すなわちゆゆのことだ。

 

 

ゆゆが行方不明になったことは村でも事件になった。

 

 

翌日の夜まで、鉄二の家で身を隠していたふたりは頃合いを見て、さもたった今町から帰ったように装い、ゆゆが失踪した一方にわざとらしく驚いて見せた。

 

 

誰もゆゆが死んだなどと露とも疑わず、「町の生活に憧れて下山したのではないか」という窪田の白々しい推察にうなずいた。

 

 

特に船乗りたちからは、“ゆゆは新参者たちが村に台頭したことが不満だった”という結論からか、声を大にしてゆゆを捜索しようという声は上がりもしなかったのだ。

 

 

誰もゆゆが死んだとは思っていない。

 

 

鉄二がいないタイミングでいなくなったことも信ぴょう性に一役かった形になった。

 

 

村の誰もが鉄二とゆゆが一緒に暮らしていたことを知っていたが、同時にふたりがうまくいっていないのではという噂もたっていた。これが都合のいい方向へと転んだのだ。

 

 

つまり、村人たちはゆゆが鉄二から逃げたがっており、鉄二が出かけている隙に村をでた――と。

 

 

「赤ん坊、見つかったかい」

 

 

窪田は鉄二の家の中を盗み見るように顎を持ち上げて覗き込む。

 

 

あの日から啓介は見つかっていなかった。

 

 

「いるわけがない。何度言えばわかるんだ」

 

 

「いやぁ、あんたのような大親友を疑うわけじゃないんだが、なにしろ相手は妖怪くんだりだ。もしかしてこの家の屋根裏や床下に蠢いているかもしれないだろ。なんて言ったってこの家はやつにとっちゃ生家だ」

 

 

窪田はそういって覗くのをやめようとしなかった。

 

 

ゆゆの死後、姿を消した啓介の行方を窪田は気にしていた。

 

 

ゆゆの死体は、窪田がその場でバラバラにしてやったせいか二晩も待たずに獣に食われた。服は持ち帰り、釜の薪と一緒に燃やした。

 

 

鉄二は獣がどこかに捨てるだろう骨を気にしたが窪田は一笑すると放って置けばいいと言った。誰かがみつけたところでそれをゆゆだとは思わない、とも。

 

 

だが窪田は啓介に関してだけは妙に神経質気味に気にしていた。

 

 

いくら鉄二がゆゆと同じく獣に食われたのだと言っても信じようとはしなかった。

 

 

いや、口では鉄二に同調し収めるが目がそう思っていないと言っている。その証拠に窪田はこのように度々鉄二の下を訪ねてくる。

 

 

そして決まって、いないと納得したはずなのに啓介の居場所を訊ねるのだ。

 

 

「勘弁してくれ。いないものはいない。それに俺が“アレ”のことをどれだけ恐れていたか知っているだろう」

 

 

“アレ”とは地蔵還りのことだ。

 

 

鉄二が啓介のことを恐れていたことを窪田も知っているはずだったが、それなのに窪田はなぜか鉄二の下に啓介がいると思い込んでいる節がある。

 

 

「いやあ、すまんね。完璧主義者って柄じゃないんだが、ついついこの目で見ていないものが心配になっちゃって」

 

 

そう言いながら窪田は鉄二に、次に下山する予定を告げると去っていった。

 

 

村の広場では宇賀神たちがまだ餌を撒いている。

 

 

「バカバカしい」

 

 

戸を閉めたのを確かめながら鉄二は愚痴った。

 

 

苛立ちが抑えられない。やり場のない気持ちに土間の土を蹴った。

 

 

鉄二の苛立ちの原因は窪田だ。窪田の発言ではなく、窪田の疑心。

 

 

囲炉裏のそば、無造作に畳んだせんべい布団の上をまくる。

 

 

そこに苛立ちの本当の理由があった。

 

 

「あぶ……」

 

 

窪田の推測はただしい。

 

 

鉄二が啓介を匿っていたのだ。

 

 

 

-60-へつづく

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