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赤い水

公開日: : 最終更新日:2015/02/15 ショート連載, ホラーについて

蛇口

■蛇口

 

 

 

なぜにこんなにも【赤】という色は人を恐怖に陥れるのか。

 

 

それを考えたきっかけは、この蛇口にあった。。

 

 

オフィスの12階のトイレ、手洗い場。

 

 

ここの蛇口からは真っ赤な水が流れるのだ。

 

 

こんなにも気持ちの悪いもの、使わなければいい。

 

 

だけども私はここを使用しないわけにはいかない。

 

 

なぜならばこの12階に私の職場があるからだ。離れるわけにもいかないし、だからといって他の階にいくわけにもいかない。

 

 

私はほとほと困り果ててしまった。

 

 

 

■同僚の話

 

 

 

私の同僚にこの話をしてみたことがある。

 

 

「赤い水が出る蛇口のこと」を。

 

 

同僚はというと、みな一同に興味なさそうな顔をして「そうなんだ」というような素振りを見せるのみで、私の気を更に滅入らせた。

 

 

「はぁ……」

 

 

そうなってくると、当然人に話すのも気が憚れる。次第に私は誰にもこの話をしなくなった。

 

 

 

■夜の会社

 

 

 

そもそもこのトイレというものを使用したがらない同僚も多い。

 

 

それはそうだ。これほどに気持ちの悪い蛇口があるのだったら、誰だって使いたくはないだろう。

 

 

だから一日にこのトイレを使う人数は異常に少ない。

 

 

それではいくらなんでも寂しいではないか。

 

 

夜になると、このトイレの気味の悪さは更に磨きがかかる。

 

 

節電政策のおかげで、使っている時以外は電気を消しているトイレは、まるで怪談に出てくるそれのようだ。

 

 

たとえば、子供のころに流行った学校の七不思議……というやつもそれにあたるのではないだろうか。

 

 

夜中に光る音楽室のベートーヴェン、夜な夜なグラウンドを徘徊する銅像、13階段、トイレに住まう少女……。

 

 

私の幼少時代を過ごした学校にも同様の噂話はあったものだ。

 

 

暗闇のトイレで、赤い水を流す蛇口。

 

 

これ以上の恐怖があるだろうか。これ以上の不安があるだろうか。

 

 

 

■きっかけ

 

 

 

そもそも赤い水のきっかけとはなんだろう?

 

 

私は考えてみた。

 

 

普通で考えるのならば、この赤い水の正体は血である。

 

 

だが、私はこの赤い水に触れたことがない。

 

 

それ故にこれが血なのか、それとも錆びた水なのか、その判断をつけることが出来なかった。

 

 

血だとしたら怖いし、錆びだとしたらそれはそれで違う意味で怖い。

 

 

どちらにせよ怖いわけだが、人としての性質上どちらなのかはっきりしたことを知りたい……という性もある。

 

 

仮にこれが血だったとして……、なぜこの蛇口から血が出るようになったのか?

 

 

そのきっかけを考えてみようではないか。

 

 

……そういえば、12階のトイレで死人が出たことがある。

 

 

結構な大事だったらしいが、残念ながら私はその時いなかったので知らない。

 

 

首つり自殺だった。

 

 

わざわざ会社に来る前にホームセンターで荷造り用のビニール紐を買い、それを個室の上部にひっかけて首を吊った。

 

 

血が出る蛇口のきっかけがそこにあったとすれば、なぜ血なのか。

 

 

一見、首つりと血は無関係に思うが……。

 

 

■出血する死体

 

 

 

そういった事故があり、このトイレにはほとんど人がよりつかなくなった。

 

 

一部のそういったオカルティックなものに興味のない社員や、事情を知らない客が利用するのみ。

 

 

そういえばこのように考察するようになってから一度、新入社員と先輩社員を思しき二人組がその件について話していたのを思い出した。

 

 

「ここのトイレっていっつもやたらとじめっとして暗いっすよね。幽霊とかでそうじゃないっすか?」

 

 

「まぁ出てもおかしくないけどな。ここで昔、自殺があったらしいし」

 

 

「え……マジすか!?」

 

 

「なんだお前知らないのかよ。ああ、そうか新卒だもんな……いいぜ、教えてやるよ。ここで前、首つり自殺があったんだ」

 

 

「ええっ!」

 

 

新入社員は、大袈裟だが本当にびっくりした様子で先輩社員の話した情報に驚いてみせた。

 

 

「もしかして……それってこの場所……とか?」

 

 

怯えた様子だが、どこかそれを楽しんでいるようにも見える侵入社員が手洗い場の前でキョロキョロとわざとらしく見渡し、先輩社員がそれを見て「わざとやってるだろ。どうやってこんなところで死ぬんだよ」と笑った。

 

 

「けど、俺自身も詳しいこと知らないんだよな」

 

 

「そうなんすか」

 

 

「ただ、聞いた話によると……死体は酷い有様だったって」

 

 

「酷い……ですか? 首つりだったら別に綺麗なものじゃないんですか」

 

 

「いや、首つりってさ俺らが思ってるよりずっと汚いらしい」

 

 

……首つり死体が汚い。なぜ彼はそんなことを言うのだろう。そんなわけがない。

 

 

「あれってさ、先に首から上が死んじゃうんだけど、体はまだ少し生きてるんだって。だからクソやら小便が馬鹿みたいに垂れ流しになるし、首から上は鬱血して赤黒くなるし、状態によっちゃ目玉や舌も飛び出すって。ここで死んだ人の死体ってのが、そんな酷い状態の中でも一番酷い状態だったって」

 

 

「……どういうことです……か?」

 

 

酷い状態の最高峰ってやつはさ、口や鼻、目や耳から出血するんだって。理屈はわかんけーけど、そりゃあ酷い有様だって話さ。クソに小便、涙に鼻水、唾に血……最悪だろ」

 

 

そう話すと先輩社員は、私の方を向き見上げた。つられて新入社員もこちらを見た。

 

 

――一体なんだというのだ。

 

 

「そしてその死体が発見されたのがこの個室らしい」

 

 

「ええっっ!!」

 

 

……何を言っているんだこいつは。それじゃあまるで、私が死んでいるみたいじゃないか。

 

 

 

 

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