ホラー小説 / クロスワードが解けない②
■ムキになる男
「なになに……漫画ジョジョの奇妙な冒険に登場する強敵ディオの能力は……ザ・ワールド!」
答えを埋める。丁度ここにはAのキーワードのマスがあった。
「【ワ】……か。これであと3文字だ」
【わ○うかど○は○くきたる】
あれからもう2時間は経っている。
「う~ん、この五人組のヴィジュアル系ロックバンド……代表曲は「未来航路」……」
音楽のことは分からないんだよなぁ……
僕のイライラはピークに達し始めた。
意地でもインターネットは頼らないでおこうと思ったけど……これは解かなければ寝れない。
「あった! ラクリマクリスティだ!」
これであと二文字。
【わらうかど○は○くきたる】
これは間違いなく【笑う門には福来る】だ。
だけどキーワードを読み解くことが僕にとってのゴールじゃない。
このマスを全部埋めること!
「よぉ―しあと二問、絶対完成させてやる」
■完成したキーワード
Q.カートコヴァーンがヴォーカルを務めた伝説のロックバンド
「ニルヴァーナ……【に】」
残りはあと一問。やっとこれで完成する……。
Q.ドラマ『マルモのおきて』で一躍有名になった子役。芦田真奈ちゃんと?
「えっとマルモのおきて……検索検索……」
子役なんて知ってるやついるのか?
僕はこんな問題が解けるはずがないと思いつつもパソコンで検索をする。
「鈴木福……か」
なんだよ。やっぱり聞いたことがない。
「まあいいや。これで完成……と、【わらうかどにはくくきたる】」
口に出して完成したキーワードを読むと違和感を感じた。
「ん、ちょっと待てよ。【ふくきたる】じゃないの」
【すずきふく】と書いたマスを追う。間違いなく最後の【く】にHの印があった。
「え、違うワードなのかな……」
パソコンで検索するとやはりこの問いの答えは【すずきふく】以外に考えられなかった。
もしかしてどこかほかのところを間違えたのか……?
落ち着いて他の問いを見返してみる。
「これは合ってる……これも合ってる、ここも……そうだよな、これしか考えられないもんな……え? え?」
僕は混乱してきた。
間違いなく全問正解であるはずなのに、【わらうかどにはくくきたる】となる。
もしかしてこれで合っているのかな。
……
………………違う。
どう考えても違う。絶対に答えは【わらうかどにはふくきたる】だ。【くく】ではなく【ふく】だ!
■思いつめたまま朝へ
気づけば外は明るくなっていた。
もう30回は問題をやり直した。
何度やっても【わらうかどにはくくきたる】になる。
時間を見ると5時を過ぎていた。出勤時間が9時だからまだ3時間以上の猶予はあるな。
「確か出版社は東京だったよな」
裏表紙で出版社の名前を確認するとすぐに検索して住所を調べた。
「聞きにいこう」
JOGに乗り、本を出した出版社に向かう。電話をしても取り次いでもらえないだろうし、会社に間に合わなくなってしまう。
早く教えてあげなくちゃ、他の人達も困るし僕が新しいJOGを手に入れることも難しくなる。
「あの、これ作った人誰ですか」
家からJOGを飛ばして40分ほどで会社に辿り着いた僕はビルの前で通る人達に聞いた。
けれど誰も答えてくれない。
「あの、これ作った人誰ですか」
もう30分ほど聞いているが相変わらず誰も教えてくれなかった。
なんだよ……僕がこんなに一生懸命頼んでいるのに誰も教えてくれないなんてどうなってるんだよ……。
「おい、これを作ったのは誰だ!」
「お前知ってるんだろ! これを作ったの誰だよ!」
苛立ちが頂点に達した僕は、とにかく教えてもらおうと声が荒くなってゆく。
ビルに入っていく人達は不快そうな顔で僕を見るがみんな無視をして入ってゆく。
■ようやく見つかる張本人
「おいお前止まれ! これ作ったのはお前か!」
クロスワード大賞の例の問題を見せつけ、通る人に突きつける。
「あ? なんだお前、いきなりなに言ってんだ頭おかしいのかよ」
1人の男性が眉を吊り上げた顔で近寄ってきた。
「お前か、お前がこの問題を作ったのか」
僕は直感で分かった。この問題を作ったのはこの男に違いない。
「は? なに言って」
「ここ! ここがすずきふくの【く】になってる! ここをふくの【ふ】にしろ!」
訳が分からないといった様子で男は「あ?」だとか「はあ」とか間抜けな返事を繰り返している。
「とぼけるな! お前がワザと当選させないようにこんな問題にしたんだろ! 変えろ! 今すぐにここを【く】から【ふ】に換えろ! 」
男はさっきまでの威勢がどこかに行ったのか速足でビルに向かおうとした。
「待て!」
僕は飛び掛かり男を押し倒した。
まだ早いので出勤する人も通りかかる人も少なかったので、僕は今のうちの早く澄まな避ければならないと思った。
これはJOGくんのためなのだ。読者のみんなのためなのだ。
「早く書き換えろ! 僕のJOGが解答を間違えたままの奴に当たってしまう! 早く!」
馬乗りに乗って男の顔に雑誌を押し付ける。
待っていろJOGくん、僕が助けてあげるからね。
「ち、違……俺はこんな……」
男がこの期に及んで言い逃れをする。
「ペンを貸してあげるから早く直せ!」
ボールペンを手渡そうとすると、男はジタバタするだけで一向に取ろうとしない。
「ああっ! ちゃんと取れよ!」
イラついた僕は顔に被せた雑誌にペンを突き立てた。
「っぎゃああああ!」
「早く書き直せ!」
一回で突きたたなかったので何度も同じところを刺し続けたらようやく、刺さった。
「助けてくれええ!」
男はじたばたする。じたばたするくらいなら早く直してくれたらいいのに。
「すずきふく! すずきふく! 【ふ】だ! 【ふ】!」
突き刺さったペンを奥へ奥へと刺し込む。
「ひぎゃああッッ! あ、ああ!」
朝のビルに男のうるさい声が響く。
「うるさい! 人が来るだろ! 早く書け! 書け! 直せ!」
男の頭を持ちあげて地面に叩きつける。なぜそんなことをしたかというと、ふるふると震えるだけで静かになったからだ。
開き直ったのか、その態度に余計僕は腹が立った。
「すずきふく! ふく! ふく!」
ゴン、ゴン、ゴン、という音が楽しくて僕は少し笑ってしまった。
くっそう卑怯だぞ、笑わせて怒りを分散させるつもりだな。
「ふざけるな! 僕は大まじめだ!」
ゴン、という音がぬちゃ、という音に変わり、僕は機嫌が直った。
「よおし、じゃあ書き直してください。ペンはそこにありますから……ねぇ、ねぇって」
僕はハッとなった。もしかして死んだのか?
「うわあ!」
クロスワード大賞から滲む血に驚き尻もちをついた。
「きゃあっ!」
偶然そこを通りかかった女の人が血を流して倒れる男の人を見て悲鳴を上げた。
よかった! この人に頼もう!
「あの人、クロスワードが解けなくて死んじゃったんです! 警察を呼んでください!!」
【読者の皆様へお詫び
この度は当誌【クロスワード大賞】をご購入頂き誠にありがとうございます。
先月号の特集問題①(商品は原動機付自転車『JOG』の新型)に於いて、
Hのマスがずれており、意味の通じない言葉になっていたことをお詫びいたします。
本来は【わらうかどにはふくきたる】と完成しなければならないところ、【わらうかどにはくくきたる】となっておりました。
読者の皆様には多大なご迷惑をおかけいたしましたことを心よりお詫び申し上げます。
今後はこのようなことが内容にスタッフ一同徹底して参りますのでどうか今後のご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。
大変申し訳ありませんでした。
(この問題の解答を今回に限り【わらうかどにはふくきたる】【わらうかどにはくくきたる】の両方を正解として抽選させて頂きました。ご了承ください)
当選者に関しては巻末に記載して……】
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