オカルトマニアこの画像なに? / ホラー小説
■コーヒー
オフィスに残って残業をしていた。
パソコンを睨みながら、カタカタと乾いたキーボードの音だけが誰もいないオフィスに響いている。
虚しい。
そう思いながらも、画面に映し出されるプレゼン資料を眺め、冷めたコーヒーを一口飲んだ。
はぁ……、重く床に垂れ下りそうな溜息はただ変わり映えのしない景色に溶け込むだけで、誰の耳にも届かない。
『自由な社風。アットホームな会社であなたも働きませんか』
などという歌い文句に騙されて入社したのが1年前。
自由でアットホーム……。
まぁ間違いじゃない。
基本的に自由で、特に規則に縛られない会社。
しかし、自由な反面個人に降りかかる仕事の量は充分に時間を拘束する。
つまり、だ。
『仕事さえこなせば自由。誰も強制はしないが責任の重い仕事を科せられる会社』
という言い方もできる。
社員も少なく、当然そうなればなんでもかんでも兼業になるわけで、それでは一日の基本就業時間ではこなしきれなくなるわけだ。
で、『自由な判断で残業』となる。
自由な判断ということはどういうことか?
『指示なく残業した時間』は、残業時間として認定されなくなる。
なんといっても、それは『勝手に残った』のだから。
外れくじを引いた気分で俺は冷めたコーヒーを飲み干した。
■好奇心
アットホームで自由。
それは、社内ルールも同じことが言えて基本的に固い規則はない。
服装も自由だし、会社でスマホを充電したり合間にネットをしたりするのも別段咎められたりはしない。
そうなると、作業の合間にちょくちょくこうやって息抜きがてらにネットサーフィンをしたりもする。
ちょっとのつもりがついつい長時間やってしまう……というのは、誰しも陥りがちなことだとは思うが、俺自身も同じだった。
ついついやり過ぎてしまった。
『オカルトマニア この画像なに?』
そこに辿り着いたのは偶然だった。
なんとなくのネットサーフィンでつい好奇心に負けて見つけてしまった【検索してはいけないワード】
その中にあったのが、この『オカルトマニアこの画像なに?』というワードだ。
残業のストレスにあてられた俺は、ついつい【検索してはいけないワード】を片っ端から検索する。
どれもこれもおどろおどろしく、気味の悪いものばかり。
グロ画像や、驚かし画像。意味が分かると怖い話など……。
バラエティに富んだそれらを、時折笑ったり引いたりしながら見ていると、少しの時間を忘れることができた。
そして、『オカルトマニアこの画像なに?』だ。
なんでもない、白いマンションの中階から各階を横顔のように撮ったなんでもない写真画像。
■あっと驚くはずの画像
よく見るとその画像の中、正面の階に人影が見える。
それをじっと見つめていると、二人の女性とその奥に不可解な影。
「なるほど心霊写真か」
と呟きながら凝視しているも、なぜこれが検索してはいけないのかわからない。
頭上に疑問符を浮かばせながら俺はいつまで経っても意味の分からない画像を見るのをやめ、『オカルトマニアこの画像なに?』という検索ワードを更に調べてみた。
そうすると、どうやらこの画像は人影をしばらく見つめていると気味の悪い真っ白な顔がドアップで突然現れるらしいということがわかった。
「けど、そんなの出てこなかったけどな」
GIFをちゃんと読み込まなかったのか。それともただの静止画だったからなのか。
ともかくとして、俺の身にはなにも起こらなかった。
■もう一度、見てみよう
俺は、ネタを知っている前提でもう一度その画像を見てみた。
今度は違うURLでの画像だ。
「……」
やはりなにも起こらない。
「記事が古いのか……」
別に期待していたとかではないが、みんなが騒いでいたものを自分だけ体験出来なかったのがどうも気持ちが悪い。
「どこかに生きている画像はないもんかな」
次々と同じ画像を探してはにらめっこをする。
「うーん……」
どれだけ探して見てみても、ギミックが発動されることはなかった。
「もうあきらめようかな」
そう呟いた俺は、諦めてそろそろ仕事に戻ろうとブラウザを閉じようと×マークをクリックする。
「……?」
クリックする。
「固まった」
読み込みなのか、ブラウザが閉じられずに固まってしまった。
「まいった、データ消えるなよ」
このままフリーズしたままならば強制終了を余儀なくされる。
そうなれば、残業してまで作ったデータが全て消えてしまう。
ここまで残ったのに消えてしまっては、ちょっと立ち直れなさそうだ。
「頼むってマジで……」
祈るようにパソコンの画面を見詰める。
フリーズしているため、最後に表示させた例の『オカルトマニアこの画像なに?』のマンションが映ったままだ。
「検索したらいけないってあれほどいったのに」
「え?」
突然、近くで女性の声。
振り返ると俺の背中のすぐそばに写真に写っていた女性二人と影が立っていた。
「うわああ!」
「検索しちゃいけないってわかってたのに、検索したってことは……」
そこから先の言葉をその女性は言わない。
それよりも恐ろしいのは、等身大のその二人は写真と全く同じで、画素の粗い写真を無理矢理引き伸ばしたようなぼやけた姿だったのだ。
しかも、まったく立体感がなくペラペラの紙のようでもあった。
ペラペラの二人は、俺に迫るとそのまま俺の身体を押し込み……。
それで、今この二人と一緒にお前を見ているというわけだ。
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