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【連載】めろん。94

公開日: : 最終更新日:2021/06/01 めろん。, ショート連載, 著作 , , ,






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・破天荒 32歳 フリーライター㉑




「ちょっと……しっかりしてよ、ねえ!」




 ぐったりとした坂口を揺さぶるが、破れた口元からダラダラと血が垂れるのみで反応はない。




「嘘でしょ、坂口……嘘でしょ!」




 鼻の奥がツンと痛み、視界が滲む。突きつけられた残酷な現実を前に坂口を抱きかかえる腕が震えた。




「いま、銃声がしたぞ」




「ひえっ! 磯崎さんが倒れている!」




「磯崎さん、自分には切り札があるって前に言ってたけどまさか」




 住民の声に我に返る。




 ここにいてはいけない。おそらく坂口が命を賭して倒した相手がそこにいるのだ。他の住人は銃声に集まってきた。死んでいるのか、倒れているだけなのか。磯崎なる人物に住人たちが群がってきているのがわかる。




 ここでじっとしていたらじきに私も見つかるだろう。




「…………」




 坂口を見る。ここに置いていかなければ、私は捕まってしまう。坂口は…………死んだ。




「くっうぅ!」




 渡された携帯電話をポケットにしまい込み、ピストルを両手で持ちながら走った。




 私は振り向かなかった。横たわった坂口の躯をもう一度見たら、きっと動けなくなってしまう。




 厭な奴だったが、悪人ではなかった。すくなくとも、檸檬や理沙に対してはちゃんとした大人だったように思う。それに頼り甲斐もあった。




 これからどうすればいいのだろう。夜を駆けながら、私は途方に暮れた。




 運よくその場から離れることはできたものの、町中に住民がうろついていて檸檬たちの待つ家まで辿り着けない。




 すこし進んでは物陰に隠れを繰り返していたが、広い道にぶつかると横断もままならない。ちょうど身を隠せる隙間があり、ここにいる限りは誰かに見つかる心配はなさそうだが、それでは根本的な解決には至らない。




 夜の暗い道を住民たちがうようよとライトを照らして行き交う。坂口が言っていた通り、どう考えても私たちを探しているとしか考えられなかった。




「それにしても……」




 ずっと握りっぱなしの拳銃を見つめる。




 銃社会のアメリカでもあるまいし、こんなもの手にするのははじめてだ。坂口は今わの際で『弾丸はあと二発』と言った。額面通りとるなら、この中にはあと二発の弾丸が入っているはずだ。




 自分の身は自分で守れ、ということだとは思うが……たった二発の弾丸で自衛できるだろうか。




 ……いや、できない。




 ないよりマシだという意味で渡したのだろうか。普通に考えればそれで腑に落ちるところだが、これを渡したのはあの坂口だ。いくら死の間際だとはいえ、そんな思考に至るだろうか。




 それにもうひとつ、大きな疑問があった。




〝坂口はなぜ撃たれたのか〟、だ。




 あの時、住人たちは坂口の嘘を信じて彼の指す方へと方向転換したはずだ。




 坂口の思惑通り、おそらくは指名手配(と、とりあえず言っておく)されたのは私や広志、それに星野姉妹。坂口本人は含まれていなかった。




 だから住人たちは坂口に従ったのだろう。




 その中でひとり、坂口が嘘を言っていることに気づいた人間がいた。




 確か、磯崎……といった。




 坂口に銃弾を命中させたが、直後、逆に銃を奪われた。その際、坂口に倒されたようだが生死は不明だ。




 住人のひとりが磯崎がなにかを持っていると仄めかしていたような旨を口にしていた。ということは、磯崎は住人のひとりなのは疑いようがない。




 手の中で鈍色に光る冷たい鉛。これが坂口を死に至らしめた。




 いや、実際に撃ったのは磯崎なる人物だ。銃が悪いのではない。事実、この手にあるだけで私は仮初の安息を得ているではないか。




 目をつぶった。自分が情けない。




 こんなにも無力なのか。自分の無力を棚に上げて、広志に偉そうな口を叩いていたのかと思うと厭になる。だが私はわかっていた。それは結局虚勢なのだ。




 長い付き合いでそれをわかっているから広志は口の悪さについてなにも言わない。いつだって私は、見栄張りで強がりで……大言壮語ばかり吐くただの女に違いない。




 せめて、檸檬たちのもとには戻ってやらなければ。




 坂口がなぜ撃たれたか? その疑問はもはや関係ないように思えてきた。どっちみち、最初から私は狙われている。その状況は変わらないのだ。




『ピローン』




 突然、尻でなにかが聴こえた。




 鳥肌が走り、即座にポケットからそれを出す。鳴ったのは坂口から渡された携帯電話だ。スマホではなくガラケー……それがもっとも鳴ってほしくないところで鳴った。




 音は一度だけだったが生きた心地がしない。




 次に鳴った時、せめてもの抗いにと携帯電話を握りしめた。止め方を調べて操作するよりも、すこしでも音が小さく鳴るよう努めねばならなかった。




 確実に今の音で誰かが気付いたはずだ。




 全身から血の気が引き、矛盾した冷や汗が噴き出す。




 息を止め、なにかが起こるのを待った。




 どこから住人が来ても咄嗟に動けるよう、膝を立て周囲の音に耳を澄ます。




 だがいつまで経っても、住民の魔の手がここまでやってくることはなかった。




『ピローン』




 さらにもう一度。さっきよりも音は抑えられたが、ダメ押しの一撃だった。




 完全に万事休す、確実に気づかれたに違いない。




 ……だがそれでもなにも起こらなかった。




 ――どうなってるの……?




 怪訝に思い、私はおそるおそる顔を覗かせた。










めろん。95へつづく

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