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【連載】めろん。67

公開日: : 最終更新日:2020/10/20 めろん。, ショート連載, 著作 , ,






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・綾田広志 38歳 刑事㉔




 タンスの抽斗を上から順に調べてゆく。すくない衣類が整理されていた。




 下段の低い抽斗には子供服があり、心が痛んだ。当然ながらタンスには衣服しかない。




 次に冷蔵庫を調べるがこれといったものはない。キッチンまわりも同様だ。




「……一応、な」




 3本あったうち1本の庖丁を拝借し、有事のお守りとしてとっておく。役に立つとは思えないが気休めだ。




 リビングはがらんとしており、ソファとテーブル以外のものはオーディオくらいだった。テレビがないのは情報を遮断するためだろう。




 下駄箱にも靴しかない。ごく普通の一般家庭……といった印象だ。




 おそらくどの家も同じようなものだろう。




 二階へ上がる。上には3つ部屋があった。




 ひとつは寝室、ベッドがふたつ並んである。あとは化粧台だ。




 化粧台の抽斗には化粧品だけ、笑ってしまうほどなにもない。




 寝室のとなりは子供部屋なのか、おもちゃがあちこちに転がっている。小さなデスクが在りし日を想起させた。




 残りの一室は……




「なにもない。使っていなかったのか」




 畳んだ布団が一組あるだけで、それ以外はなにもない。いや、カーテンはある。閉め切っていて、やたらと暗いがわずかな隙間から光がほんのりと差し込んでいた。




 なんとなく気になり、その隙間から外を見てみるとちょうど表の通りだった。




 人が通ればすぐにわかるし、見通しがいい。




 割と遠くまで見えて、偵察にはよさそうだ。




「……そうか」




 そうだ。偵察を行っていた。




 この隙間はたまたま空いていたものではなく、ここから大城は外を眺めていたのだ。




 人通りを?




 そうじゃない。ここに住んでいる住人を観察したところでなにもないのは奴もわかっていたはずだ。それとももしかして住人の中に重要な役回りをしている人間がいたのだろうか。




「……ッ!」




 一瞬、目を襲った眩い光。




 顔を上げるとさらに二度、光った。はす向かいの住宅の……二階の窓からだ。




「まさか」




 窓の桟に目を落とすと小さな手鏡があった。




 そこにある理由を理解した俺は、同じようにはす向かいの窓に向かって鏡を使い光を反射させた。




 チカッチカッ




 わかったぞ。大城はあそこの住人とコンタクトをとっていた。ということはつまり、大城にとっての協力者。




 反射で合図を送り合っていたのだ。一体なぜ……?




 両間に悟られないため、というのは容易に想像がつくがこんなまどろこしいことをするだろうか。




 理由を探ろうにも大城はいない。直接あの家を訊ねるほかないだろうか。




 ……というより、向こうは大城が死んだことを知らない。だから合図を送っているのではないか。




 ――どうしようか。




 もしかすると光の合図はなにかの信号の可能性もある。例えばモールス信号とかで交信していたのだとすれば、こちらがいい加減な合図を送った時点で怪しまれるだろう。




 大城にモールス信号の知識があったとは思えないが、人は見かけによらない。決めつけるのは致命的なミスにつながるかもしれない。




 しばらく考えこんだ。どうしたものか――




 コン、コン、




 突然のノックに心臓が跳ねた。




 息を殺し、固唾を飲む。招かざる客の動向をうかがった。




 コン、コン、コン、




 再びノックが鳴る。




 窓から玄関を覗くが、カーテンが邪魔でよく見えない。




 注意を払いながら、ゆっくりとカーテンを開けた。




「うっ」




 玄関に立っている男と目が合った。




 まるでここに俺がいることをわかっているかのように、じっとこちらを見つめている。




 男は伸びたぼさぼさの髪にメガネ、無精ひげ。恰好はスーツなどではなく、ごく普通の服装をしていた。




「両間の部下……ではないのか」




 男はじっとこちらを見つめたまま、ゆっくりと手をこまねいた。




 誘われている。




 こちらを補足されている以上、無視するのは得策ではない。観念するしかないと思った。




 だが――




 さきほどキッチンで拝借した庖丁を確かめる。




 いざとなればこれで抵抗し、隙を作ることくらいはできるかもしれない。




 手をこまねく男に向けうなずくと、俺は階下へ降りた。




 玄関ドアに張り付き、ドアスコープを覗きこみ内側からノックした。




「あー……はす向かいに住む者だが」




 なんだと?




「光を送ったのは」




「あー……わたしです」




「あんたは誰だ」




「うー……それを訊きたいのはわたしのほうなのですが、まー……いいでしょう。わたしは高知県警二課の弘原海(わだつみ)といいます」




「高知県警?」




「あー……お疑いのようなら、どうぞ。見えますか」




 そういって弘原海はドアスコープに向けて警察証を見せた。




「……今開ける」




 庖丁をしまい、鍵を開ける。男は俺を見て驚いたような顔を見せた。




「おー……もしや、同業者ですか」




「なぜわかる」




「目を見れば。なるほどなるほど、だから大城さんのお宅に」




「大城は大学の友人だ。俺は大城を捜しにここへきた」




 弘原海は目を剥き、「なんと」と驚いた。動作が緩慢でわざとらしい。




「んー……とにかく、中で話をしませんか」




「中はだめだ」




「えー……なぜですか。大城さんも交えたほうが有意義だと思いますが」




「大城は死んだ」




 弘原海の目つきが変わる。なるほど、同業者と見抜くだけのことはある。まぎれもなくこの男は刑事だ。




「……早合点しないでほしい。俺が来た時には死んでいた」




「殺人ですか」




「…………自殺だ」










めろん。68へつづく

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