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【夜葬】 病の章 -25-

公開日: : 最終更新日:2017/05/09 ショート連載, 夜葬 病の章



 

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村の男たちは武器をもち、船坂を先頭にして美郷の捜索に出た。

 

 

人数にして7人。目的は美郷を葬り去ることだ。

 

 

「どっちみちあれは野放しにしてはおけん。毎晩、殺しに来ることを恐れていてはおちおち眠れんしな」

 

 

ああ、そうだ。そうだそうだ。と相槌を打ちながら、船坂が先導する松明を頼りに村の男たちは続いた。

 

 

屋敷から美郷が出て行った後、話し合いの結果、できるだけ早く【地蔵還り】の心配を除いてしまおうということになったのだ。

 

 

当然、【地蔵還り】を危険視し、反対する意見も出た。

 

 

つい先刻まであんな恐ろしい力を見せつけられたのだ、反対する者の意見も無理もない。

 

 

だが一方で彼らは分かっていた。

 

 

だからと言って、あんな恐ろしいバケモノが歩き回っていて安心できるわけがない、と。

 

 

次第にふたつに分かれていたはずの意見は、『【地蔵還り】を殺そう』という方向にまとまりつつあった。

 

 

鉄二が気を失い、もはや誰もあれを『美郷』と呼ばなくなっていた。

 

 

「どういういきさつかは分らんが、美郷が死んで【地蔵還り】になった。奴自身が言っているとおり、あれを殺すには捕まえてちゃんと【夜葬】をしてやらにゃいかん。ただ殺すだけならば、頭でも切り離して潰してしまえばいいんじゃろうが、それでは【地蔵還り】の悪しき魂が船家夫婦や副嗣に移らんとも限らん。わかるな。殺すのではなく『捕まえてこい』。そうでないと、災厄は逃れられん」

 

 

船頭の話にうなずくと、村の男は決起し、武器を取った。

 

 

その中に、元の姿もあった。

 

 

「いけるのか、黒川」

 

 

「ああ、もう大丈夫だすまなかった。船坂」

 

 

「そうじゃない。俺が聞いているのは、『俺たちを邪魔しないか』ということと、『これから美郷を殺すために捕縛するが理解しているのか』ということだ。お前と美郷の間になにがあったのかは知らんが、村と家族を守るために俺たちはあれを殺す。それに耐えられないくらいなら来るな、ということだ」

 

 

「……どっちも分かっている。もう聞くな、船坂」

 

 

「そうか。悪かったな」

 

 

気持ちでは分かっているが、心では理解できていない。

 

 

本心はそうだった。

 

 

しかし、元にしてみても鉄二という息子がいる。美郷が美郷でない以上、大事な家族を守るために決意するしか道はなかった。

 

 

そしてそれに対し、『討伐組に参加しない』ということはあり得ないことでもあったのだ。

 

 

「家族……か」

 

 

切り離された土色の腕。無造作に捨て置かれたそれを見つめ、元はいずれ家族になるはずだった美郷を思った。

 

 

――どこでこうなったんだ。美郷……。

 

 

「よし、行くぞ!」

 

 

「おおっ!」

 

 

船坂と男たちの気合に、無理やり声を合わせ元は槌を掲げ、夜の闇へと歩を進めた。

 

 

 

 

捜索を始めてから二時間が経ち、討伐組が鈍振神社の林の中を探していた時。

 

 

目当ての【其れ】を発見した。

 

 

声を出しそうになる村人に振り返り、船坂が口元に指をあて『声を出すな』と合図する。

 

 

【地蔵還り】は、うずくまり、一心不乱になにかをしている。

 

 

徐々に近づいてくる船坂らにも気が付いていない様子だった。

 

 

――美郷……。

 

 

元の瞳にも当然、【地蔵還り】のその姿が映った。

 

 

その辺を転げ回ったのか、白い上着はそこら中に土で汚れ、失くした腕の付け根付近は赤黒いシミが広がっている。

 

 

船坂は少しの間様子を見て、【地蔵還り】がこちらに気付いていないことを認めると、元や男たちに【地蔵還り】を囲むよう指示する。

 

 

無言でうなずいた男たちは、音を立てないよう円形に【地蔵還り】を囲んだ。

 

 

7人がそれぞれ位置についたのを確認した船坂が深呼吸をする。そして【地蔵還り】に向かって叫んだ。

 

 

「おい! バケモノ!」

 

 

「……っ!」

 

 

船坂の声に振り返ったその顔に、誰もが絶句した。

 

 

顔も髪も、血で真っ赤に染まり、肉片や臓物、黄色い脂肪がまとわりついている。

 

 

まさにバケモノという言葉がぴったりの風貌だった。

 

 

「ひぃいい!」

 

 

余りにもおぞましい姿に、数人の村人が怯み声を震わせる。

 

 

船坂も思わず後ずさりしてしまいそうになったが、なんとか踏みとどまり【地蔵還り】を睨み返した。

 

 

「お前、何を食うてるんだ! まさか人か?」

 

 

松明を掲げ、【地蔵還り】の背後を照らした。草むらの中にぐちゃぐちゃに解体され、分かりにくいが狸の死体がある。

 

 

「……なんだ。獣の血か。生肉はそんなにうまいか」

 

 

「???」

 

 

船坂の言っていることが理解できていない【地蔵還り】は首を傾げ、瞼を何度もぱちくりとさせた。

 

 

「船坂、食ってない。みさ……いや、【地蔵還り】はこの狸を食ってないぞ」

 

 

「なんだと? どういうことだ黒川」

 

 

食っていたとしても気が狂いそうになる光景だったが、元にとってはそれよりもこの事実が衝撃だった。

 

 

口に出すのも憚れるほど、汚らわしい言葉。

 

 

「なんだ、言えよ黒川!」

 

 

【地蔵還り】の動向を注視しながら訊く船坂に、元は唇を噛むように答える。

 

 

「ただ、殺した……だけだ。ただ殺して、バラバラにして、それと遊ぶように顔や髪に狸の肉片やはらわたを塗りたくった。多分、大した理由も……なく」

 

 

風のない夜に、凍るような冷気が走る。

 

 

それに伴い、7人の討伐組の背筋が粟立った。

 

 

「ただ……殺しただけ? ただ殺して、なんとなく顔にはらわたと血、塗ったってか」

 

 

「ああ……」

 

 

顔が強張ったまま硬直している姿に、【地蔵還り】は真っ赤な顔で、にたり、と笑った。

 

 

 

-26-へつづく

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