ウケ狙い / ホラー小説
■目立ちたがり屋
クラスで中心になる人間って言うのは、イケメンか決断力のあるやつか、もしくは面白いやつだ。
前者の二つはみんなから頼られたり、憧れられたりして受け身なのに対し、後者はこちらがピエロになることでみんなからいじられる。いわば変態みたいなもんだ。
ただ注目を浴びたいだけならば他にも方法はあるが、中心人物になるほどの目立ち方は笑われるしかない。
もうわかるだろ?
つまりそれは俺さ。
元々、バラエティやお笑い好きってこともあって、芸人やタレントの物まねをしていたらみんな笑ってもらえるようになってさ、いつも俺の言動に注目してるってわけ。
こうなってくると日々がパフォーマンスみたいなもんでさ、先生と話すときや先輩と話すときまでウケ狙いで話すもんだから、敵も相応に作っちゃって。
特に教師連中は俺の事を要注意人物だって思っているみたい。
俺はただ目立ちたいだけなのに。みんなに笑ってもらいたいだけなんだ。
■ボケ探し
まともに俺が話しているところや、俺が真面目にしているところなど誰も見なくなっていた。
いつどこに降りてくるかわからない笑いの神サマのためにいつ何時も油断できない。
「森ぃ、23ページから読みなさい」
「C=π-(A+B) を代入して sinA+sinB+sinC=sinA+sinB+sin{π-(A+B)}……」
「だははっ! 森、それ数学だろ? 今現代史だっての」
クラスメートは喜んだが、毎回毎回こんな調子の俺に厳しくあたる教師は完全にマークしていて、やっぱり「またか」という調子で顔を歪めた。
同じようなシチュエーションは他にもあった。……というか毎日だ。
自分の痛みよりも他人の痛みよりも俺は目立つことを優先するようになり、テレビで大笑いを取るタレントや芸人たちにも嫉妬を抱くようになっていったんだ。
この世で一番自分が目立っていると思っていた俺は、どれだけ怒られようがどれだけ痛い目に遭おうが構わないでいた。
それの対価に笑いと知名度が上がることのほうが俺には重要だった。
身体を張ったことも色々やった。
真冬のプールに飛び込んだり、裸で野球部のグラウンドにゴルフクラブをもってバッターボックスに立ったり、いつの間にか根性も認められるようになり誰からも俺は応援されるようになった。
やるところまでやってしまった俺は念願だった注目の中心に立つことができたのだ。
■言われたくない言葉
テレビで観るお笑い芸人がよくいう台詞「面白くないと言われたらへこむ」。
お笑い芸人なんだから確かにそれを言われたら落ち込みもするだろう。
だけど俺はそのくらいはなんとも思わない。
そんなものは個人によって千差万別だから。俺は何も100人に100人がヒットを放てるとは思っていない。
だけどそんな「面白くない」という言葉なんかより最低な言葉を僕に投げかけるやつが現れたんだ。
そいつが憎いとかではなく、それは一つの波紋、きっかけであってこれからさらに広がっていくことが簡単に予想できた。
その言葉とは……
「飽きた」である。
■この世で一番恐ろしいもの
その言葉は俺の中で最も恐れた、最も怖ろしい言葉だった。
面白くないは千差万別。
ただ、飽きたはだめだ。飽きられてしまうのは伝染する。瞬く間に広がってしまうのだ。
一発屋とか呼ばれているタレントはみんなそれだ。
それを言われた時点で、俺は焦った。
飽きられてしまっては、まずい。……まずいぞ。
俺は焦った。とにかく今までと違うことをしなければ。
だが、残念ながら巧みな話術で笑いをとるタイプじゃなく、突飛なことをして笑いを取るタイプだった俺は悩んだ。
新しいこととはなにをするべきなのか。
考えた。考えて考えて考え抜いた。
やみくもに歩きまわりながら思考をフル回転させている俺は大型デパートに差し掛かり、なにかアイディアがないものかと店内へと入ったのだった。
■クリスマス目前
大きなデパートは4階まであり、4階にはレストランやゲームコーナー、ホビーショップなどが立ち並んでいた。
俺はそこを歩きながら、クリスマスを目前に沸く人たちを横目で横切りながらどうすればいいのかを考える。
――この際だから逮捕されちゃうことでもやってやるか?
逮捕といっても、むちゃくちゃなことをしなければすぐに出てこれるはず。
高校は退学になるかもしれないけど、仕事はどうにかなるだろう。というかそうなったら本格的にお笑い芸人になってもいいんじゃないかとも思った。
「……よし、ここでひとつ伝説を作ってやるか」
どんなことが伝説になるのだろう。いや、どうせならすっげー伝説を残したい。
トーク番組とかで鉄板ネタになるような……そう、「笑いのためならそんなことするのか」と思われるようなすごいこと……。
そう考え込んでいた俺の前を小さな……3歳くらいの女の子が通った。
――これだ。
俺はその女の子を後ろから持ち上げると、これから起こる大爆笑に心が躍った。
――これはすごいぞ、絶対に誰にもできない笑いを起こしてやる。
このデパートは中央の催事場ステージを囲むように天井が吹き抜けになっている。落下防止の為に2メートルほどの高い壁が設けられているが、そんなものは大人が両手を上げれば裕にそれより高くあげられる。
俺はそれを実践して見せながら、確信を得た。
――うん。いける。よーし
「おい、お前うちの娘になにしてんだ!」
――お、あれはパパかな? よかったねぇ、パパもきっと笑ってくれるぜ! じゃあな!
俺は大爆笑の渦に包まれるビジョンを浮かべながら、女の子を――
投げた。
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