戦跡を訪ねる【大阪・旧真田山陸軍墓地】 1
■旧真田山陸軍墓地
どうも最東です。
この仕事に就いてから、取材として様々なところに出向きました。
そのすべてが作品にトレースされるわけではないのですが、間違いなくこれらは私の血肉になっているということは確かでしょう。
今回、ご紹介する【旧真田山陸軍墓地】もそんな場所のひとつです。
(旧真田山陸軍墓地維持の会)
(場所)
2018年9月に大阪を含めた関西を襲った大型の台風、台風21号で多くの個人碑が倒壊・破損の被害を被り、ますます墓石の維持が問題視されてきました。
(参考:https://mainichi.jp/articles/20181029/k00/00e/040/265000c)
戦後70年以上が経ち、当時を知る人がひとりひとりといなくなっていく中で今、戦争が過去のものとなろうとしています。
戦争の記憶が人々から消えようとする今、物言わぬ戦跡だけが私たちが耳を傾けるべき歴史の証人ではないでしょうか。
しかし、旧真田山陸軍墓地が背負っているのはそんな戦後70年(以上)の歴史よりももっと古く、重厚な戦いの歴史なのです。
と、いうのもこの陸軍墓地に眠っているのは太平洋戦争(第二次世界大戦・大東亜戦争)の者だけではないのです。
むしろ、太平洋戦争時代の墓石はありません。
この墓地はそれよりも以前、つまり日露戦争、日清戦争、さらに遡り西南戦争で戦没した兵士、軍役夫のものがほとんどだからです。
もっとも、日露戦争の戦没者は多すぎて個人碑を建てられず、合葬されていますが。
墓地内中央に鎮座する納骨堂には、太平洋戦争の戦没者がおよそ8,200人の骨が納骨されているといいます。
■身近にある戦禍の跡
場所は大阪は玉造。
大きな幹線道路を住宅街に向け入るとすぐに見えてくる公園があります。
その奥に、景色を眺めるかのように石の鳥居が建っていました。
さらにその手前には、不自然に折れた石柱がひとつ。
正面には『國家安泰平和祈願』と刻まれ、背面には『昭和二十年六月 戦災を蒙り倒壊 その片柱をここに留心』とありました。
ここは三光神社という神社。
なんでも真田幸村がここの穴を通って大阪城に抜けたとかなんとか。(不勉強ですみません)
数年前大河ドラマで人気を博した『真田丸』の影響もあって、歴史マニアや真田丸ファンの間では有名な神社となっているようです。
鳥居をくぐって石畳の階段を上がった先に真田幸村の石像が歓迎してくれたのは、そういった事情もあってのことのようでした。
なるほど。真田幸村縁なのでこのあたりは『真田』とつくのでしょうか。
ともあれ、真田幸村目当てで訪れた諸兄方にはおよそ気づかれないだろう目立たない場所に、最初の戦跡である鳥居の片柱があったというわけです。
■静かに眠る愛国民
今の時代、『愛国民』などという言葉を使うと神聖な意味……というよりは穿ったとらえかたをする方が圧倒的に多いのではないでしょうか。
これが私の偏見としても、あながち過言ではないと思います。
さりとて、ここでこの言葉を使うのはただ純粋にここで眠る忠霊(※旧真田山陸軍墓地では靖国神社のように戦争で死した兵士を『英霊』と呼ばず、忠君の敬意を込め『忠霊』と呼びます)に、尊敬と敬意を込めてのことです。他意はないのであしからず。
わたしが訪れたのは日曜の午後だったのですが、隣接する公園には人がおらずただお日様が笑う、平和そのものを具現化したような日常の一コマでした。
折れた片柱を写真に収め、一礼後鳥居をくぐって階段を昇ると前述の真田幸村像が出迎えてくれます。
その脇ではシニア会でしょうか。真田論議に花を咲かせるご年配のグループが。
それを横切り歩いてゆくと、それはありました。
遠目でもひと目でわかる、異世界のような空気感。
そこだけ世界を切り取ったかのような、別世界がありました。
入口に立ち、眼前に広がる景色に圧倒され言葉を失いました。
ずらりと並ぶ、夥しい数の墓石。
このひとつひとつに、戦争で亡くなった兵士(軍役夫)が眠っているのかと思うと胸に迫るものがありました。
その時の自分の感情を言葉にするのは難しいのですが、その地に立っただけで自然と涙が溢れたのは初めての経験です。
「お邪魔いたします」と深めのお辞儀をすると、中へと足を踏み入れました。
■5,100基
それにしてもすごい数の墓石です。
1871年(明治4年)に作られたこの墓地は単純に計算しても実に140年以上が経過していることになります。
当然、全ての墓碑がその当時に建てられたものでなくとも、すくなくとも当時から現在まである墓石もあります。
見るからに古く、経年による風化で刻まれている文字すら読めないものもありました。
それどころか、朽ちて倒れたであろう墓石の跡や、倒壊した墓石を無理に積み上げているものまで様々です。
真新しい墓石はおそらく親族や関係者によって建て直されたのでしょう。
かと思えば、放置されたままただ朽ちているだけの墓石もありました。
墓地ではありますが、まるで生前の人間模様を見ているような気持になります。
さらにこの墓地は生前の階級でブロック分けされており、軍役夫や捕虜は最も手前に配置され、奥に行くにしたがって兵士、将校、と身分があがっていきます。
死してなお、階級に縛られているのは現代に生きる私たちにとっては不憫にも思える光景ではないでしょうか。
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