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【連載】めろん。44

公開日: : 最終更新日:2020/02/25 めろん。, ショート連載, 著作 , , ,






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・ギロチン 29歳 フリーライター④




 四角い。白くて四角い建物。デタラメに巨大(おおき)い。




 いつだか、某所の原発を取材したことがある。そこは山の中にあったが、不釣り合いに巨大で、山の中から唐突に現れた。




 人間は途方もなく巨大なものに無力だ。自分が取るに足らない存在だと思い知らされる。




 山の神はこんな感じなのだろうか。いや、人が山の神を創ったのか。違う。人は悪魔を創ったのだ。




 そんなことを思ってしまうほどに、山の緑の中にそびえる人工物は異質で恐ろしい。




 真っ白く巨大なそれはあの時感じた畏怖よりもさらに俺の背筋を冷やした。




 山を切り拓いたというより、山の中に元々いた巨人の一部が露出しているような、近づくだけで危ういような感覚。




 中東のスラム、ブラジルの紛争地域、武闘派宗教のアジトなど、別の意味で恐ろしい場所ならいくらでも行った。当然、心霊スポットや単純に危ない場所も。




 だがどの場所とも違う恐ろしさがこの建物から発している。無機質で無表情な白いだけの四角い建物。




 立地の異様さと目的のわからなさ。もはやどこから突っ込めばいいかわからないくらい、謎のデパートと言っても良かった。




「……いいねえ」




 全身にビリビリと走る怖気が俺を興奮させる。アドレナリンがどくどくと分泌するのがわかった。




 いつだって俺はそうだ。危ない場所にくると興奮する。知りたくなる。




 本能が「逃げろ」と叫べば叫ぶほどに逆らいたくなるのだ。そして、めろん村跡のこの謎に包まれた建物はその中でも最上級の興奮だった。




「触れちゃなんねえ電波がビンビンだぜ」




 建物は窓すらない。外壁は高く、自力で登れるようなものではなかった。




 平な壁は右も左も限りなく続いている。歩いていけばそのうち角に差し掛かるだろう。




 何もないので観察するところもない、悩んだが直感で右側を壁伝いに歩いた。




 どのくらい歩いただろうか。随分進んだところでようやく壁の終点に辿り着いた。




 おそるおそる角の先を覗き込んで再び俺はげっそりした。




 角の先もまた途方もなく壁が続いている。一体どのくらいの面積なのか、想像もつかなかった。




 白い壁を延々歩きながら富士の樹海が頭をよぎる。




 あそこでは磁石が利かず、ほんの50m踏み入れただけで迷い込むという。そしてそれこそ延々に同じ場所をぐるぐると周り、迷う。




 シチュエーションは違うがそれに似ていると思った。




 だが二度めの壁の終着でそれが杞憂だとわかる。ふたつめの角の先には変化があった。




 一見、どこまでも続く壁のように見えて、よく見れば中央付近に出っ張りがある。恐らくあそこが出入口なのだと思う。




 ひとまずあそこまで行ってみようと気力を振り絞った。




 玄関だった。それもごく普通の、なんの飾り気もない。




「病院みたいだな」




 思わず口から零れる。素直な感想だった。




 自動ドアでないのは当然としても一般的なテナントで見るガラス扉。故に中は丸見えだ。




 そこから見える白い建物の内部はやはり白い。正面は壁。左右に通路。簡単に奥までは見えないようになっている。




 普通、こういう場合壁際に受付があったり、そうでなければ会社や団体の名称やロゴがあったりするが、ここにはそういうものは一切ない。ただの真っ白い壁だ。




 せめてポスターや絵のひとつくらい飾ればいいものを、とお節介なことを考えてしまう。




 玄関のガラス扉の上部にはシャッターがあるようだ。これが下がっていないということは、今は人の出入りがありそうだ。




 周辺を注意深く観察してみるがカメラの類はないように見える。




 しかし、この山林のなかだ。木の枝や木陰に設置されていればわからない。




 扉に近づき、深呼吸をしてから手をかけた。もしかしてなんらかのアラートがなるかもしれない。




 しかし心配をよそにアラートは鳴らない。が、ドアもロックされていて開かなかった。




「そりゃそうだよなあ」




 がっかりはしないがラッキーがあればと期待した分だけの溜め息を吐く。




 入口はここだけだろうか。見たところかなり広い敷地だから車が出入りする場所はないものか。




 せっかく見つけた玄関を背にするのは勿体ない気がする。だがほかの出入口を探すのに躊躇すればたちまち時間を消費するだろう。やはりここは一周したほうがいいだろうか。




「あのお」




「びっくりしたあ!」




 口から心臓が飛びだすかと思った。突然、後ろから男の声がしたのだ。




 驚いて振り返るとひょろっとした痩せぎすの男が立っていた。緑がかったグレーの作業着、首にタオルと巻き紺色の帽子を被っていた。手には開閉式のちりとりと長いトングを持っている。




「当館になにか御用でしょうか」




 恰好とはギャップのある洒落たフレームの眼鏡をかけ、レンズの奥から懐疑的な光を覗かせている。




「ちょっと取材に……おじさんはここの職員の人?」




「ええ、まあ。取材ですか、上からはなにも聞いていませんが」




 やった! 思わず声がでそうになった。まさか施設の関係者に接触できるなんて。




「え~本当ですか? 確かに許可をもらったんですけどね……」




 そう言ってカバンをまさぐる。当然、許可を証明するようなものはなにも持っていない。そのように見せるポーズだ。




「どなたをお探しですか」




「メールで対応してくださったのはサイトウさんって方です。直接、電話で話したのはタナカさんって方なんですが……ご存じですか」




 口からでまかせだった。期待していたわけではないが、明らかに末端のアルバイトっぽいこの男ならチャンスがあるかもしれないと思ったのだ。




「サイトウ……はわかりませんが、タナカさんは確かにいますねえ」




「そうです! その人ですよ、実は時間より少し早くきちゃってどうしようかと困ってたんです」




「そうですか。じゃあちょっと確認してみます」




 そう言って男はドアの脇からパネルをだし、カードリーダーにカードを翳した。




 白い壁に白いプレートで蓋をしていたからか、俺はそれに気づかなかったらしい。




「確認してまいりますので中でお待ちください……」










めろん。45へつづく

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