ホラー小説 / 血の付いた男②
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■インターホン
井上が部屋に戻り、バスタブに湯を溜めている間にテレビを点けビールの缶を開ける。
二口ほど飲んで先ほど購入した惣菜パックのラップを指で破き、同封された割り箸で口に入れた。
テレビでは丁度夕飯時ということもありグルメ番組が映し出されていた。
「う~、たまにはいいもん食いたいね」
テレビに向かって呟く彼の目線の先には大きなハンバーグを口いっぱいに頬張るタレントが画面狭しとアップで映っている。
「……かった」
「!」
突然彼の耳の近くで誰かの声がした気がした。
しかも、これはさっきエレベーターで聞いた声なような気がする。
すぐに井上はテレビの音量をミュートにし、息を呑んで耳を澄ました。
だがいくら様子を伺っても彼の耳に入るのは湯を溜めているバスタブの水音のみであった。
「疲れてるのかおれ」
『ピンポーン』
余りのタイミングに腰かけた椅子から転げ落ちそうになった。
なんとか体勢を整え、インターホンに繋がる受話器を取る。
「は、はい……どちらさまです?」
『……』
インターホンの向こう側の客はなにも言わない。
「いたずらか?」
わざとインターホンから聞こえるように言ってみた。
「……あの、右山急便ですがお荷物をお届けに上がりました」
画面を見ると一階の自動ドアの前で立つ運送会社の制服を着た男が立っていた。
「あ、はいどうぞ」
そういえばネットで買い物したんだった……。
妙に安心し、井上は一回の自動ドアの開錠ボタンを押した。
■届け物を受け取り……
「ではこちらにサインをお願いいたします」
「あ、ここですか? ……井上、と。はい」
「あざーっした!」
井上が思った通り、届け物は彼がネットで買った商品であった。
テーブルに置き、荷物の梱包を開けると彼が買ったゲームソフトが入っていた。
「やっと来たかー! けどする時間あるかなー……いや、絶対毎日やりまくろう」
彼がゲームのパッケージを手に取り嬉しさに心を躍らせていると、バスルームからザバザバと湯が溢れる音が聞こえてきた。
「うわ、やべ」
慌ててゲームをそこに置き、バスルームへ湯を止めにいく。音が知らせた通りの惨状に頭を掻き、
「やっちまったなー」
とため息を漏らす。
「お前のせいだぞ! こうなったら朝までやってやんからな!」
湯を止めて戻ってきた井上は湯が溢れたのはこのゲームのせいだと決めつけ、喋るはずもないパッケージに文句を垂れるのであった。
「……ん?」
パッケージを手に取ると、さっきまでついていなかったはずの赤いなにかの跡がついているのに気付いた。
「なんだこれ」
その赤いなにかの跡をマジマジと見ると、それは赤い液体のようだった。
「……まさか、血なんてことない……よな」
そういえば、さっき梱包を開ける時に使ったカッターが見当たらないことに井上は気付いた。
「待てよ……気のせいだって、それじゃこの部屋に誰かいるって……」
『まいうー!』
急にテレビが爆音になりタレントのコメントが部屋中に響いた。
心臓が飛び出すかと思うほどに驚いた井上がテレビを見るとボリュームが最大になっている。
「な、なんだよ……!」
リモコンを手に取ると、気持ちの悪い感触を感じ思わず放り投げてしまった。
「うわあっ! な、なんだ……わああっ!」
手に感じた気色の悪い感触を確かめようと、リモコンを持った手を見ると掌は真っ赤に濡れていた。
「ち、ちち、血ぃ!?」
部屋中にテレビの爆音が占領する中で彼の声はそれに掻き消されるだけであった。
「なんで俺だとわかった?」
テレビの爆音とは違う静かな男の声が耳のすぐそばで聞こえ振り返ると、急に視界が真っ暗になり床に押し倒された。
誰かに力ずくで倒されたのだ。
「うわあ、もごご……!」
口元を抑えられ視界が開けた井上が見たのは蒼い作業着の男。顔は覆いかぶさっている為に逆光でよく見えない。
だがすぐに井上は本当に見えなくなる。
「なんで俺だとわかった?」
再度男はそう言うと、井上の目にカッターナイフを突き立て力任せにぐりぐりと奥へと捻じ込む。
「ぎゃああああああっっっ!」
両手を膝で押し付けられている井上はただ悲鳴と共に足をバタバタとさせることしか出来ない。
男が井上の眼球をプリンでもかき混ぜるようにぐりぐりと抉り続ける。
バキン、
目の中でカッターの刃が折れ、男はカッターを引き抜いた。
井上は余りの激痛にぶんぶんと首を振り、何度も後頭部を床に叩きつけ断末魔を上げる。
カチカチカチ
それはカッターの新しい刃を押し出す音だと断末魔を上げながらも井上は気付いた。
「た、たしゅけて! やめて、やめてよぅ! 痛いから……死んじゃうよ!」
強く頬を掴まれ顔を固定され、次にもう片方の目に薄い刃がめり込む感覚を味わう。
「ひぎゃあああああ!!」
井上の下半身は水溜りでびっしょりと濡れ、彼の恐怖と絶望と激痛を物語る。
「お母さあああん! お母さああああん! たしゅけて! た、しゅ……おげぇえええええ!」
彼の口には今届いたばかりのゲームのパッケージが無理矢理押し込まれた。
余りの力の強さにパッケージのところどころが口の中で割れ、彼の口中に突き刺さり口よりも大きなものを詰め込まれ少し裂けた口からごぼごぼと血があふれ出す。
そして喉にするどい痛みが走り、井上は言葉を発することも困難になった。
■死んだ井上
井上が糞便を漏らしながら傷口を押さえて痙攣しているのを尻目に、作業着の男は家の中を物色しはじめた。
飲みかけのビールを飲み、食べかけの惣菜を食べ、テレビを見てくつろいだ。
「音がうるさいな」
音量を小さくし、テレビを楽しんだ後たっぷりと湯が張った風呂に浸かり今日一日の疲れを癒す。
風呂から出ても喉から血を流しながら痙攣している井上を見下し、再び作業着に着替えた。
あれだけのことをしておきんがら男の作業着はほとんど汚れていない。肩に少し血がついているくらいだった。
「それじゃあ行くか」
部屋を出ようとした男は、さきほど届いたゲームの梱包を見た。
「井上……守……?」
そう口に出して言い、ぴくぴくと痙攣を続ける井上を見て一言……
「人違いでした。すみません」
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