ダイエットサプリ / ホラー小説
■ダイエットサプリ
古今東西、胡散臭いダイエット用品は氾濫している。
女性に生まれたからにはいつもスリムで美しいスタイルに憧れ、だが努力はしたくなくおいしいものは食べたい。
そこで現れた救世主が「飲むだけで痩せる」という触れ込みのダイエットサプリだ。
けれどさっきも言った通り、そういうサプリは何千何万種類が存在していて、実際効果があるものなどはその内の数種類ではないかと思う。
もちろん、用量・使用によりけりではあるけれど、ほとんどが所謂『ガセモノ』を掴まされる。
しかも『よく効く』を詠っているものに限って高価なものが多い。
医薬品ではないので効能を約束するものではない、と申し訳ばかりに記載されてはいるものの、やはり飲むだけで痩せるなどとは虫の良すぎる話なのだと思う。
かく言う私もそういったダイエットサプリに夢を見たひとりだ。
これまで数種類のサプリメントを試したはいいけれど、どれも大した効果もなくやがてやめてしまった。
結果として、そういったダイエットサプリに夢を見ないことに決めたのだ。
……というのは、大半の女性がそう思っていること。心ではそう決めていてもつり革広告や、雑誌の広告、テレビの通販番組などの甘い文句を聞くと、ついついグラッときてしまう。
値段も高価ではあるが、べらぼうに高いわけではなく仮に効果が現れなくても『仕方ないな』で済ませられる絶妙な値段ばかり。
ついつい買ってしまいそうになる欲を抑えるのに毎回大変な想いをしていた。
■モデル御用達
「そういうのって絶対一般的に流通するわけないじゃん」
大学の友達ミキコは、少しふっくらとした体型のフェミニン系。
自分の体型と好きなファッションが合わないといつも嘆いていて、私よりも沢山のダイエットサプリを試してきたという。
正直、私はついつい途中でやめてしまったり、誘惑に負けてスイーツを食べてしまったりする中で、ミキコは一途にそれらを続けていた。
食事も制限をかけていたし、普段の生活サイクルにも気を使っている。
そんな彼女が痩せないのであれば、もはや私がなにをしても無駄ではないか。そんな風にも思ってしまっていたのも事実。
「そうだよね。ミキコが言うならそうだよ。やっぱり飲むだけで痩せられるサプリなんてないよね」
バニラクリームフラペチーノのストローの先を噛みながら私は、都合のいい希望が存在しないことを憂いた。
「違うよ。あるの! 本当にあるから絶対にテレビや広告で宣伝なんかしない」
「……え?」
意外な言葉を言ったミキコに、私は固まった。
私なんかよりも沢山のサプリを使い続けた彼女がそんなことを言うとは思わなかったのだ。
だけど逆にそれが説得力になった。
「どういうことなのミキコ」
「だってさ、考えてみてよ。モデルから人気になったタレントとか、トップモデルってさ毎晩のように好きなもの食べてるし、運動もしてるっちゃしてるけどそれほどでもないじゃない?」
「確かに……インスタとか見てるぶんじゃ私達とかわんないようにも思うけど」
「それってさ、必ず効くサプリがあるってことなんだよ」
ミキコは力説したが、どうもピンとこない。それもそうだ、彼女の言っていることは支離滅裂で根拠もない。
それをどう信用すればいいかわからず、私は返事に迷った。
「嘘だと思ってるでしょ? ……だよねぇ、でもさ。私知っちゃったんだよね」
■絶対に痩せるサプリメント
ミキコは後日、私を連れてとあるカフェへとやってきた。
そこで待ち合わせたのは、彼女の姉の友達で現役のモデルをやっているエリカというひとだった。
「ミキコー、こっちこっち」
「あ、エリカさん」
顔見知りのミキコはエリカさんに私を紹介すると、近辺話で盛り上がりランチを食べた。
そして、一息ついたところでミキコが本題を切り出したのだ。
「それでね、エリカさん……サプリの話なんだけど」
エリカさんはにやりと不敵に笑うと、「それねー」そう言って持っていたバッグからピルケースを出した。
「わあ……」
エリカさんが出したのは、水色と白のマーブル模様がかわいいサプリ。縦長のサプリが多い中で、それは丸い球体でほんの少しだけど市販のサプリよりも大きいような気がした。
「これこれ。絶対内緒よ?」
エリカさんの話はこうだ。
このサプリはモデルの中でもある程度の知名度と実績を得れば自然と話が舞い込んでくるらしい。
というのもモデルの世界で大成するにはそれなりの付き合いも必要になり、そうなれば体型の維持も難しくなる。そのため、これを勧められるのだという。
なんでもハリウッド女優や、海外セレブではもはやマストアイテムになっているらしいが、情報が世に出ない理由は聞きすぎる効果からだという。
「用法さえ守っていれば安全。……ミキコがダイエットに頑張っているのに全然痩せないのがかわいそうで。内緒でわけてあげる」
エリカさんはまだまだ知名度は低いけど、それでも時々テレビや雑誌のページに載るようになってきたから、手に入れることが出来たそうだ。
このサプリは生産にある程度の制限があるらしく、爆発的に浸透させることも無理だと言う。
「私は付き合いで買ったんだけどさ、いまんところお偉いさんとかそういう付き合いないからしばらく使わないと思うんだよね」
そういってエリカさんは持っている10錠をくれた。
「いい? これは10日に一回飲むのよ。絶対にそれは守って。つまり10錠で100日間効くってことだから。それと二人で5錠ずつ分けるんだよ」
私は正直なところ半信半疑だったけれど、ミキコは瞳を輝かせて大きく頷いた。
■効果
私とミキコはエリカさんと別れて、早速それを一錠ずつ飲んだ。
丸くて少し大きいから飲みにくかったけれど、なんとか二人とも飲むことができ顔を見合わせて笑う。
「これで私たちもモデル体型なるかな?」
「なったら嬉しいね!」
それから一週間後、驚いたことに早速効果が現れた。
普段通りの食生活をしているというのに、2キロも体重が減ったのだ。
こんなにも他のサプリと違うものかと私は感動した。
その感動をミキコに話そうとミキコを呼び出すと、ミキコは私の体つきをみて驚いた。
「すっごーい! やっぱり効果あるんだね!」
「うん、すごいよこのサプリ! ミキコはどうだった?」
ミキコは少しうつむき加減で笑うと「私は変わらないんだよねー」と寂し気にいった。
「きっとちょっとくらい個人差あるんだよ! ほら、まだ4錠あるし!」
「いや、わかってるんだ。私、ついつい5日目にもう一錠飲んじゃったから」
「えー! エリカさんがダメだっていってたじゃん!」
「反省してる! だから来週からはちゃんと守ろう!」
私だけが痩せて、ミキコは平静を装っているつもりだったみたいだけど、明らかに落ち込んでいる。
それを見て私はついミキコに自分の分もサプリをあげるから頑張ろうといってしまった。
「えっ!? ほんとに? いいの」
正直私は、あと2キロもやせれば自分の理想体重だったから次の一錠を引いた3錠、ミキコにあげることにした。
ミキコは涙目で喜び、何度も私にありがとうと感謝してなんだか嬉しくなった。
■2週間後
このところミキコが大学に来ないことが気になって私は、学校帰りにミキコの家に行ってみることにした。
ミキコは実家暮らしで、尋ねてみるとお母さんが出た。
お母さんは私がミキコの友達だと悟ると、表情を暗くして部屋へと案内してくれた。
なぜそんな顔をしているのか疑問に思っていた私だったけど、部屋にいるミキコを見てその理由を知ったのだ。
「ミキ……コ……?」
ミキコはテーブル並べたすごい量のお弁当やおにぎり、パンを一心不乱に食べていた。
すごい勢いと形相でそれらを食べているのに、不自然なほど彼女は痩せこけ骨と皮だけになっている。
「ここ一週間ほどずっと食べ続けてるの……なのに痩せ続けて……」
お母さんは、病院にいっても原因はわからなかったと言った。
だけど、私は気付いていたのだ。
――ミキコは、私のあげたサプリも全部飲んだんだ……。
それより2日後、ミキコは入院したまま音信不通になった。
その後で私が調べてみると、気味の悪い都市伝説にひっかかった。
『ハリウッドセレブたちの間でご用達となっているのは、体内で虫を飼うダイエット方法。いくら食べても体内の虫がそれを食べてくれるので必要以上に太らない。だけど体内に2匹以上の虫を飼ってはいけない。許容を超えてしまうから』
――もしかしたらあのサプリって……。
私はそこから先を考えることをやめた。
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