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【連載】めろん。36

公開日: : 最終更新日:2019/12/17 めろん。, ショート連載, 著作 , ,






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・三小杉 心太 26歳 刑事②




「あの……ここは?」




 僕が投げかける疑問を無視して公安の職員は前を進んだ。




 もう一度問いかけそうになる言葉を呑み込み、辺りを見回す。




 白い。なにもかもが白い。




 壁も床も蛍光灯も、時折思いだしたように置いてある椅子でさえ白い。一見すれば病院のそれだが、なにかの研究所のようにも思える。




 加えて無音だ。ふたりぶんの足音だけがひとりごとのように響いているだけだ。




 駅から降りて二時間、ここが山の中だということはわかったがまったく地理がわからない。入館時にスマホや通信系統の危機はすべて預けたし、なぜか腕時計まで奪われた。




 体感的にはおよそ20分くらいが経ったころだろうか。それにしたって長く感じる。




 どこまで進んでも同じ景色の白い通路が余計に時間感覚を曖昧にしている気がした。




 ……一体どこへ行っているんだ。




 同じ景色を繰り返し進んでいると、なんだか同じ場所をぐるぐると回っているだけではないのかと不安になった。もしもそうなら前を歩くこの男は迷っているのではないか?




 それを悟られまいと無言で進んでいるとか。




「どこへ行っているんですか」




 辛抱できずにやはり口にだしてしまった。




「まもなくです」




 黒スーツの男は一瞥もくれず言い捨てた。




 だが男の言ったことは本当だった。それからおそらくは数分から十数分が経った頃、やはり白いドアの前で立ち止まったのだ。




「ここからはおひとりでお願いします」




「ぼ、僕ひとりですか」




 こんな真っ白い得体の知れないところにひとりで置いていかれることに強い不安を覚える。ここまで誰ひとりとして人間とすれ違うことはなかった。




 つまり、このドアをくぐってもこの景色が永久的に続くかもしれないのだ。そんなことはあり得ないとわかっていながら、無遠慮に頭を占拠するイメージを払拭しきれない。




「あなたは両間に選ばれたのでしょう?」




 不安を口にした僕に黒スーツの男はそのように疑問符を投げた。




 ……選ばれた……。




「そうですね、そうでした。そうです、僕は両間さんに選ばれて、ここへきたんでしたね」




 自分に言い聞かすように同じ言葉を繰り返すと、なんだか自信が戻ってきた。




 これがまた不安に塗りつぶされないよう、勢いのままドアを開ける。




「それでは私はこれで」




 最後に聞こえた職員の声に振り返るが、ちょうど白い光の割れ目が閉じるところだった。




「待って……」




 僕の声は届かず、部屋に閉じ込められた。




 今度は真っ暗だ。それも闇。白一色も精神的に不安にさせたが、黒一色は純粋に怖い。いかなる動物が闇に怯えるすべての理由が、ここに収束しているような……そんな、混じりけのない漆黒だった。




 目を閉じても、開けても同じものが見えている。いや、どちらも見えていない、が正しいだろうか。もはやどちらでも変わらないが、僕の心はたちまち恐怖に支配される。




 この恐怖の正体とは死だ。




 死の世界に僕は放り込まれた。




「誰かー! 誰かいませんかー!」




 たまらず叫ぶ。声は闇の中に吸い込まれるばかりだ。




「おーい! 誰か、誰かあ!」




 鼻がツンとし、目頭が熱くなった。怖い。泣くほど怖い。




 手探りで闇の中を歩き回る。両手を前に突きだし、空間を把握しようとした。




 だがいくら進んでも手は空を切るばかりだし、自分が右を歩いているのか左を歩いているのか、正面を進んでいるのかですら判然としなかった。




「死にたくない……誰か、助けてくれえ!」




 僕はなぜこんなところにいるのだろう。両間に呼ばれて、両間に選ばれたのではなかったのか。これではあんまりではないか。このまま僕は、この暗闇の中で死んでしまうのだろうか。厭だ。絶対にそれだけは厭だ。




「助けてええ!」




 その時だった。




 遠くのほうでぽうっとオレンジ色の光が点ったのだ。




 それは小さく、頼りない光だったが確かに自分以外の存在であることがわかった。




「こっちだ! こっちだ、おおい!」




 あちらから見えているかはわからないが、とにかく僕は両手を大きく振った。少しでも自分がここにいることに気付いてもらいたかった。




 僕の願いが通じたのか、オレンジの光は徐々にこちらへやってきた。




 ゆらゆらと揺らめきながら近づいてくるそれは、無機質なものではなく命の気配がした。おそらく、人だ。




「情けない声だしてるのはどいつだ。返事しろ」




「は……はあい! 僕です! こっちです!」




「こっちこっちうるさいな。ちょっと声だしつづけてろ、場所がわからん」




 鬼火のような光から聞こえる男の声に従い、僕はわああ、と叫び続けた。




 次第に光は大きくなってきて、やがて僕の目の前で止まった。




「なんだ、男か。情けない声だったから女だと思ったぞ」




 光とは提灯だった。近づいてきても眩しくなかったのは、懐中電灯とは違う弱弱しい光だったからのようだ。




「た、助かった……ありがとうございます」




 男は提灯で僕の顔を確かめると今度は自分の顔に近づける。暗闇の中からオレンジ色に照らされたごつい中年男の輪郭が表れた。




「とにかくここからでるぞ、ついてこい」




 そう言った男は大城と名乗った。




 

 

めろん。37へつづく

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