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【連載】めろん。19

公開日: : 最終更新日:2019/07/16 めろん。, ショート連載, 著作 , , ,









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・破天荒 32歳 フリーライター②




 黒電話のベルがけたたましく朝もやの部屋に鳴り響いた。




 うっすらしたままの意識で薄く目を開ける。




 部屋の壁には付箋やメモがあちこちに、開きっぱなしのノートパソコンにはベタベタとステッカーが貼ってある。冷蔵庫の扉や本棚にも。なんの変哲もない、いつもどおりの景色だ。見慣れた景色にその音だけがうるさい。




 黒電話のベルはもう20度目のコールだ。くしゃくしゃのベッドのシーツを億劫にかぶり、シーツの端から足をだす。




「うー……ん……」




 寝返りを打った拍子、ノートパソコンのそばに置いていたビールやチューハイの空き缶が乾いた音を響かせて倒れた。




「うん……?」




 ようやく頭がはっきりとしてきた。今の音は――




「ああっ!」




 跳ね起きてパソコンに飛びつく。キーボードは濡れていない。USBハブも。底もセーフだ。というか空き缶を蹴とばしただけだったらしい。




「あ~心臓止まったぁ~……」




 魂が漏れでてしまうかのような溜め息を吐く。これがお釈迦になれば死活問題だ。




 やはり嫌いだ信用できないだなどと言っている場合ではない。クラウドにファイルを……




 ふと我に返る。たたき起こされた状況のため、頭はまだちゃんと覚醒していないがこのうるさいベルの音がなんだったかを考える。




「ヤッバ、超携帯鳴ってんじゃん!」




 黒電話のベルはスマホの着信音だった。一番緊張感があるからとこれにしたのに、ピンときていなかった自分を殴りたい。




 体感的にも電話はずっと鳴り続けている。どこの版元の編集部だ? 確認する余裕もなく、反射的に通話をタップした。




「もしもし破天荒です!」




『どれだけ電話にでないんだお前』




「すみません、原稿終わってちょっとハメ外し過ぎちゃって」




『正直なのはいいことだが、もうちょっとTPOを弁えたほうがいいぞ。蛙子(あこ)』




「はっ?」




 雨宮蛙子(あまみやあこ)は私の本名だ。だが公には一切非公表にしている。知っている人間も懇意にしている版元くらいだ。それ以外で知っているのは――




 弾かれるようにスマホを耳から外し、画面を見た。




【綾田広志】




「うっそ!」




 全身が脱力する。最悪だ。ちゃんと着信相手を見ておけばこんな電話になどでなかったのに。




『どうせ今の今まで寝てたんだろ? いい生活だな』




「はあ? わざわざ厭味言うために電話してきたの? バッカみたい……あーもう最悪」




『昨夜は何本飲んだ? そうだな、景気づけにビールが3本、チューハイが4本ってところか。もう焼酎は飲んでないのか』




「うるさい。なんであんたに私の私生活を報告しなきゃいけないわけ? 大体、そのあんぽんたんな予想なんか大外れだし」




 といいつつ目でテーブルに散らばっている空き缶を数える。ビールが3本、チューハイが4本――。焼酎は版元の営業に酒臭いと言われてからやめた。イケメンだった。




 全部当たっているのが癇に障る。だが絶対にそんなことは言わない。




「なんの用。こっちはあんたになんてなんの用件もないんだけど」




『そんなつっけんどんな言い方をするな。別に口説こうと思って電話したんじゃない』




 口説けよ。心の中で叫ぶ。口説かせて上で完膚なきまでに断ってやるのが長年の夢だ。酒の量はアレだが、歳の割にスタイルには気を付けているしそこそこ自信もある。イイ女を意識しているのではなく、版元の編集どもに舐められないための防衛手段として、だ。




『お前の書いた記事、読んだよ』




「そりゃどうも。珍しいこともあるものね、あんたが私の書いたものを読むなんて」




 綾田広志とは昔交際していた過去がある。……と、いってもたった3ヵ月だ。だが付き合い自体は10年以上。私が駆けだしのライターの頃からだ。




 元々は当時私が勤めていた編集の先輩と付き合いがあった。あの頃はお互いまだ若かったこともあり、一度互いを意識し始めてからは男と女の関係になるのは早かった。




 私としても刑事と深い関係にあれば、業界の裏話がいくらでも手に入るという打算があった。だがこの男は本当につまらない男だと知った。




『なかなか興味深い内容だったよ』




「興味深い? なにが。あんたはオカルトにはまるっきり興味ないし、私がおっかけているネタだって胡散臭いって笑ったじゃない」




『あの時は若かったのさ』




「今は違うって? 冗談」




 広志は仕事の話は一切話さなかった。事件や裏話どころか、仕事の愚痴さえ聞いたことが無い。プライベートでもそれを徹底した。『ライターの私』にはつまらない男。




 だが『女の私』としては――




「もういいでしょ、世間話は。そろそろ本題を言ったら?」




『相変わらず勘のいいやつだ。いつ会える?』




「どんな誘い方するのよ。そういうのはまず用件を話して、行くかどうかは私が決めるの」




『オカルト話だよ』




「へっ? おっどろいた。あんたがそんな冗談言うなんて」




 広志に驚かされるのは「結婚する」と訊いた時以来だ。冗談も融通も利かない真面目一辺倒の人間がオカルト話を持ちだすなど、冗談以外のなにものでもない。




『俺が冗談言うタイプかよ』




「だから驚いてるんでしょ。今日って何の日だっけ、4月……じゃないな」




 広志は黙っている。沈黙に気付いた私は、この沈黙が何を意味するのかを考えた。それが互いの中で奇妙な静けさを生んでいた。




「……まさか、本当なの」




『電話で話せるようなことじゃないんでね。ちょっと聞きたいことがある』




 私は声音を変え「明日!」と叫んだ。







めろん。20へつづく



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