怪紀行青森・死者と生者が邂逅する幽世 恐山
■生きているうちに絶対訪れたいスポット№1
どうも最東です。セコムしてますか。
ホラーに生き、ホラーと共に死す……かどうかは置いておいて、ホラーで飯をガツガツ掻き込んでいる人間にとって、聖地といえる場所があります。
それは恐山!
誰もが知る霊山で、黄泉の景色が広がるパワースポットです。
富士山、阿蘇山、恐山、日本の山ベスト3です。
……と、最東は思っていたわけですが、なんと私の嫁氏は恐山を知りませんでした。
中学生の愚息が鼻ほじりながら「おそれざん?」と半分空気が抜けた声でぬかしやがるのはまあいいんです。
大人が恐山知らないってあり得るのかよォオ!とかなりショックでした。
(嫁氏曰く、「恐山はあんまり有名じゃないから知らない」だそうです。ころす)
さて、それはそれとして、ずっと憧れ続けてきた青森県むつ市にある恐山に行ってきました。
ケイブンシャの大百科シリーズのオカルトものが大好物だった最東。幼少のころから、恐山には並々ならぬ興味と関心がありました。
「恐山! Oh! いたこじゃんね!」
という反応をする人は多いのでこれもころす。ぜんごろし。
いたこ目当てじゃないんです。というか、いたこなんていませんでした。
本や映像などで、どんなところかは知っていたつもりでしたが、実際訪れてみるとどんな感じなのだろうというのは、ずっと昔から思っていて、40歳を超えてようやく体感することとなりました。
どんなところかというと……
■日本三大霊山の一角
ひと言で感想は言えないけれど、それでも捻りだしてひと言で完結するのならば、『異界』という言葉が最も相応しい。
そのくらい、現世と隔絶しているように感じました。
日本の山ベスト3といういい加減なランキングを発表しましたが、恐山はれっきとした『日本三大霊山』のひとつ。滋賀(京都)の比叡山、和歌山の高野山とほかのふたつが近畿地方にあるのに比べ、本州最北端の青森にある恐山は名実ともにほかの霊山とは一線を画します。
青森県の人は昔から、『死んだらお山さいく』と言い伝えられていて、この〝お山〟というのが恐山のことを指します。
宇曽利山湖(うそりさんこ)の湖畔にある恐山菩提寺と、それを囲む外輪山。これら一帯の霊場を恐山と呼ばれています。
先述しましたが、世間に広く知られるようになった一端は死者の魂を自らの体に降ろす〝イタコの口寄せ〟なのは間違いありません。
一時期はブーム化し、イタコ目当てに訪れる観光客でごった返していたことも。最東がまだ小さかったころに、過熱したイタコブームを特集したテレビ番組を何度か観た記憶があります。
イタコの減少と共に、ブームが鎮火したあとは霊山として神聖な恐山、というイメージが全国的に定着したように思えます。
■死者と出会う場所
恐山は立地もかなり特殊です。
外輪山に囲まれた霊場は外部から見えない構造になっており、それゆえにこの世から隔絶されたような錯覚を覚えるのだと思います。
三途の川をはじめとした、荒涼とした景色は死後の世界を思わせますが、すくなくとも『極楽』ではないと確信するでしょう。
ならば地獄か?
といえば、それも答えに窮します。
あえて言うのなら、無。虚無に近い境地と言っていいのかもしれません。
しかし、この喩えは非常に語弊があります。なにもないわけではなく、においも風も景色も建物も人もいる。だけど、ただただ虚無がそこにあるような気がしてしまうのです。
その原因のひとつになっているのが、静寂ではないでしょうか。
恐山霊場は、驚くほどに音がありません。もちろん、観光客が多ければ、彼らの雑踏であったり、話し声が聞こえることもあります。
ただ、生き物の気配であったり、鳥の鳴き声、はたまた風のそよぐ音、なにもかもない。
宇曽利山湖は湖なので波音がしないのは当然としても、いくらなんでも静かすぎる。
その中で、硫黄の臭いと、あちこちから立ち昇る温泉の湯気。
そして、辺り一面白、白、白の景色。空を映す湖面がさらにこの世の白さを際立たせていて、なるほど、旅人が迷い込んだとすれば、ここが死の国と錯覚するのも無理はないでしょう。
他にも参拝客いるはずなのに、どういうわけか自分の息遣いと足音しか聞こえなかったり、静けさの中で佇むお地蔵様、仏像、祠、積み上げた石……
霊場内にはまさに地獄を模した場所がいくつもあり、無間地獄、血の池地獄、地獄谷があります。
しかし、もっとも印象に残るのは賽の河原ではないでしょうか。
親より早く死んでしまった子供が、積み上げると親に会えるといわれる石を一心不乱に積み、だけど積み上げられる寸前で鬼に崩される。それを繰り返す、三途の川の河原。
恐山にはアイコンとなる要素がいくつもありますが、その中でも風車は特に印象的です。
風もなくくるくると回る風車、羽根がなくなってしまい棒だけのものや、地べたに落ち、壊れてしまっているものもあります。
地獄。
ここにある地獄は、この世で最も悲しい地獄なのです。
まさにここは『異界』であり、誰もが死後にたどり着く『黄泉の国』というのにぴったりの場所でした。
■温泉地としての顔
恐山菩提寺の境内には、参拝客なら無料で入浴できる温泉が設置されています。
全国的に見ても、寺院の境内に温泉施設があるのはここだけじゃないでしょうか。ただし、11~4月の冬季閉山中の入浴はできないとのこと。
恐山はもともと温泉地として有名だったそうです。
硫黄のにおいもロケーションと相まって不気味に思えますが、温泉といえば硫黄のにおいがするのは当然なので、考えてみると不思議ではありません。
実際、霊場のあちこちで温泉が湧きだし、ぼこぼこと湯気立たせていますし。
残念ながら時間的な余裕がなくて、最東は温泉には入りませんでした。次に訪れる機会があれば……やっぱり入らないかな!(水風呂がセットじゃないと厭な男)
聞くところによると、霊山として今のように知名度を高めるはるか以前では、男女の出会いの場でもあったとのこと。社交場としても機能していたのかもしれません。
恐山の白く乾いた景色も、もともと昔は宇曾利山湖だったそうです。山頂からの水路が災害によって塞がれ、今の水位まで湖が枯渇し、その後で別の水路が通ったそう。
しかし、以前の水位まで戻らず、もともと湖だった土地は硫黄を含んでいたせいかそこから植物などが育たず今の景色が出来上がったそうです。
知ってみれば「なるほど」と思いますが、そんなあらゆる偶然と必然のめぐり合わせで恐山は死者と出会う霊場として出来上がったのですね。
いつか、また訪れたい。まさに〝ここに来なければ感じないこと〟がある、唯一無二の霊山でした。
人は死ねば、恐山に行く。
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