ホラー小説 / クロスワードが解けない①
■彼にとってのストレス発散
今日の出来事を簡単にまとめてみよう。
朝起きて、オーブンでトーストを焼いている間に顔を洗った。
トーストが焼き上がる4分間で寝癖まで直すのは僕の日課だ。
チン、という誰でも毎朝聞く音に今日という一日が始まる合図を感じ、この間スーパーで買ったトーストに塗るタイプのクリームチーズをべったりと塗った。
これだけでももちろん美味なのだが、この上にベーコンを乗せると更に格別になる。
こいつはブラックペッパーとも相性は抜群で……おっと、簡単にまとめようと言ったのに朝食の話だけで終わってしまいそうだ。
ベーコンチーズトーストにレタスと玉子をくるむ話もしたかったが、ここは我慢して先に進めよう。
朝食を取った後は、歯磨きをして会社の制服兼ジャンパーを着込むと愛車のJOGに跨り出勤だ。
ルート責任者の浅倉が僕の顔を見ておはよーさんと挨拶をし、奥の事務所に入ると留山主任が朝刊を読みながらお茶を啜っている。
僕はタイムカードを押して缶コーヒーを買い、それを飲み干すと星野工場長が眉と眉の間を皺くちゃにして僕を睨んだ。
いつものようにおはようございますと頭を下げる僕の横を星野工場長は無言で横切って行った。
もしかして僕は工場長に嫌われているのかなぁ。
気になったけど、そろそろサイレンがなる時間だったので僕はコンベアーの前で待機した。
その後朝礼があって、18時までみっちりライン業務を行うと僕はお腹がぺこぺこだった。
帰りに寄ったコンビニへお弁当を買いに入ると、ついつい雑誌コーナーで本を物色してしまう。
コンビニの若い金髪の店員が大きな声でお客と笑っている。
友達かな? けど、お客さんがいるのにそんな大きな声で笑っちゃだめだろ。
そう思ってレジの方を見ると一瞬目が合ってしまい、すぐに僕は手に持った雑誌を見た。
「あ……」
ここで今日僕が一番伝えたいことが起きた。
立ち読みしていた雑誌の端から見えたのは『月刊クロスワード大賞』。
「しまった! そういえば発売日は今日だった!」
実は僕は毎月この月刊クロスワード大賞を購読している。
一冊に30問くらいのクロスワードパズルが収録されていて、解いた問題によって商品が当たるのだ。
僕はもうクロスワード大賞を購読するようになって10年近くが経っていて、その間にビール券と持っていないゲームのソフトが当たった。
だからこのクロスワード大賞の発売日というのは僕にとってなによりも楽しみなはずだった。
「くー! 馬鹿か僕は!」
だからこそそんな自分を恥ずかしく思った。たった一回でも発売日を忘れていただなんて、なんてことだ!
僕はお弁当とクロスワード大賞を買うとそそくさと店を出た。
JOGが頼もしいエンジン音で僕を乗せ、アクセルを回されるのを待っている。
期待に応えて僕はJOGのアクセルを回し勢いよく加速して道路に出た。
後ろの方で「バイバーイパズルデブー!」と先ほどの若者が悪ふざけで叫ぶのを聞いたが、気分が悪くなるだけなので聞こえないことにした。
そして、帰宅しお弁当を食べながらクロスワードを解いている。
これが簡単にまとめた現時点までの僕の一日だ。
■思いがけない商品
【創刊10周年記念景品】
ページを開くとすぐにそんな文句が紙面を踊った。
「そうかぁ……もうそんなに経つのかぁ」
この雑誌を買い始めたきっかけは、創刊というコピーになんとなく興味が惹かれたからだ。
それで今まで買っているから、この雑誌との付き合いが十年になるってこと。
素直に感動しつつ、特別パズルと称された問題を見ると景品がなんとスクーターだった。
しかもJOGの新型で、鍵についているボタンを押すとメットインが開くらしい。
「うわぁ……欲しいなこれ」
僕の乗っているJOGは、実はクロスワード大賞よりも古い付き合いでもうずっと乗り続けている。
だけど今まで僕の大きな身体を乗せて走り続けてくれたおかげで、ブレーキの効きも悪くなり、走りも元気がなくなってきた。寒い日の朝や夜には中々エンジンがかからないこともままある。
「そろそろ買い替えないといけないけど、お金ないしなぁー……」
と思っていた僕にはその景品は朗報だった。しかし抽選で1名……クジ運悪いからなぁ、僕……。
そう思いながら問題に目を通すと意外と簡単な出題だった。
アニメやゲームの問題が多かったのだ。僕の得意分野だ。よぅし、誰よりも早く解いて応募しよう!
そうすれば少しくらい当たる可能性だって……
そう決心すると僕はクロスワードを解き始めた。
「うわぁ……スラスラ解けるよー!」
僕の大好きなドミグラスハンバーグ弁当に舌鼓を打ち、それをコーラで流し込む。
胃に溜まった炭酸をゲップで吐き出しながら夢中で解く。
■後半になるにつれ困難に……
解き始めて1時間が経とうとしていた。
幸先が良かったから15分程度で解けると思っていたのが終盤で急に問題が難しくなり、思いがけず立ち止まってしまった。
「……うまいこと作ってるなぁ……」
デザートにと買ったクリームプリンにプラスチックのスプーンを突き差し、頭を抱える。
キーワードは12文字。
A~Lに当てはまるキーワードで一つの分を完成させなければならないのだけど……。
「ええっと……、【○○うかど○は○○き○る】か……。まだ結構埋まってないし、なにか答えが分からないなぁ……」
段々とフラストレーションが溜まってきた……イライラする。
もうちょっとでJOGなんだ……くっそぉ~……
続きは明日にしようかと思ったが、中途半端にのめり込んでしまったから引っ込みがつかなくなってしまった。
今日は意地でも解かなければ。
↓↓ クリックで応援お願いします ↓↓
オカルト・ホラー小説 ブログランキングへ
スポンサードリンク
関連記事
-
【連載】めろん。56
めろん。55はこちら ・破天荒 32歳 フリーライター⑪ 広
-
八仙飯店之人肉饅頭 / ホラー映画レビュー
■中国映画 &
-
第3回ショートショートバトルレポート
■3度目の正直 どうも最東です。 今年2月にはじめて開催されたショートショート
-
【夜葬】 病の章 -15-
-14-はこちら &nbs
-
【怪奇夜話】時空のおっさん事件3 / ヴォイニッチ手稿
◆後悔しています どうも最東です。 ここのところシリーズ化
-
ホラー小説 / お見舞い その1
■悪夢は突然に 「卓也! 卓也! お父さんだぞ! ほら、しっかりしろ!」
-
【連載】めろん。39
めろん。38はこちら ・破天荒 32歳 フリーライター⑧ ス
-
【連載】めろん。103
めろん。102はこちら ・破天荒 32歳 フリーライター㉘ 厭な臭い
-
ホラーブログ小説 途中下車
本日も当列車をご利用いただいてありがとうございます。 まもなく、見殺し~見殺しです。
-
【夜葬】 病の章 -25-
-24-はこちら 村の男たちは武器をもち、船坂