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【連載】めろん。14

公開日: : 最終更新日:2019/06/04 めろん。, ショート連載, 著作 , ,





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・綾田広志 38歳 刑事④




 ごきゅっごきゅっ、と喉を鳴らして明日佳は美味そうにコーラを飲む。




 手前にはハンバーガーとポテト、チキンナゲットが広がっていて、小さな王国がそこにあった。




「うまいか」




 明日佳は無言でうなずいた。表情も硬い。




「いいんだぞ、好きなだけ食べて。食べきれなかったら残したっていい」




 でも……と明日佳は俺の手前を盗み見る。




 明日佳のそれとは対照的に、俺のテーブルにはホットコーヒーだけが寂し気に佇んでいる。




「ああ……パパはお腹が減ってないんだ」




 俺の言葉を疑っているのか、明日佳はハンバーガーやポテトに手をつけるのを遠慮しているのがわかった。




 手を伸ばし、明日佳のトレイからポテトを掴むと何本かまとめて口の中に放り込む。安い油が口いっぱいに広がり、胸やけを起こしそうになった。




「なかなかうまいな。たまにはこういうのもいい」




 おどけてやると、明日佳の表情は少し明るくなりようやくポテトに手をつけた。




 妻の葵は、俺と暮らしている時から徹底的な食事管理をしていた。




 やれタンパク質がどうの、食物繊維がどうの、必須アミノ酸がどうの……。




 極力塩分を抑えた料理はどれも薄味で、醤油やソースがないと厳しかった。だが俺は文句を言わず、なにもかけず、美味いと言ってすべて平らげる。




 幼い明日佳はなかなか食が進まず、ぐずった。葵はそんな明日佳にも容赦がない。




 最低限食べ終わるまで決して許さなかった。




 俺はよく葵の目を盗んで明日佳の分を食べた。俺にだした料理以上に味がない。




 子供にとっては食事も立派な生きがいだ。その生きがいが楽しみでなければ、苦痛でしかない。しかし、母親である葵はあくまでよかれと思ってのこと。明日佳の体と健康を思って作っている。




 それを無碍にはできないと知りつつ、もう少し明日佳の好きなものを食わしてやったらいいのに……と思った。




 ポテトを口にした明日佳は幸せそうに笑う。




 離婚して、こうして外で明日佳とふたりきりで会う時は葵といる時に食べられないものを食わせてやった。その度、明日佳は嬉しそうに笑う。




 俺はその顔を見るたびに、明日佳が恋しくなる。離婚そのものに後悔はないが明日佳のいない暮らしは苦痛だった。




「お母さん、最近どうだ」




 会うたびに聞いてしまう。未練がどうの、ということではない。葵に新しい恋人ができ、再婚でもすれば明日佳と俺は血のつながりでしか親子でいられなくなってしまう。




 葵のことだ。そうなればきっと俺と明日佳を会わせなくするだろう。親子だという事実が攫われてしまうのは目に見えている。




「普通だよ」




 そうか、と返事をしコーヒーを喉に流し込む。明日佳はようやくハンバーガーの包み紙をめくりはじめたところだった。




「もしもし、綾田です」




 ポケットで震えるスマホで電話に出る。電話の主は三小杉だった。とてつもなく厭な予感がする。




「ああ、そうか。わかった」




 用件を聞き、電話を切る。




 明日佳が食べ終わるのを待ってから、家に送り届けた。




 予定よりもずっと早い帰りに喜ぶ葵と、不服さを顔いっぱいに滲ませた明日佳に後ろ髪を引かれながら、俺は現場に向かった。




 現場は住宅街からほど近い集合住宅の一室だった。




 毎度の如く規制線が張られ、騒々しく警察関係者が往復している。




 住民と思われるやじ馬が規制線の外を埋め尽くし、頭上にスマホを掲げる者の姿も認められた。




 うっすらとなにが起こったかくらいの情報は持っているはずだった。それでもこうして集まるのだから、人の死はいつの時代も所詮ショーの域をでないのだ。




「お休み中じゃなかったんですか。別に出てこなくてもよかったんですよ」




「そのつもりだったが、あれだけパニックで電話してこられちゃあな」




 そう言って三小杉から電話があったことを告げる。高橋はわかりやすく顔を歪ませて舌打ちをした。




「いいんだよ。どうせ娘とふたりきりなんて息が詰まるだけだ。事件を言い訳にして逃げてきたんだよ」




 なにか言いたそうな高橋を横切り、部屋の奥へと進んだ。




 半分は本当だ。家族と離れて暮らすと、話すことに困ってしまう。俺は明日佳を見ているだけで満足できても、明日佳は違う。




 話したいことも、やりたいことも山ほどあるのだ。




 すべてを叶えてやりたいが、今の俺には荷が重い。薄々、気付いていたことなのだ。




 だがそれらも全部、自分自身に対するいい訳なのかもしれなかった。




「ガイシャは」




「冷蔵庫ですよ。あと、皿の上というか」




 今回の容疑者はふたり。母親と娘だと高橋は話した。




 名前は玉井典美。43歳。そして娘の茉菜。なぜか娘の歳は言わなかった。




「なんてったって母親は絶賛主婦業中ですからね、ちゃんと調理してるんですよ」




 しかもガイシャもふたり、と顔を歪める。




「ガイシャもふたり、だと」




「ええ。ひとりはウォーターサーバーの訪問営業の男。捨ててあったカバンの中身から特定しました。もうひとりは大学生で、こちらは身元確認のとれるものは持っていなかったのですが、住民が知っていました。この集合住宅内の別の棟の住民のようです」




 芝崎拓也25歳、木下英寿19歳……高橋が読み上げた。




「第一発見者は?」




「典美の夫です。玉井善治46歳。仕事から帰宅したところ『メロン』を振舞われたようです」




 それと……と高橋は玄関辺りを指差し、血を拭きとった形跡があると言った。




「正式な鑑定ではありませんが、拭きとられたのはおそらく木下英寿の血ではないかというのが鑑識の見解です。同じような拭き取り跡が台所にも」




「それが芝崎のものか」




 高橋は返事をした。




「それにしても……間隔が短くないか」













めろん。15へつづく

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