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【夜葬】 病の章 -66-

公開日: : 最終更新日:2018/03/20 ショート連載, 夜葬 病の章



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「きちんと正規の手順を踏んで、死者を弔う【夜葬】。村にとって、これがどれほど重要なものか、お分かりだろう」

 

 

ふむぅ、と舟知は溜め息を茶で押し込んだ。

 

 

村の役員たちは【夜葬】復活に向けて動き始めている。船村の言葉に耳を傾けながらも、やはりネックになるのは『29人の子供による生贄』であった。

 

 

「子供を殺すのはなぁ」

 

 

「なにを言っている。太平洋戦争での悲劇をお忘れか。あの時、年寄りの体力を言い訳に夜葬を廃れさせたからこその現状だろうに」

 

 

「しかし、夜葬を直接終わらせたのは鉄二だろう」

 

 

「それは単になくなりかけた夜葬に終止符を打ったというだけだ。以前も奴の父親である黒川元が同様に夜葬に疑問を投げかけたことがあったろう。しかし、あの頃は村には若い者もいて活気があった。誰も夜葬に疑問を抱かなかった。だから黒川の言葉は誰の胸にも響かなかった」

 

 

そうだなぁ、と同意しては見せるもののやはり顔は浮かない様子だった。

 

 

「まあよろしい。とにかく話を聞くのだ。夜葬が村にとっていかに重要なものであるかは、今語った通りだ。問題は夜葬の手順を踏まずに魂が拠り所を失った存在である。魂を福の神に返さず、肉体と精神が暴走したのが【地蔵還り】。そして、一度返した魂を別の船に返す【墓守】。問題はこの二つだと言える」

 

 

「【地蔵還り】に【墓守】かぁ……。坊主の頃はそんなもん御伽噺でしかないと思っとったがなぁ」

 

 

「船家の美郷が【地蔵還り】になって黒川や船家の夫婦を殺したことであれが本当にあるもんだと証明された。だが【墓守】はどうだ」

 

 

「墓守……。“故意に悪意を持って夜葬を反故にする”ことで現れる……だったか」

 

 

「どんぶりさんも地蔵還りも、どうすれば動きだすのかを知っておる。魂のないどんぶりさんは夜葬にひとりにすれば「魂を求めて」彷徨う。地蔵還りは村で死んだ者を夜葬を行わずに放置、または埋葬することで「同じ存在を増やそうとして」彷徨う。だが【墓守】だけは違う。あれは動きだす屍などではない。「誰かが作った呪いの装置」だ」

 

 

「残っているのが口伝だけだからなぁ。いまいち墓守についてはようわからん」

 

 

「そうだ。ようわからんからこそ、あれを生んではいかん。なにしろ、どうすれば防げるのかもようわからんからな」

 

 

舟知は自分で言ったことがおかしかったのか、声をだして短く笑った。

 

 

船村は表情を変えず、突っ立ったままだ。

 

 

「御変り病はな、間違いない夜葬のせいだ。しかし本当に恐ろしいのは病で村人が死ぬことじゃない。“そのあとのこと”だ」

 

 

「どういうことだ」

 

 

「これから病によって死人が増えれば、荼毘に付すのが間に合わなくなる。今でもギリギリだ。無理もない。こんな集落の村で火葬なんぞ、最初から無理があったのだ。町に行けばそれなりに火力の強い焼却炉を使い、短時間で焼いてしまえるのだろうがうちではそうはいかん。何日も焼き続けなければ骨だけを残して焼き切るなんてことは難しいのだ。だからこそ、山に生けるものは山に還るべきだ。山は神に一番近い場所。どんな山も神聖なのは同じ。山で死した者は魂を返し、船となった肉体は山の土に還す。これがごく自然なことだ。我らの勝手な都合でその神聖な習わしを反故にしたのだから、罰が下るのはごく当たり前のことだ」

 

 

「そうだな。確かにその通りだ。だがそのあととはなんだ」

 

 

「わからないか。荼毘に付すのが間に合わくなくなるということは、おのずと埋葬の手段を取らざるを得なくなるということ。夜葬のないこの村で埋葬を行うということはどういうことかわからないか」

 

 

舟知の脳裏には、地蔵還りと墓守の名が浮かんだ。

 

 

夜になり、暗闇の村を彷徨う死者たち。その光景を想像し、舟知はそら寒くなる。

 

 

「やはり避けては通れないようだな」

 

 

「そうだ。子供はかわいそうだが、夜葬はこの村には必要なのだ」

 

 

もはや疫病を止めるだけではない。村の存続にかかわる問題なのだ。ふたりはそう意識をすり合わせ、翌日、役員を集めて夜葬復活の決定を告げた。

 

 

 

「馬鹿な! これは暴論だ!」

 

 

五月女の大声に、病床の妻が心配そうな眼差しを向ける。

 

 

「ああ……ごめん、驚かせてしまったかい」

 

 

「ううん。もしかして、また村の偉い人が?」

 

 

「そうだ。病院の必要性を却下しただけでなく、【夜葬】という葬送風習を蘇らせるらしい」

 

 

五月女の妻、実久(みく)は「夜葬?」と反芻し、首を傾げた。

 

 

「死者の顔をノミでくり抜いて、その顔に白米を盛ってみんなで食べるっていう信じられない風習さ」

 

 

五月女の口からでたおぞましい内容に、実久は顔を引きつらせ言葉をなくした。

 

 

「わかるだろう。そんなものはするべきじゃない。するべきじゃないと一度は理解したからなくしたはずだ。僕は断固反対する!」

 

 

「そんなことを言ったって……」

 

 

実久はそこまで言ったところで、声が痰に絡み烈しく咳き込んだ。

 

 

「大丈夫かい、実久!」

 

 

「大丈夫……大丈夫だけど……」

 

 

実久はそれ以上は口に出せなかった。

 

 

なぜならば彼女は知っているからだ。五月女がこうまで村をでない理由が自分にあることを。

 

 

「とにかく、病院のことも含めてぼくにはまだやらなくちゃいけないことがある」

 

 

「けれど……わたしたちと同じ時にやってきた町の人たちはほとんどいなくなっちゃったんでしょう? 話ではあの窪田さんも……」

 

 

「そんなことは問題じゃない。ぼくはひとりになっても戦うつもりだよ」

 

 

五月女の確固たる態度に、実久は口を閉じるしかなかった。

 

 

「……むりはしないで」

 

 

「わかってるさ。ちゃんと、この村を気味が過ごしやすい場所にするから」

 

 

 

 

 

 

-67-へつづく

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