戦跡を訪ねる【大阪・化学分析場】
■朽ちてゆく美醜
戦跡を訪ね、みっつめ。
旧真田山陸軍墓地、大阪・護国神社と一日で回ったので冬の近づく10月の夕刻時は日が落ちようとしています。
明るいうちになんとか写真に収めたくて、やってきた大阪城は京橋口にある『化学分析場』。
やってきたはいいのですが、それを前にして私はあっけにとられました。
情報として知ってはいたものの、ここまで朽ちているとは。
その場所は、まさに『廃墟』。
赤レンガで積み上げられた外壁がモダンな雰囲気をだしていて、遠目で見るとおしゃれな建物のような印象も受けますが、ここは戦時中に化学薬品や化学兵器などを造っていた施設です。
れっきとした戦争の遺物。
ですが、なにより外見の異様さよりも立地のアンバランスに私は戦慄しました。
ここ、大阪城周辺は戦時中、陸軍の砲兵工廠があった場所。
去る大阪大空襲でもっとも重点的に爆撃されたところでもあります。
それを逃れて今も残っていることも気味が悪いですが、なぜこの施設を遺しているのでしょうか。
■疑問
戦跡は残しておくべき遺産である。
これには私も同意します。ですが、この化学分析場跡は戦後、自衛隊によって使用されていたという経緯はあるものの、今では使用しておらず廃墟と化しています。
普通、戦争遺産というものは維持するための管理組合や、自治体、時には国が管理するものです。
管理の仕方はさまざまですが、基本的に『戦争の記憶を風化させない』というスローガンがあり、それらは守られていることがほとんど。
郊外に位置するものや、住宅街の中にあるもの、山や僻地にある戦跡は放置されているものも多いので、廃墟であること自体にはなんの疑問もありません。
ですが、この化学分析場は『人目につきやすい大阪城公園の京橋口入り口すぐにある』のです。
外国人観光客も多く訪れる公園の入り口、各線駅からも近い場所に……“国に放置されている廃墟”。
それのなにが不思議かとお思いの方もおられると思います。
しかし、よく考えてみてください。
常識的に考えるなら、戦争遺産でもあるこの化学分析場跡……。老朽化で倒壊の危険性があるにしても放置はしないのではないでしょうか。
それこそ、きちんと管理し『鑑賞に堪えうる戦跡』として維持するのが自然なのでは。
なのに、この施設は廃墟のまま放置され、どんどんと朽ちて行っているのです。
目の前で見ても、知っていなければこれが『太平洋戦争時から存在している』なんてわからないでしょう。
しかも、『化学分析場』です。
どう斜めに考えても、戦争に使った『化学薬品・兵器』を開発、製造していたことは想像に難しくありません。
負の遺産、というのなら人目につくこんな場所にずっと置いておくのは不自然。
再利用できないのであれば取り壊すべき施設です。
今、これをどこが管理しているのかはわかりませんがなぜ戦後70年以上……使用されなくなってからは20年以上、放置されているのでしょうか。
邪推するには充分すぎる材料ばかりが並んでいる、不気味な戦跡です。
■暗闇に、朽ちる
いよいよ、日が落ちてきました。
カメラを持っていたのですが、知識に疎く、夜の写真が上手く撮れないので急いであちこちと角度を変えて化学分析場を収めました。
やがて日が落ち、空が飴色から橙、藍色に染まった頃……大阪城がライトアップされました。
空襲で大阪城一帯も破壊され、一帯は跡形もなくなったといいます。
大阪大空襲で一部ダメージを受けたものの損壊を免れた大阪城ですが、天守閣を支える石垣はそのまま。そこには機銃掃射の痕が生々しく残っています。
戦後、建て直された大阪城と同じ景色に並ぶ、戦前から遺る化学分析場。
時の移り変わりを静かに見守ってきたそれは、外国人たちが大勢バカンスに訪れる現代をどのような気持ちで見ているのでしょうか。
放置されたまま朽ち、いつか形を失うまで戦争の一部始終を見てきた古ぼけたモダンな建物はここに佇み続けます。
大阪城の天守閣前には旧第四師団司令部庁舎があり、戦後は大阪市立博物館として再利用され、現在はミライザ大阪城として商業施設となっています。
こちらも爆撃から難を逃れた施設ですが、大阪城公園に並ぶ観光商業施設として連日多くの来場者で賑わいを見せています。
京橋口から大阪城を無表情で見つめる化学分析場と明らかに明暗をわけた現在、一体どれほどの歴史的価値の違いがあるのでしょうか。
化学分析場前、京橋口入り口には今も『砲兵工廠』と刻まれた石柱が建っています。
それはまるで「忘れるな。ここが戦争の拠点であったことを。ここが戦場になったということを」と伝えようとしているようにも思えないでしょうか。
京橋口入り口は、戦時中からほぼそのままの形だそうです。
ここに陸軍兵たちや銃後として従事する市民が往来していた。この入り口の前に立つとそのイメージも容易です。
今にも当時の緊迫と活気が蘇ってきそうな、不思議な感覚をただ覚えます。
ここは日本。
かつて、列強国として戦争をしていた国。
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