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奈良洞泉寺・東岡遊郭跡をあるく

■古都・奈良に佇む遊郭

どうも最東です。

ここのところまたリポート記事がご無沙汰になってしまいました。

ありがたいことに、本業の原稿仕事が多忙でして中々行きたいところに行く時間が割けなかったのが理由です。

ようやく仕事も少し落ち着いたので、新作の準備も兼ねて古都奈良へと足を運びました。

久しぶりにやってきましたが、やはり京都や奈良は空が広くていいですね。背の高い建物があまりないことがとても清々しいです。

春の日差しのおかげで重い腰を上げることができたことに感謝しつつ、今回の目的は『洞泉寺遊郭』を訪れることです。

遊郭、とはいってももちろん跡地で実際に営業はしていないのですが、現存している遊郭建築の建物はあちこちにあります。

今回訪れた主な理由は新作小説で遊郭を扱うため、その取材……ということももちろんあるのですが、老朽化した遊郭の建物を4月で取り壊すと耳にしたからです。

「それなら絶対に行こう」と決めていた割に結局ギリギリになって慌ててやってきました。

そして、いざやってきてみると……

そんな莫迦な……!

すでに取り壊している最中でした。

聞けば「4月までに取り壊す」という計画で、それを勝手に「4月から取り壊す」と勘違いしていた私の敗北。

3棟取り壊す予定のうち、すでに2棟が取り壊された跡でした。ブヒィー!ぶりぶりぶりぶり!

■町屋物語館

しょんぼり……とうなだれながら、仕方ないからこの辺を散策でもするか、と歩き始めたところ、取り壊し中の建物のすぐそばに〝生きている〟っぽい館を発見しました。

遠目から見ても目立つ三階立ての大きな建物。

特徴的な格子窓と年季がはいったいぶし銀の茶色い木造建築で、元遊郭の揚屋だと確信。

おそるおそる近づいてみると戸は開け放たれ、外から見ても中は綺麗に手入れがされているのが分かりました。

『コーヒー100円』

と看板がありましたが、カフェなの?

入っていいのかわからずひとりもじもじする40歳のおじさん。(怪しい)

勝手に入って怒られたらイヤだなー……と思いつつ、足を踏み入れました。

奥で誰か話している声は聞こえているものの、受付っぽいところに人はいない。

ただ、三和土には靴がいくつも並んでいたのでそこそこの人が中にいそう。

ええい、ままよ!

と怒られれば「ロッポンギ?」と外国人の振りをして悪気がないことをアピールするしかない! と中へ。

三和土を上がってすぐの座敷は明らかに展示物といったガラスケース、それに洞泉寺と町屋物語館について解説しているパネルがありました。

「ここ、入ってもいいところだよNE……」

最東の不審者ぶりがさらに加速。ここに警察がいたら完全に逮捕案件でした。

犯罪者の気分で落ち着かないでいると、奥の部屋から現れた緑のベストを着た熟女が私を発見。

「不審者!警察!殺せぇええ!」と追い掛け回されるのを想像したのですが、それは杞憂でした。

「ご予約の方?団体の方でしょうか」

「あ、い、いえ……自分は通りがかりでして……(しどろもどろ」

そう答えると熟女は私を殺すどころか「でしたら館内を案内しましょうか?」と言ってくれました。

■有形文化財。今もなお残る大正建築

町屋物語館は、登録有形文化財『旧川本家住宅』として内部を開放(一部除外)しています。

館内の見学は無料で、誰でも気軽に中に入ることができるそうです。そこでボランティアの方が中を案内しながら説明をしてくれるということでした。

(以下大和郡山市ホームページより引用)

「町家物語館」(まちやものがたりかん)は、大和郡山市内の中心市街地の南東部にある洞泉寺町(とうせんじちょう)に位置する町家建築です。大正11年に納屋と蔵が、大正13年に本館と座敷棟が建てられました。この当時では珍しい木造三階建て遊郭建築で、遊郭として一世を風靡しますが、昭和33年に廃業。その後下宿として客間は貸間として利用されます。今も尚、当時の上流花街の繁栄を偲ばせています。堅固な構造の下、良好な保存状態で現在に至っており、内部には意匠を凝らした欄間や上質な数寄屋造りの小部屋など特殊な建築技法を各所に取り入れた遊郭建築ならではの造形美を創出しています。平成26年に登録有形文化財となっています。

https://www.city.yamatokoriyama.nara.jp/kankou/kanko/info/004886.html

なるほど、それはありがたい!ということでさっそくおねがいすることに。

三和土に上がってすぐの座敷に展示されていたのは当時の値段表。

「ちなみに今いるここは遊女が準備と待機する部屋だったんですよ」

とのこと。

客は帳場で代金を払うとひとりで正面階段で上がり、待ち合わせ部屋で待つ。

その時他の客や自分の客と鉢合わせしないよう遊女は準備部屋から伸びた専用階段で二階へ上がるのだという。

二階が揚げ部屋で三階も同じだが常連や上客専用だった、とも。

「準備とか待機する場所ってことは、顔見世の部屋だったんですか」

その部屋は道に面していたので、私は自信満々に訊いた。

案内人に一目置かれる気満々だったが、「違う」ときっぱりいわれてしまいました。

「ここは格子の目が細かいでしょう。大正時代になると直接遊女の顔を見て揚がる、ということはほとんどなくなっていたんです」

なんだって!?(厚顔無恥)

「この時代の主流は写真だったんです。三和土の横の壁に遊女の写真を並べて貼っていてね、お客さんはそこから好みの子を選んだそうですよ。私が入ってきたあそこの部屋が遊女の控室でね、普段はそこで自由にしていたんです」

そう言われてみて改めて見てみると確かに格子の目が細かい。

案内人の話によると、二階になるとすこし目が広くなり、三階だともっと広いという。

なんでも、写真で遊女を選ぶのが主流だったので遊女が準備部屋から揚がるところを見られないよう外から中が見えにくくしているのだそう。

大正くらいになるとそこまで近代化するのか……と感心。

そうして満を持して二階へ。

階段を上がってすぐの丸い窓枠が遊郭建築っぽい、と感動。

「おっ、おしゃれっすね!さすが遊郭!」

二階のひとつめの部屋から見えるハート型の飾り窓。

遊郭の時の名残というのか、こんなかわいい仕掛けもしているのだなぁと見ていると「違うんですよ」と案内人。

「あれは〝猪の目〟といってイノシシの目の形を象っているんです」

「え、ハートじゃないんですか」

「あれを見られたお客さんでよくハートでかわいい、って言われるんですが魔除けの意味なのでオシャレとは関係ないんですよ」

ぶべらっ!(毛穴から噴血)

獣の力で悪いものを寄せつけない、という意味がるのだとか。

遊郭だけで見かけるのではなく、神社・仏閣などにもよくつかわれている形だそうだ。全然知らなかった……。

正直、どこをどう見ればイノシシの目の形に似ているのかまったくわかりませんが、その歴史は古いようです。

猪の目についてはこちら

ふんふんなぁ~る、を繰り返しながら館内をさらに行きます。

「お客さんが利用される欄間には板がハマっていません。これは密室で遊女とトラブルになるのを防ぐため、部屋の外からも従業員にある程度会話が聞こえるようにという工夫です」

なるほど。ガラス戸にするわけにもいかないので、音で異変を察知していたのか。

この時代でも遊女に対する安全には気を遣っていたことがわかる。

「あとは他の揚屋からの引き抜きとか、そういうのを防止する意味合いもあったようで」

そっちかー!

「これはガス燈です。営業していた時にはもう電気が通っていたのですが、なにしろ今ほどちゃんと整備されていませんでしたから、よく停電が起こったようです。その時の緊急手段としてこれが付けられていました」

つまり普段使いではなかった、とのこと。

「待合部屋で呼ばれたら通路で指名した遊女が待っていて、一緒に部屋へ上がります。その時に使うのがこの大階段ですね。これだけ広いのは、遊女と客がふたりで並んであがるためです」

ほほう……この階段を上る時がもっとも興奮のピークだったに違いない。←

案内人の話だと今春公開予定(2020.3.31現在)の司馬遼太郎原作の映画『燃えよ剣』の撮影で使用されたらしいです。

錚々たる面々がこの階段を上り下りしたのだろうか。やるじゃん!

曰く、そのほかの時代劇でもたびたび使用されているとのこと。

確かに日本家屋ではあまり見ない大きな階段だ。中々見つからないのもうなずける。

ひととおり案内してもらって、今度は従業員(遊女ではない)専用の階段で一階へ降りる。

ここで各階にみっつずつ階段があることに気づく。

「お客さん用、遊女用、従業員用があったんです。特に従業員は裏方なので遊女以上にお客さんと鉢合わせないよう特に気を遣っていたようですね」

いわれてみれば徹底的に従業員が使う部屋は奥まっていて普通には行けないようになっていた。階段も建物の最奥だった。

「ここは中庭です。この建物は先に蔵から建てたので当時としては少し歪な形でした」

ほへぇ~……

ちょうど私が行った時、アーティストのイベントがやっていたようでいたるところに陶芸品や染め物が展示されていました。

一階大広間に並んだたくさんの独楽もその一環だそうです。

浴室はバスタブこそ撤去されていましたがほぼそのままで保存されていました。

「ここだけ西洋作りなんです」

「あ、ほんまや」

言われてみて、館内の純和風な趣とは異な作り。確かにタイルの方がエロい気分になる。←

■東岡遊郭へ

ほくほく顔で町屋物語館を後にした私はその足で〝もうひとつの遊郭跡〟へと向かいました。

実は洞泉寺町から徒歩圏内に、【東岡遊郭】跡があるのです。

あまり詳しくないですが、こんなに隣接しているのは珍しいのでは。

実は最東、洞泉寺町ははじめてですが東岡遊郭跡が存在する東岡町には2014年に一度訪れているのです。

その時は、帰った後で洞泉寺を知りしかも徒歩圏内だと知らず歯軋りしました。(歯ぐきからペペローション)

なので二度目の訪問になるのですが、ここはまた洞泉寺とはまったく風景が違います。

遊郭建築を現代に残し、未来に残そうと努める洞泉寺とは違いここの遊郭跡は完全に放置されています。

久しぶりにやってきたのですが、その迫力はすさまじいものがあります。

以前訪れた時はもうちょっと中が覗けたんですが、今はもうこの通りです。

洞泉寺の状態が良かっただけにこれはさすがに腰が引けます。

これが新築住宅に囲まれてあるのだから異様極まりない。

ボロボロの外観は、体が腐り骨が見えた鬼の巨躯のようにも。

さらに奥へ行くと違う遊郭跡も。

なんでもこちらは洞泉寺とは違い、平成初頭まで違法に営業していたそうです。

これらの建物が実際に使用されていたかどうかはわかりませんが、警察の一斉摘発を受け現在は壊滅。

売春法が施行される前に旅館に転身することで延命を果たした旧川本家住宅とは違い、こちらはただ捨てられ放置されてきました。

背景が背景だけにこちらの保全には市が動くことはなかったようです。

東岡町にはこれの他にもあちこち、遊郭建築が残っていたのですがどれも烈しい老朽化で取り壊され、更地になっていました。

おそらくこちらの二棟の建物も時間の問題でしょう。正直、近づいて見上げるだけでもいつ崩れるかわからなくて怖いです。

これだけ巨大な遊郭廃墟……勿体ないなぁ、と思いつつ東岡町を後にしました。

ちなみに摘発の後、怖い人たちだけが残ったらしくこの辺はあまり長居はしないほうがいいとのこと。

事前に聞いていたので私もいつ怒られるかと気が気でなかったです。

東岡遊郭地帯が稼働していた頃の名残なのか、この辺りには不可解な屋号を掲げた『旅館』が多数点在しています。

思いを巡らせるとキリがありませんが、つまりそういうことなのでしょうか。

■まとめ

いかがだったでしょうか。

今回、棚ぼた的に見学した町屋物語館で見聞きした情報は、驚くほど今の風俗業界に共通しています。

いや、遊郭のシステムが今も色濃く残っていると考えるべきでしょうか。

客が玄関でパネルを選ぶ。

待合室で酒を飲みながら待つ。

遊女の用意ができたらふたりで個室へしけこむ。

防犯・スカウト防止の吹き抜け欄間。

外視を避けた格子。

ほかにも写真には収めていませんが、帳場には従業員の顔を見えないように磨りガラスの戸がありました。

隅には猪の目の形で部分的に透明ガラスになっており、客との接点を最低限にする努力も垣間見えていて、非常に興味深かったです。

遊女専用の茶碗や食器があり個人の棚があり、そこには当時のままの遊女の名が貼ってありました。

耐震補強や保全のため人の手が入っているとはいえ、そこでかつて男が女を買っていた時代があったのです。

その息遣いが聞こえてくるようにすら思いました。

三階の窓には鉄格子の跡があり、当時は三階の窓から外にでられないようにしていました。

いくら遊女の安全に配慮していたとはいえ、それだけでは説明ができません。

つまり、〝遊女を逃がさない工夫〟だったと考えるべきでしょう。

私たちはタイムスリップはできませんが、当時の建物に佇み思いを馳せることはできます。

是非ともお近くにお越しの際は、訪れてみてください。

■おまけ

洞泉寺・東岡町がある大和郡山市ですが金魚の養殖でも有名です。

私が2014年に訪れた際、電話ボックスの金魚水槽があったのですが今は撤去されていました。

数年前のニュースで撤去のことは知っていましたが、実際になくなっているとなんだか寂しいですね。

今回、再訪してなくなっていた建物も非常に多かったです。

おそらく東岡遊郭の建物も、次に訪れた時にはないでしょう。その前にひと目見れてよかったです。

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