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【夜葬】 病の章 -81-

公開日: : 最終更新日:2018/07/17 ショート連載, 夜葬 病の章 , , ,



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背丈よりも低い石柱に『鈍振神社』と彫られてある。

 

 

それを懐中電灯で照らし、河中は階段の上へと光を照らした。

 

 

杉山の亡骸は、村井が背負っていた。交代で杉山を背負っていけば、体力の消耗を抑えられる。という理論だ。

 

 

葛城はそれを聞いてバカバカしいと心底河中らを侮蔑した。しかし、それを表情や言動に出すわけにはいかない。賛同する素振りを見せつつも、わざとらしく足を引きずって『俺は杉山を背負えない』と強調する。

 

 

果たしてどちらが本当の意味でバカバカしく、滑稽なのかはわからない。

 

 

それよりも今は、階段の上にある神社に向かわねばならなかった。

 

 

「その……杉山の顔は本当にこの先の神社にあるのか」

 

 

「確かです」

 

 

「なぜ言い切れる」

 

 

「なぜって、さっきも言ったでしょう。黒川さんが教えてくれたからですよ」

 

 

それがそもそも信ぴょう性がないんじゃないか。

 

 

葛城の中で鬱憤と口に出せない言葉が蓄積してゆく。本当はこんなことしている場合ではない。杉山のことなど放って置けばいいじゃないか、と叫び散らしたい。

 

 

だが夜の暗闇がそんな葛城の訴えを表情から削り、誰にもそれを悟らせなかった。

 

 

神社へ続く階段は石畳のものではなく、木で形づけた簡単なものだった。一歩上がるたびにへこんだ土で疲れる。

 

 

神を崇め、死者の魂を奉納する割には安い作りだ、と葛城は心で悪態をつきつつ、階段を上がり切った頃にはすっかり肩で息をしていた。

 

 

「ここか……」

 

 

村井が鳥居の手前で手をつき、前かがみになった。葛城の倍、息を切らしている。

 

 

無理もない、ここまでの道のりを杉山の亡骸を背負って上がってきたのだ。

 

 

「大丈夫か、村井」

 

 

村井はぜえはあ、と苦しそうに荒い呼吸を繰り返すだけで葛城の言葉には反応しない。

 

 

その様子から村井はかなり消耗しているのがわかった。

 

 

「こんな調子で山から下りれるのかよ」

 

 

葛城が河中に不安を漏らすが、河中は我関せずとばかりにさくさくと境内の奥へと進む。

 

 

「お、おい! 待て、村井と杉山をどうするんだ」

 

 

「回復したら来てください」

 

 

あれだけ杉山に執着してやがったくせに、神社についた途端なんなんだ。

 

 

葛城は憤った。ここまできて杉山をないがしろにするのなら、そもそも自分が付きあっている理由がない。

 

 

それに、仮にこれが杉山のためだというのなら、生きている村井はどうなのだ。

 

 

生きている村井よりも死んだ杉山のほうが重要だとでもいうのか。

 

 

河中の自己中心的で偽善的な態度に、葛城はこれまでとは違った不満と苛立ちが募る。

 

 

確かにこれまで葛城の方が利己的でわがままだったのかもしれない。横柄な態度とワンマンぶりでクルーたちを振り回したし、挙句の果てには自分ひとりで村から逃げようとすらした。

 

 

自分のことを棚上げしてでも、敢えて葛城は河中の理不尽さに憤りを禁じえなかった。

 

 

「だい……じょうぶです。いきましょう」

 

 

「あ、ああ……」

 

 

村井が満身創痍の体を持ち上げ、重々しく曲げた膝で一歩踏み出した。

 

 

見るからに辛そうだが、村井は文句ひとつ言わずに境内の奥へと進む。

 

 

肩くらい貸してやろうかと思ったが、杉山のぽっかり空いた顔面の穴が怖ろしくて、なにもできなかった。

 

 

足を引きずる演技も忘れ、村井と歩幅を合わせて歩くだけだった。

 

 

 

「これは……!」

 

 

村井と共に境内の奥へと進んだ葛城は、そこに広がる異様な光景に全身が総毛立つ。

 

 

目の前にあったのは無数の地蔵だった。それもすべて顔がない。

 

 

杉山と同じく、どの地蔵の顔もぽっかりと穴が空いている。

 

 

「なんだこのおぞましい地蔵は!」

 

 

羽を毟られた鶏のような、できものにも似た鳥肌がぷつぷつと葛城の腕と首筋に表れた。

 

 

赤い涎掛けをかけた地蔵がずらりと3段、並んでいる。

 

 

それは実に二九体もの数に及んだ。

 

 

そして、すべてに顔がないと思われた地蔵の中に、ひとつだけアンバランスな顔がある地蔵がある。

 

 

「ひ……ひゃああああ!」

 

 

葛城はその場にうずくまり、頭を抱えて目をつぶった。

 

 

本能的に自らの身を厄災から守ろうとしたのだ。

 

 

言うまでもなく、地蔵に嵌め込まれた顔とは杉山の顔だった。

 

 

「あった! 杉山、待ってろ……!」

 

 

河中が杉山の地蔵に駆け寄り、田中も一歩遅れて付いて行った。

 

 

ねちゃり、という粘着質な音が静かな闇にヒビを入れ、嬉々とした表情で河中が戻ってくる。

 

 

「やめろおお! それを近づけるなああ!」

 

 

うずくまったままの葛城は確信していた。そして、同時に後悔もしていた。

 

 

うすうすは感じていたはずなのに、孤独が葛城を盲目にしたのだ。

 

 

「杉山ぁ! よかったなあ!」

 

 

「杉山、お前、元気じゃないか」

 

 

「杉山、がんばった!」

 

 

葛城を除いた3人が、かわるがわる横たえた杉山に声をかけ、まるで生き返ったかのようにふるまっている。

 

 

河中、田中、村井。この3人もすでに異常だったのだ。

 

 

どこかのタイミングで、なにかのきっかけで、それがなにかはわからない。だが、間違いなく3人は正常ではなかった。

 

 

完全に村の邪気に中てられ、正気を失っている。

 

 

その証拠に、河中らはともに杉山の顔の穴に、顔を嵌め込んでいる。

 

 

まるで……そうすることによって杉山が再び起き上がると信じているように。

 

 

「おはよう!」

 

 

「おはよう、杉山!」

 

 

「おはよう~!」

 

 

葛城は耳を塞いだ。

 

 

誰か、この耳を千切って持って行ってくれ。

 

 

心の叫びも発狂じみていて、違う意味で葛城もまた正気を失うすれすれだった。

 

 

「おはよう!」

 

 

「おはよう!」

 

 

「おはよう!」

 

 

「おは――」

 

 

 

 

「……へっ?」

 

 

唐突に沈黙が走り、そのまま沈黙は沈殿するようにして静寂になった。

 

 

葛城は一瞬、わからなかったが遅れてそれに気づくと恐る恐る、河中らを振り返る。

 

 

そこにいたのは、死んだはずの杉山だった。河中たちが嵌め込んだはずの顔はない。

 

 

顔面は穴。真っ黒な穴。

 

 

「なんで……なんで?」

 

 

震えもせず、叫びもせず、ただきょとんと素朴な疑問を投げかけた。

 

 

河中らはいない。つけたはずの顔もない。

 

 

ここにあるのは、葛城本人と、どんぶりさんの杉山。

 

 

手にはなぜか、杉山本人が持ってきた園芸用シャベルが握られている。

 

 

「なあ、杉山。なんでだ?」

 

 

極度の混乱と混沌で感情との接続に不良が起こったようだ。葛城は、ただ質問を繰り返す。

 

 

『お……』

 

 

口も舌もなく、喋れるはずのない杉山が、顔の穴の奥から声をだした。理屈はまったくわからない。

 

 

だが、なにかを言おうとしているのは確かだった。

 

 

葛城は放心状態でそれを待つ。

 

 

 

『お……おかわり、ありますか』

 

 

 

 

葛城を含めた4人と、杉山の亡骸は人知れず……消えた。

 

 

 

 

 

-82-へつづく

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