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妊婦 2 / ホラー小説

公開日: : 最終更新日:2015/02/17 ショート連載, ホラーについて

妊婦

■電話は更に異常な回数に

 

 

 

真夜中、電話は鳴る。

 

 

「きゃああああああああ!」

 

 

ヒステリックに金切り声を上げ、莉奈はベッドから飛び起きると頭を抱えてしまった。

 

 

史郎が驚いて飛び起き、何事かと辺りを見回し、すぐに莉奈の肩を抱いた。

 

 

「落ち着け! 落ち着けよ莉奈!」

 

 

隣で寝ていた沙弓も莉奈の悲鳴で目を覚まし、その異様な状況を肌で感じたのか一緒に泣き出してしまった。

 

 

「う、うう……もう嫌……もう嫌ァ……」

 

 

莉奈はすっかりノイローゼになってしまった。

 

 

あの謎の電話は、かかってくる頻度が更に増し今では5時間に一度はかかってくるようになった。

 

 

つまり、日に4度。時間を選ばずにかかってくる。

 

 

「うう……」

 

 

うずくまってすすり泣く莉奈の姿に、すっかり史郎も参ってしまった。

 

 

黙って背中をさするも、どうすればいいのかわからない。

 

 

「警察に通報しようよ」

 

 

「そんな、ただのいたずら電話だろ?」

 

 

「だたの……いたずら電話?! なんで私のこの姿を見てそれが言えるの!? 出産を控えて不安な時にあんな嫌がらせを受けて、ストレスになってるのに……。

あなたは私も赤ちゃんも、どうなってもいいのね!」

 

 

「大袈裟だろ、それは……」

 

 

困った様子で史郎は莉奈を宥めるが、どの言葉もおもいやりが籠っておらず、面倒事は勘弁してほしいという感情ばかりが滲み出ている。

 

 

「助けて欲しい時に助けてくれないなら……あなたと一緒にいるのなんてできない!」

 

 

「はあ?! なに言ってんだお前! 仕事帰って疲れてんのにたかがいたずら電話で病んでるのはお前だろ! それに付き合ってやってんのにその言い方はなんだよ!」

 

 

「たかがいたずら電話? 一日に4回も5回もかかってくるのに? それが毎日毎日、繰り返してるのに、たかがいたずら電話って言ったよね?!」

 

 

「いたずら電話だろ! そんなに嫌なら電話線抜いとけ!」

 

 

そう言って史郎は寝室から出ていってしまった。

 

 

「……」

 

 

 

■電話線

 

 

 

翌日、史郎の言った通りに莉奈は電話線を抜いた。

 

 

これまでは両親からもかかってくるから、ということでそれはしなかったが……思えばちゃんと説明すればよかったのだ。

 

 

毎日かかってくる電話に強迫観念を植え付けられていたようで、どうもそこまで気が回らなかったのかもしれない。

 

 

そう思うと、少し莉奈は安心した。

 

 

「これで少しは安心できるかな」

 

 

沙弓の頭を撫で、目の下のクマの目立つ莉奈は大きくため息を吐くのだった。

 

 

『♪』

 

 

その時、莉奈のスマートフォンが着信を知らせた。

 

 

「史郎かな」

 

 

画面を見て、着信相手を確認した莉奈は凍り付いた。

 

 

《公衆電話》

 

 

――まさか。私の携帯番号になんて……。そんなはずないって

 

 

普通に考えれば、そんなことがあるはずがない。

 

 

いたずら電話の相手が電話線を切られたことに気付いたとしても、莉奈の携帯電話の番号を知る術はない。

 

 

莉奈は自分に言い聞かせ、そんなはずはない、そんなはずはない、と心で繰り返しながら通話をタップした。

 

 

「……もしもし」

 

 

『おお莉奈か! 携帯電話にかけることなんてないからなあ! 試しに電話してみたんだ!』

 

 

「お父さん……」

 

 

ふぅっ、莉奈は大きく息を吐いた。

 

 

――そうだよ、そんなはずないって。

 

 

『東京にはあぶねぇ奴がいるもんだなぁ! これも勉強だと思ってよ、元気だせや!』

 

 

「うん、ありがとうお父さん」

 

 

どうやら莉奈の考えすぎだったようだ。だがそれも仕方ない、ここのところの異常な回数の電話を思えば疑心暗鬼にもなるというものだ。

 

 

プップッ

 

 

「あ、ごめんお父さん。キャッチだ」

 

 

『ああわかった、また電話するから』

 

 

「うん」

 

 

父親との通話中にキャッチホンが鳴った莉奈は、父親の電話を切りキャッチホンを取った。

 

 

「もしもし」

 

 

『……ぺろぺろぺろぺろ』

 

 

「ぎゃあっ!」

 

 

莉奈は思わずスマートフォン投げてしまった。

 

 

たった今あり得ないことと思ったことが起こった。

 

 

あのいたずら電話が、知るはずもない莉奈の携帯電話にかかってきたのだ。

 

 

莉奈はがちがちと上下の歯をぶつけながら、瞳を見開いた。

 

 

「まーまー」

 

 

「うるさい!」

 

 

「ふぇ……ええーん!」

 

 

沙弓が泣くのも構わずに莉奈はうずくまり、頭を抱えるとぶるぶると震えた。

 

 

 

■産婦人科での再会

 

 

 

「……ちゃんと寝てますか?」

 

 

定期検診で訪れた産婦人科で莉奈は医師に尋ねられた。

 

 

「ええ……ちょっと」

 

 

どちらとも取れない曖昧な返事で莉奈は答えた。だが、その様子も既に上の空で医師は心配そうな顔で莉奈を見詰めた。

 

 

「それに少しやせたようですが、ちゃんと食べないと元気な赤ちゃんを産めませんよ?」

 

 

「ええ……そうですね」

 

 

なにを聞いても相変わらずの莉奈に溜息を吐くと、医師は出来るだけちゃんとした生活を心がけるよう助言するとその日の検診を終えた。

 

 

「莉奈!」

 

 

受付で清算待ちをしていると、誰かに呼び止められた。

 

 

莉奈がその声に振り向くと、そこ立っていたのは和美だ。

 

 

「和美さん」

 

 

「やだ和美でいいよー! ……っていうかさ、どうしたのそれ。すごい顔色してるけど、あれからよくなってないの」

 

 

「うん……。ちょっと精神的に参ってて、あんまり眠れてないし」

 

 

「ダメだよ! 妊婦なんだからちゃんと食べて寝なくちゃ……あ、よかったらこれから一緒にランチしない?」

 

 

和美の誘いに莉奈は悩んだ。一緒に居る沙弓もそうだが、なによりも食欲がない。

 

 

しかし、ここのところ史郎や両親としか会話をしてこなかった莉奈は、知り合ったばかりの和美と話すことで新鮮味が欲しいと思ったのだ。

 

 

「下の子いるけど……いいかな」

 

 

「あったりまえでしょ? じゃあ、行こう」

 

 

「あ、でも和美……検診は?」

 

 

「もう終わったから大丈夫!」

 

 

やけに明るい和美に引かれ、莉奈はランチへ出かけるのだった。

 

 

 

つづく

 

 

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