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【連載】めろん。28

公開日: : 最終更新日:2019/10/15 めろん。, ショート連載, 著作 , ,

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・大城大悟 38歳 刑事④

 暗闇の中で俺はプリキュアのテーマ曲を繰り返し聴かされていた。

 尻からは細かな振動が伝わってくる。手は縛られていて、自由が利かない。

「プリキュア♪ プリキュア♪」

 娘の楽しそうな歌声としわがれた声が重なる。しわがれた声の主は両間だ。

「パパぁ、おじいちゃんが飴くれた!」

「こらこら、パパはいまネンネしているからね。起こしちゃだめだよ」

 不満を漏らす娘をなだめる両間の声は慣れたものだった。

 不本意だが両間に合わせて俺は口を開かず、寝たふりをした。縛られた手も娘に見えないよう、太ももの間に挟んだ。

 俺の目には透過度0の……つまり、真っ黒でなにも見えないサングラスをかけられ、どこを走っているかわからないようにされていた。

 さらに目をつぶって眠ったふりをしろとも。

 腕は縛られているといっても親指同士をインシュロックできつく縛られているだけだ。その気になれば簡単に解くことができる。

 だがいずれもそれが問題ではない。要は制約の緩さではなく、それをしたことでどうなるかわかっているだろう? という精神的な制限が目的なのだ。

 車の後部座席には俺と娘、そして芙美が乗せられていた。

 芙美は俺のように自由を奪われていないが、この状況では俺とそう状況は変わらない。

 そして、助手席には両間だ。運転は両間の部下がしている。

 この車の後ろにも公安の車がついてきている。仮に俺が暴れてこの車を脱出したとしてもすぐに捕縛されるだろう。呆れた念の入れようだ。

「……どこへ行くんですか」

 芙美が俺の代わりに訊ねた。

 俺は両間の許しがでるまで声を発することも禁じられていたからだ。

「そりゃあ、おもてなしですよ奥さん。ほら、滝川クリステルもやってたでしょ? お・も・て・な・し、ってね」

 わざとらしく笑う声。俺にとってはまるで笑っているようには聞こえず、背筋に寒気だけが走った。

 公安が俺の家にやってきた後、すぐに俺たち家族三人は下に停めていた車に乗せられた。その際、俺だけが自由を奪われた。

 逆らうだけ事態を深刻化させると感じた俺は、素直に従った。芙美も俺の様子を見て大人しくした。娘の桃子はまだ小さいので事態など呑み込めさえしない。

 卑怯。その卑劣だ。

 両間という男の本性を見た。牙を全部抜いてから、ガラスケースの餌を眺めさせながら餓死させるような、一種の快楽主義者の匂いすらする。

「桃子ちゃんは明るくてかわいいねえ、おじちゃんと結婚するかい」

「いやだ! 桃子はパパが好きだもん」

「あらま、振られちゃったねえ。どこがいいのかなぁ、こんな嘘吐きの」

 ひぇっひぇっひぇっ、という愉悦に満ちた笑い声が木霊す。娘になにかしたら、俺がどうなろうともこいつを殺してやる。

 声にだせない憎悪を奥歯に乗せ、ギリギリと噛んだ。

「おもてなし、ってなんなんですか。どこに連れていかれているかもわからず、平常心じゃいられません」

「勇ましいなあ、奥さんは。意外とかかあ天下なんですかねぇ、大城刑事のおたくは」

「はぐらかさないで!」

「怖い怖い、奥さん……言ったじゃないですか。おもてなしですよおもてなし。大城刑事にはいつもお世話になっているもんでねぇ、とっておきの場所にお連れします。それこそ、あの女子高生も大喜びだった」

「なんだと!」

「あっ!」

 桃子の声。

「桃子! 貴様、なにを……」

 しーっ、と両間の声がする。気付くと車内は静寂に包まれていた。

「プリキュア止まっちゃったー」

 再び桃子の声がした。どうやら急にBGMが停止したことに驚いただけのようだ。

「勝手にしゃべっちゃだめじゃないですかあ。今回だけですよ、大目に見るのは」

 膝のあたりになにか固いものが当たっている。

 芙美がなにも発しないということは、なにか物騒なものに違いない。両間の言う通り、これ以上は迂闊なことは言えない。

「……」

「わかってくれたようで嬉しいですよ。大城刑事」

 膝からそれが離れると再びBGMが再生され、桃子がはしゃいだ。

 それから何時間走っただろうか。

 桃子の寝息が聞こえてしばらくしたころ、ようやく車が止まった。

「ご苦労様でした」

 両間の声と共に目隠しとインシュロックを外され、俺たちは外にでた。

「ここは……」

 ずっと目隠しをされていたせいで真っ暗闇の中でもうっすらと景色が見える。

 草木のざわつく音と風に乗って鼻先を漂う土の匂い、そして森の姿。その中にぽつんと脈絡もなく黒いセダンが二台停まっていた。

「桃子ちゃんは奥さんが抱いてくださいねえ、大城刑事、こちらへどうぞ」

 両間たちはライトもなく歩きだした。芙美がついてきているのを確認しながら俺はそれについてゆく。

 ここはどう考えても山だ。

 走っていた時間から、近場ではないことは確かだ。むしろ広島でない可能性が濃厚だ。

「こんなところに連れてきて、どうするつもりなんですか」

「あ、もしかして殺されて埋められちゃう、とか思ってる?」

 嬉しそうに両間がはしゃぐ。はぐらかされるたび、怒りとも呆れともとれるストレスが俺の胃を締め付けた。

 腐っても警察組織の一員だ。いくら見るからに怪しいところに連れてこらえたからと言って、乱暴なことはされない。それだけは確信がある。

 だがこの両間という男についてはどうだろう。

 本当にこの男は――

「大城刑事、お待たせしましたね。ここがおもてなしの場ですよ」

 俺の思考を阻むような両間の声に顔を上げた。

「え、なにここ……」

 驚きで声がでない俺の代わりに芙美がつぶやいた。

 そこには巨大な――

めろん。29へつづく

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