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【連載】めろん。26

公開日: : 最終更新日:2019/09/17 めろん。, ショート連載, 著作 , , ,






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・大城大悟 38歳 刑事②




「両間が?」




 電話の向こうで綾田はやはり驚いていた。




 考えていなかったわけではないが、実際に直面してみると取り乱してしまうものだな、考え込む沈黙が苦しかったのか、綾田は言い繕った。




「その女子高生というのは、なぜ連行されたんだ」




「わからん。そもそも誰を連行したのかを隠蔽しようとしていた節がある。偶然、両間たちが取調室に入っていく時に目撃したんだ」




「目が合って、一緒にこいと言われた……」




 そうだ、俺がそう言うと小さな沈黙が訪れた。電話の向こうでなにかを考え耽っているのだろう。




「それは……別にお前でなくてもよかった。もっと言えば、誰も県警の人間に付き添わせるつもりがなかった、というわけか」




「恐らくそうだ。取調室の手前まで連行した人間にフードをかぶせて何者かを隠していた。室内に入る手前でふとした拍子でフードが取れた姿を見てしまった。それで俺は女子高生だとわかったんだ」




「そうか。両間たちはコンプアライアンス的なことを一応意識した、ってことか。それにしてもお前、よく我慢できたな」




「言うな。今でも思いだしただけで情緒がおかしくなる」




 綾田は俺の言葉を汲んだ。それ以上はなにも突っ込んで聞かないでいてくれた。




 付き合いが古いだけに俺の性格のことはよく知っている。あと10年若ければ、相手が誰だろうとぶん殴っていただろう。だが俺には芙美も、娘もいる。




「責めんよ。俺も親だ」




 綾田がこの件に関して発したのはこれきりだった。




「それにしても両間がわざわざ連れ込んでまで暴行を働いた。厭でも『メロン』が関係しているって思っちまうな」




「そこはわからん。なにせ女子高生を見たのは一瞬だ。あれが正気かどうかなんてそれだけじゃあな」




「メロンに罹った人間は、外見じゃ絶対に判断できない。喋ってみて初めて分かる。ああ、食っちまったあとは普通に喋れるみたいだから食後はわからないかもな」




 ジョークのつもりか綾田はふふん、と笑った。




 相変わらずこの男のセンスは理解できない。シニカルといえば聞こえはいいが、共感できなければ意味がない。




 とはいえ悪いやつではないのは確かだ。単に不器用なだけだ。




「助かるよ、教えてくれて」




「ああ。だがお前、まだ追っかけてるのか。そんなもの追いかけてもどうしようもないだろう」




「なにを言う。どうしようもないのならお前だって俺にこの件をわざわざ話したりしないだろう」




 図星だ。




 俺はおそらく室内で暴行されているであろう女子高生を前にして、無力だった。保身に走り、無関係を決め込んだのだ。両間に言われる通り、『見なけれあ無関係』を鵜呑みにしたのである。




 だが本心では助けたい。どんな理由があるにせよ、あんなことは許されていいわけがない。だから、なにか救う手立てがあるはずだ。




 俺には思い浮かばなかった。だから、綾田に頼ったのだ。我ながら情けないが、この男は信用できる。それだけは確信していた。




「だが大城、いいのか」




「なにがだ」




「これを話して大丈夫なのか」




「まさか、お前あちこち吹聴するつもりなのか」




「そんなことをするはずがないだろう。ありがたい情報だ。だが、両間という男がお前のことを警戒していないか、心配でな」




 警戒だと? 俺の問いに綾田はトーンを落とし、続ける。




「あの男は相当に狡猾だ。にこやかにしているが目的のためなら手段を択ばない」




「なぜお前がそんなことを言いきれる? 親しいのか」




「いや、憶測さ。根拠はないが確信を持って言える。だからこそ、あの男がお前を信用しているとは思えない」




「なんだよ、はなっから口外するってわかってたっていうのか? そりゃあ買いかぶりすぎだろ。俺にはそこまでずる賢いやつには見えなかった。まあ、死神っぽいなって思ったくらいだ」




 綾田はまあな、と答えたが声音に納得が乗っていない。




 案じてくれるのは嬉しいが、いくらなんでも考えすぎだ。そもそも俺は警官なのだ。




 組織は違うかもしれないが、両間と俺は同じ穴の狢……つまりは警察組織の人間には違いない。敵ではない、ということだ。




 それなのにわざわざ俺を疑い、警戒するというのか?




 それは完全に犯罪者側の思考だ。すくなくとも警察の考え方ではない。




 昔から綾田という男は考えすぎるきらいがある。俺とは正反対の、石橋をたたいて渡るタイプだ。そのせいで何度も損をしていることも知っている。




 慎重なのはいいが、考えすぎはよくない。




「だったらいいんだがな。いや、そうかもしれない」




 俺の考えに綾田は理解を示した。




 疲れているのかもしれないとの吐露には俺も同調した。この仕事は、疲れる。




 精神をすり減らしてばかりだ。




「ともかく教えてくれてありがとう」




「ああ、いいさ。俺もすっきりしたよ」




 最後には笑った。自分の中で未消化だった鬱憤が霧散していく気になった。




 通話を切り、スマホを置こうとした時、着信を知らせるバイブが鳴った。




「なんだよ、まだなにかあるのか」




 綾田がなにか言い忘れたのか、持った手のまま通話にでる。




『まだまだい~っぱい、ありますよぉ~。大城刑事ぃ~』










めろん。27へつづく



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