*

teller Xmas

■12月18日

いよいよこの時がくる。

彼女と付き合って初めてのXmas。

それだけではない。

僕自身が女性と過ごすのは初めてなのだ。

生まれて24年。こんなにこの日が来るのに時間がかかるなんて。

いや、こんなに早かったのか。

そわそわする。自分の気持ちと建前に折り合いがつかず、ずっと宙を浮いている気分だ。

プレゼントはなににしよう。

彼女はなにをあげたら喜ぶだろうか。

■12月19日

花か。いや、花なんてあげて本当にうれしいのだろうか。

ドラマや映画ではよく見るけど、実際もらったほうは困ったりするんじゃないか。

わからない。

こんな時自分の人生経験の少なさを呪う。

もっと女の子と遊んでいる友達を作ればよかった。そうしたらきっとこんな時どうすればいいのか教えてくれていたはずだ。

交友関係も豊かではない。

こんな僕にだって彼女ができたのだ。人生は捨てたもんじゃない。

■12月20日

色々考えたがやっぱり指輪がいいのではないだろうか。

でもサイズを聞くとバレバレだ。

それに交際して一年も経たないのに、指輪は重すぎたりはしないか。

そうか。だったらネックレスにすればいい。

最初のプレゼントとしては無難だし、上等じゃないか。

決めた。

■12月21日

最近、彼女の様子が変だ。

妙にソワソワしていて落ち着きがない。

もしかして僕の考えているサプライズがバレてしまったのだろうか。

当日は、彼女の家に待ち伏せして、帰ってきたのと同時にクラッカーを鳴らそうと考えていた。

驚いた後に徐々に顔を緩め、喜びの表情に染まる光景が目に浮かぶ。

ここでバレてしまってはそれが全部水の泡だ。

だが僕の心配とは全く方向が違うところで彼女は落ち着きを失っていた。

キョロキョロと周りを見回しているその様からも伝わってくる。

もしも僕の計画がバレているのだとしたら、僕のいる前でこんなにも周りを気にするはずがないからだ。

■12月22日

厭な話を聞いた。

彼女にストーカーがいるというのだ。

本人から聞いたわけではないが、どうやらそうらしい。

僕に言わないのはおそらく心配をかけまいという気遣いからだろう。

信じられない。僕だけのあの子を怖がらせる、卑劣なストーカー野郎。

僕が捕まえて警察に突き出してやる。

■12月23日

明日はイブ。

心臓が高鳴る。結局、プレゼントは二段構えとした。

まずは花束。

喜んでもらえないんじゃないか、という心配もあったがこの後の仕掛けのための布石として採用した。

喜ぶかどうかはわからないが、すくなくとも厭な顔はしないはずだ。

そして僕は花を受け取った彼女にこういうのだ。

「一番大きな花にかかっているものをとってごらん」

そう、花に首飾りのようにかけてあるのは彼女への本当のプレゼント。ネックレスだ。

彼女に似合うような、透き通るグリーンの石を選んだ。

ストーカーのことは心配だが、僕がいる。彼女は僕が守る。

心配なんていらないよ。

■12月24日

実は悩んだ。

世間ではどっちが一般的なのだろうか。

24日にプレゼントを渡すのか。それとも25日か。

ネットで調べてみたが、もっとも一般的なのは「24日の夜から会って、ふたりで25日を迎える。その時に渡す」らしい。

日をまたがないかもしれない時はどうするのだろうか。

やっぱりイブ……今日渡すべきか。

※※※※※

19:12……

もうすぐ彼女が帰ってくる。

「イブは空けてように」としか伝えていないから、一旦帰ってはくるはずだ。

そこで僕が部屋で待ち構えている。

歌でも歌えば完璧だ。きっと彼女は感動するに違いない。

ああ、心臓が喉から飛び出そうだ。

こんなに緊張するのは生まれて初めてかもしれない。

早く帰ってきてほしいような、まだ帰ってきてほしくないような。複雑な気持ちだった。

あ、足音が聞こえる。

この足音は彼女だ!

慌てて用意した花束を抱きかかえ、玄関の前へと行く。

花にかけたネックレスを確認。よし、ばっちりだ。

足音が近づいてくる。

どうしよう、電気は消しておいたほうがいいかな。

驚かないかな。

いや、驚かせたいからここにいるんじゃないか。

暗闇の部屋の中で突然僕の声がしたら叫んでしまうかもしれない。

近隣の住民が来たら、どうしよう。

……大丈夫だ。その時はおふざけだったと住民に説明すればいい。僕たちの仲を見ればきっと誰もが納得するはずだ。

普段からストーカーに怯えているのだから、今日くらいはそれを忘れさせてやらなければ。

それにしてもストーカー野郎め、僕の彼女を怯えさせやがって。絶対に許さないからな。

鍵穴に鍵が刺さる。

心臓が大きくひとつ跳ねた。

いよいよだ。

第一声は決まっている。

ガチャン、と鍵が開き、ドアノブが回る。

暗い部屋に通路の蛍光灯の光が差した。

やがてドアが開き、外の寒気が頬をかすめた。

彼女が帰ってきたのだ。

「メリークリスマス!」

予想に反して彼女は叫びもしなければ、驚きの声も上げなかった。

意外と根性が座っているのか、それとも驚きすぎて逆に言葉を呑んでいるのか。

ひれ伏すようにかがみ、花束を差し出している恰好の僕からは彼女が見えない。

見えないというより、恥ずかしいから見ないようにしている。

「…………」

彼女は黙ったままだ。

いい加減、しびれを切らした僕は顔を上げた。

「驚いた? ごめんね、喜ばしたくてつい――」

ごりょん、と頭の中で音がした。

視界が反転し、頬に床が当たる。地面が起き上がってきたのかと思った。

声がでない。呼吸をするだけで苦しい。

体中が痺れて動かない。

なのに顔だけがお湯をぶっかけられたように熱い。

「え……? あ……」

唸り声だけが辛うじて喉から絞りでる。

自分に起こったことを理解できないまま、懸命に体を起こそうとすると望まずに寝がえりをうつ形となった。

寝返り? 僕は倒れているのか?

ようやく状況が見えてきたのと同時に、玄関に立つ姿が目に入る。

あれ……?

それは彼女ではなかった。

見たこともない、男。

マスクとフードで顔を隠したパーカー姿の……まるで、不審者だ。

あ……ストーカー……

僕の頭にその言葉が浮かんだ直後、慌てた様子で男は手に持ったナニカで僕の頭を殴った。

ごりょん、また頭の中で音がする。

これは僕の勘違いだったようだ。あまりに強い力で打ち付けられたのでそう思ってしまったらしい。

ごりょん、ごりょん、ごりょん……

「なんだこいつ! なんでミナホちゃんの部屋に! せっかくのクリスマスなのに!」

僕の彼女を呼び捨てするな……ああ、待て……どこにいくんだ……せめて、花束をミナホに……あの花にはネックレスが……

Happy Xmas!

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